「というわけで―――姉さん、事件です」
「何よ、いきなり」

 なっ……!?
 何を言うとりますですかっ。

「今世紀最大の事件ですよ?」
「だから、何がよ」

 こ、この期に及んでシラを切るつもりですかそうですか。
 月に代わって家裁に訴えますよ?

「祐一さんです」
「相沢君がどうかしたの?」
「…………」
「栞?」
「ちょあーっ!!」
「きゃっ」

 『きゃっ』なんて、いい声で啼くじゃねぇか、姉ちゃんよぉ?

「栞っ! いきなり雷神拳は止めなさいって何度言ったらわかるのっ!!」
「へへっ、そう簡単には止められるシロモノじゃありませんのだっ。―――そう、それはまさしくクスリの如くー」

 香里の姐さんの『その発言はヤヴァイ』という忠告をありがたくスルーしときながら説明しよう!
 雷神拳とは、所謂『ファニーボーン』を殴打する事によって相手に電気ショックを与える、美坂家一子相伝の奥義なのだっ。

「―――で、相沢君が何なのよ」
「くっ、そうやっていられるのも今のうちですよ」
「いいから教えなさい」

 こ、これほどとは……。
 しょうがありません、ここはアイスの女神に誓って親切で可愛い妹が教えてあげましょう。
 ……け、決してお姉ちゃんの圧力に負けたわけじゃナイヨ?

「いいですか、お姉ちゃん。耳の穴かっぽじってよく聞いてください」
「はいはい、で?」
「なんとっ」
「なんと?」



「祐一さんが、ウチのお風呂に入ってるんですっ!!」



 ……決まった。
 恐ろしいまでのエクスタシー。
 ちなみに、某新喜劇のテーマソングではありません。って、誰も訊いてませんか。
 何でここ、美坂家のお風呂に祐一さんが入ってるのか、とか野暮な事は言いません。
 理由はただひとつ―――説明面倒だからっ!!
 それだけで察するのがいい大人ってもんですよ。

「えぇっ!!」

 ふっ、流石の姉上もこの事実にはサプライズりましたね。
 当たり前田のラリアットです。悶絶。
 この私でも二日は余裕で哲也できるぐらいの衝撃でしたから。筑紫。
 流石、私のBlack winter night。
 私の人生にSabbathなど存在しないのですっ。
 おぉっ、何か英語が混じってバウリンガル。

「―――って驚けばいいの?」
「はい…?」

 気分はサプライズ。

「そんなこと知ってるわよ―――っていうか、あたしが入るように言ったんだけど」

 Shiori in the surprise.
 直訳は厳禁ですよ? 雰囲気掴め。

「……そんなことより、どうしてお姉ちゃんはそんなに冷静でいられるんですか!」

 こうやって要所要所流していくのが一番利口な世渡り方法ってやつです。恐らく。

「冷静って、どこに冷静じゃなくなる節があるのよ」
「だって、祐一さんがおおお、お風呂に入ってるんですよ?」

 これは特攻かけろと天が言ってるに違いありません。

「はいはい、落ち着いて」
「これが落ち着いていられるかぁってんだっ!!」

 隠しスキル、似非江戸っ子発動。

「お風呂ぐらいゆっくり入らせてあげなさいよ」

 かぁっ…ぺっ!
 騙されてる、騙されてますっ! お姉ちゃん!!
 いくらバファリンの半分が優しさで出来ていようと、所詮は薬だってことに気付くんです!!

「というわけで、逝ってきます、姉さん」
「待ちなさい。今言ったばかりでしょ? ……っていうか、その姉さんって呼び方止めろ」
「……あぁ、急に体が冷えてきましたっ! これは早くお風呂で暖めなければ!! ……というわけで、逝ってきます、姉さん」
「体が冷えてるなんて、アイスで慣れっこでしょうが。……つか、喧嘩売ってる?」

 一進一退の攻防。
 しかし、私はこんなとこで倒れるわけにはいかんのですよっ。

「……お姉ちゃん。私、祐一さんがいたから生きよう、って思ったんです」
「栞……」
「そんな私が、少しでも祐一さんの傍にいたいって思ったら、ダメですか……?」
「……わかったわ。あなたがそこまで望んでいるなら、あたしは止めないわ。……いえ、止める権利なんてないわ」

 お姉ちゃん……。

「そんなことない……っ! そんなことないよ、お姉ちゃん……」
「いいのよ、栞。あたしはそれ以上のことを栞にしてきたんだから……」
「違うっ! お姉ちゃんは私のお姉ちゃんだから、私が間違ったら正してくれないとダメだよ!!」
「栞……」
「だって、それに……」

 それに、さっきのは―――。

「―――さっきのはただの建前だから、お姉ちゃんは気にしないでいいんだよっ!!」
「……ありがと、栞。何だか清々しいほど騙されたわね」
「そうだよ、お姉ちゃんったら本気にするんだもん」
「あたしもまだまだね」
『あっはっはっ!!』
「―――ところで栞、あたしの心の奥底に渦巻いてる黒い感情は何かわかる?」
「あぁ、それがお姉ちゃんの本音だよ。大人って怖いね」
「そうなんだ。教えてくれてありがと、栞」
「そんな、礼には及びませんよ」
「そっか、本音なんだ。それで、あなたの本音は何なの?」
「本音も何も、私はお風呂場へ特攻しろという天啓に従おうとしてるだけですよ」

 そう、あれは神の啓示なのです。
 いざっ、Revelationっ!!

「では、お姉ちゃん。逝ってきます!!」
「……もう勝手にしなさい」

 ――ガララッ―→

「―――祐一君、どう? 気持ち良い?」
「あっ……。お、お母さん、そこはっ……!!」

 ←―ガララッ――

「…………」
「あら? 栞、どうしたの? 難しい顔して」
「……お姉ちゃん」
「何よ」
「……やはり、時代は人妻なのでしょうか?」
「……は?」

 ……いやね、こんなオチ予想してたけどね?
 実際、劇場版生リアルでやられるとね? アレですよ。
 ……結構キツいっす。












 もう、何が何だか。



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