夜空に浮かぶ無数の星の光を拾い集めて。 今日も私は貴方の事を思い浮かべましょう。 楽しかったあの日々を。 嬉しかったあの日々を。 共に苦しんだあの日々を。 共に笑いあったあの日々を。 共に戦ったあの日々を。 幸せだったあの日々を。 貴方を思い浮かべて、私は星の光を拾い集めます。 貴方を思い、拾い集められた星の光は。 きっと私の道を照らしてくれる事でしょう。 一つ一つは小さな光でも。 まだ小さいこの光でも。 貴方を思い一つ一つを大切にするように。 一つ一つを大切にすれば。 やがて、その光は月にも勝るでしょう。 太陽のように力強い光ではなくとも。 優しく包み込んでくれる光は。 きっと、私達を優しく包み込み、これからの私達を祝福してくれるでしょう。 そして、きっと貴方にも届く事でしょう。 貴方で出会うその日まで。 私は星の光を拾い集めましょう。
 静かな夜。  月が出ていた。まん丸で大きな月が。  森に潜む動物達が眠りに落ち、そして草木達でさえ眠りに落ちている時間。  しんっと静まり返り、柔らかな風が吹くのみの場所。  昼間は合戦の最中だが、今は月が優しく光を放っている以外には何もない。  この時間では合戦をしようにも、敵と味方の区別さえも付かないであろう。  だから、兵達は明日に備えて休養を取っている。  しかし、カルラは大きく丸い月を肴にして、小さな岩山の頂で酒を飲んでいた。 「あるじ様……」  優しい光を放つ月を見上げ、静かに酒を注ぎそれを飲み干す。  小さくしたその動作を何度も何度も繰り返していた。  飲み干しては月を見上げて何かを思い出すように目を細める。  見上げる月はただ静かに光を放つのみであった。 「カルラ殿……こちらでござったか」  小さな岩山の麓にトウカが息をはずませて立っていた。  カルラは苦笑してそちらを振り向く。  想像していた表情通りだったトウカの表情にカルラは笑みを一層深めた。

戦場で歌う鎮魂歌

 トウカはカルラの手の中にある酒瓶を見て顔をしかめる。  カルラはそれを見てころころと声を出して笑い出した。 「安心してくださいな。これはちゃんと買ったもの前のように貴女を売りに出してはいませんわ」 「あ、当たり前です!」  安心して良い様な、それとも怒ったほうが良いのか分からないといった表情でトウカはカルラに声を返す。  カルラは笑った後に視線をトウカからはずして月を見上げた。  その行動にため息を漏らすトウカ。 「……しかし、この時間にお酒を飲むとは珍しいですね」 「こんな時……だからですわ」  何かを思い出すように、カルラはトウカの顔を見ずに答える。  トウカは見上げるのが辛くなったのか、それとも興味に誘われたのか分からない。  何となくで、カルラの横に来ていた。  隣に来ていなければ分からないような声で、カルラは呟く。  それも隣に来ていることを予測していたようなタイミングで。 「あるじ様とはよく月を見上げてお酒を飲んだものですわ……」 「聖上と……」  トウカはチラッとカルラの表情を盗み見る。  その表情は信じられないほど穏やかなものだった。  見続けるのは失礼とばかりに顔を正面に向ける。  そして、カルラに習うようにトウカも月を見上げた。  今は居ない2人の共通の人物を思い浮かべて。 「……貴女もお酒を飲みなさい」 「某は……」 「こんな良い月ですもの、一人で飲むのは月に失礼ですわ」  そんなカルラの言葉に、押されてトウカは杯を受け取る。  注がれたお酒をゆっくりと飲み干した。  お酒は苦手なトウカだが、今回ばかりは付き合おうと思ったようだ。
幾つもの夜を過ごして。 私は貴方の為に涙を流しましょう。 私の優しい思い出のたびに。 共に駆けた日々を思い出しながら。 貴方の姿を思い浮かべるたびに。 もう戻れない日々を思い出しながら。 私の込めた貴方の想いのたびに。 共に過ごした優しい日々を思い出しながら。 私は貴方のためだけに涙を流します。 貴方を思い、流された私の涙は。 きっと私を慰めてくれるでしょう。 今は少しの涙でも。 幾つもの夜を重ねれば。 貴方を思う夜を重ねれば。 やがて、河になり貴方と私を繋ぐ道しるべになるでしょう。 幾億もの夜を重ね、現世でも、来世でも。 決して私は貴方のこと忘れ無いでしょう。 再び貴方と出会うまで。 私は涙を流し続けるでしょう。 私の為に。貴方の為に。 優しい涙を流し続けるでしょう。 例えどんな事があろうとも。 貴方と再び巡りあうその日まで。 私は涙を流しましょう。
 カルラは月を見上げていた。  すでに酒瓶は殻になっている。  いくつかの涙が、その瞳から滑り落ちた。  月から放たれる優しげな光がそれを包み込んでいるように光が反射している。 「う、う〜ん」 「フフフ、今日は貴女のお酒の弱さに助かりましたわ」  トウカを見る訳でなく、月を見上げたままカルラは呟いた。  その声は穏やかで、少し楽しげなものだ。  泣き笑いのような微妙な表情。  カルラの横では少しのお酒で酔いつぶれたトウカがなにやら幸せそうな顔で眠っている。  多分、幸せな夢でも見ているのだろう。 「こんな見っとも無い所を見られずに済んだのですもの」  苦笑とも呆れとも付かない笑顔で月から視線をトウカに移した。  そして、トウカを担いで岩山から静かに降り始める。  もちろん、酒瓶を忘れるなんて言うへまはしない。  器用に酒瓶とトウカを担いで岩山から降りていた。 「いつもなら放って置きますけど、今日は特別ですわ」  静かに岩山から下りながらカルラは呟いた。  その声が聞こえるわけもなく、トウカは心地よい眠りの中に居る。  静かに、静かに移動をするカルラ。  何と言ってもこの場は戦場のど真ん中。  いくら注意を払っても、お釣りが帰ってくることは無い。  どこに敵が潜んでいるかも分からない場所なのだから。 「明日はもっと、厳しくなるのでしょうね」  その言葉は、今の合戦の厳しさを物語っていた。  傭兵として渡り歩く二人。  その二人が居る世界は辛く厳しい。
幾つも昼を過ごして。 私は貴方が残した想いの為に剣をとりましょう。 力の無い人々の為に。 不毛な争いを終わらせる為に。 貴方のいた世界を護る為に。 貴方との思い出を忘れない為に。 貴方が守った人々の為に。 私の思い出の為に。 私は貴方が残した想いの為に剣を取ります。 剣では人を救うことは難しいことを知っていても。 例え少しの命しか救えなくとも。 少しでも多くの命を救うために。 私は剣を振るいましょう。 やがて、生まれてくる新しい命の為に。 身を粉にして人のために働いた貴方の為に。 貴方の意思を無駄にしないために。 私は剣を振るい続けるでしょう。 力なき人々の為に。 剣を振り、不敗で居るでしょう。 例え私の身が朽ち果てようとも。 貴方と出会えるその日まで。 私は剣を取り、不敗で居ましょう。
 太陽が昇り、あたりに光が差し込んでくる。  夜の静かな空気が一転して、荒々しく、容赦のないものになっていた。  いたるところで兵と兵がぶつかり合い、憎しみ合う声が聞こえてくる。  有能な指揮官が居ない為に戦場は膠着しつつあった。  それに伴い、戦線が広がり戦場近くの村が襲われ始めている。 「カルラ殿!」 「分かっていますわ」  戦場近くの村から火の手が上がり、力の無い民が逃げまとっているのが見える。  2人は急いでその場に駆けつけた。  火の手は既にどうしようもないほどになっており、もう村を棄てるしか生き残る方法はない。  家が焼ける匂いと、獣が焦げるような匂いがあたりを包み込んでいる。  酷く、凄惨な場面だった。 「酷い……」 「何を呆けているのです?」  あまりの地獄絵図に、トウカが呆然とその光景を見入ってしまった。  カルラはそれを叱責する。  ここは呆ける場面ではないと。 「それで貴女は誇り高きエヴェンクルガの一族ですの!?」 「あ……」 「貴女は民を先導することに意識を集中しなさい」  民はどうしようもないほど混乱しており、殆どが呆けるように火の手を見ているだけだった。  その呆然とした民に兵は容赦なく襲い掛かる。  もう、この場に民がいてはただ殺されるのを待つだけになっていた。  トウカは自分も残るべきだと思い、口にしようとする。 「しかし……」 「あなたの言うことなら民は静かに従うでしょう? 私は殿を勤めますわ」  そう言って、カルラは駆け出す。  民に攻撃する敵兵に向かって。  呆気にとられるトウカにカルラの呟きが聞こえた。 「貴様達に、あるじ様の望んだ世界を壊されてたまるものですか」  トウカははっとして自分の成すべき事に取り掛かる。  鉄の塊と言って良いほどの愛剣を振り回し、兵の群れを引き裂き、すりつぶす。  いきなり現れたカルラに兵達は動揺していた。  引き裂かれ、潰された自分達の仲間を見て悲鳴を上げるものもいる。  しかし、撤退することもなく遠巻きにカルラを見ていた。  兵の勢いが途切れた時にトウカの澄んだ声が響く。 「生きている者はこちらへ! 某が安全な場所まで案内いたす!」  トウカの視線がカルラに流される。  カルラはそれに満足したように頷いた。  弾かれたように、生きていた民がトウカの元に集まってきた。  トウカは、すぐに先陣を切って村から戦線が広がっていない方向へと民を先導して行く。 「カルラ殿! 後は任せました!」 「分かっていますわ。ではまた後で」  信頼した声をカルラに渡し、カルラも信頼した声をトウカに渡す。  トウカが民を先導するのをある程度、見届けてからカルラは視線を向かってくる兵達に向ける。  ひるむことなく突き進んでくる兵達。  カルラの顔には凄惨な笑みが浮かんでいた。 「貴様達はオイタが過ぎましたわ。そのツケを今払ってもらいましょう」  トウカがまだ生き残っている民を連れて走り去るのを感じ取りながらカルラは軽く息を吸う。  カルラの手による一方的な戦いの始まりだった。
幾千もの戦場を渡り歩いて。 明日は貴方の望んだ未来を描きましょう。 私の力は微々たるもの。 それでも私は、貴方の残してくれた想いを。 そして、描こうとした未来を見ていたい。 誰もが笑いあえる世界を。 誰もが仲良く暮らせる世界を。 誰もがいがみ合うことなく。 誰もが憎しみあうことなく。 誰もが悲しみを振り撒く事の無い。 誰もが幸せに暮らせる世界を。 そんな貴方の望んだ未来を描きましょう。 私の力は小さくとも。 少しづつ、貴方の描いた世界を書いていきましょう。 小さくとも。 少しづつ。 やがて、描かれたその世界は。 きっと私達を優しく包み込んでくれるでしょう。 現世では無理でも。 来世にまでかかっても。 少しづつ、貴方の描いた世界を書いていきましょう。 貴方と再び巡りあえるその日まで。 私は貴方の描こうとした未来を描きましょう。 また、貴方と幸せな未来を紡ぐ為に……

 あとがき  また、萌えなるものを無視したSSを作ってしまいました。どうもゆーろです。  どうやら私にはちょっと向いていないみたいです。萌えとか甘い雰囲気とか。  初めは甘ったるいものを書こうと思ったのに……聖さんのお話の反省を踏まえてって全然踏まえてないですしねぇ……  気が付いたら重苦しいような、シリアス風味なお話しに。本当に何処でどう間違えたんでしょうか?  ともかく、ここまで付き合っていただいてありがとうございました。 
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