名雪達は知らないが…俺には姉さんがいる。


と言っても血は繋がっていないが。


そう。姉さんは俺が5歳の時に家にやって来た。


4歳の時に父さんが死んで、母さん…秋子さんの姉さんが今の父さんと再婚して俺達は巡り会った。


最初姉さんとは血の繋がらない姉弟ということでどうコミュニケーションをとればいいのか分からなかった。


でも…あゆの事故をキッカケに俺達は変わった。


俺はあゆの事故が原因で引き篭もっていた時、両親はもう俺を見放していたが姉さんは違った。



姉さんは俺の話を聞いて一緒に泣いてくれた。


それからだ。俺達が普通に付き合うようになったのは。


姉と弟として…。


でも、高校に入ってから俺は姉さんを極端に意識するようになった。


そう。好きになってしまったのだ。


姉さんを。


姉としてではなく、一人の女性として…。


それで、俺は水瀬家に引っ越す前に姉さんに告白したが…フラれた。


「ごめん。私も祐のこと好きだけど…私にそんな資格はないから。」


それが姉さんが俺をフッた理由だ。


資格…?どういう意味だ。


分からない。考えたけど分からない。









恋人と姉弟の距離








「もうあれから…1年近く経つんだな。」

俺は校門で一人静かに呟く。

そう。あの奇跡から時が過ぎて今は12月だ。

俺達は受験生として毎日一生懸命勉強している。

と言っても北川は留年が決定してしまい開き直って全然勉強していないが…。

香里は医大を目指しているし、名雪は日体大を目指して頑張っている。

それからは大きな事件もなく、平穏な日々が続いた。

あゆと名雪と真琴と栞と舞にほぼ毎日好物をたかられるが…それは彼女達なりのアプローチだと思う。過ぎるところがあると思うが…。

でも、俺はそれに答えられない。

いや、姉さんのことを忘れる為にそれに答えようとしたが駄目だった。

自分の気持ちに嘘をつけなかった。

俺が一番好きなのは姉さんだから。



「ただいま。」

「あっ、祐一さん。お帰りなさい。」

この水瀬家の家主 秋子さんが玄関で俺を迎えてくれた。

「祐一さん、お手紙が来ていましたよ。」

秋子さんはそう言って俺に手紙を差し出す。

誰からだろう。

そう思いながら俺は秋子さんから手紙を受け取る。

差出人は……父さんと母さんだ。

用件は分かってる。きっとあれだ…。

だが、その時だった。

「祐一、何そこで突っ立ってんのよ。」

玄関に立っていた真琴に注意される。どうやら、今帰ってきたばかりのようだ。

「あっ、真琴か?ゴメンな。」

俺は真琴に謝って玄関をあとにした。

「あぅ〜。祐一、待ちなさいよ。その手紙は〜?」

「真琴、人の手紙を勝手に見る事はいけない事です。」

「あぅ〜。ごめんなさい。」



俺は自分の部屋に入るとさっそく手紙の中身を見る事にした。

封筒の中には手紙と飛行機のチケットが入っていた。

「又か…。」

俺はそっと舌打ちする。

そう。これは実家に帰って来いという意味だ。

俺の両親は此処に引っ越す予定だったが…父さんの仕事の都合でなしになった。

それで、俺も元いた家に帰る事になったのだが…。

何処からか情報が漏れて名雪達に泣きつかれた。

それで、両親もここに居る事を承諾してくれたが、それももう限界のようだ。

それに、両親には名雪達が殆ど毎日俺に好物をたかっている事はバレてる。

怒っているのだ。父さんも母さんも名雪達が俺に対してやっていることに…。

そして…あの人姉さんにも。

このままだとヤバイ。

「はあ…。」

ばふっ!!

俺は溜め息をついてベッドに倒れる。

どうしよう。

父さんと母さんの気持ちも分かるけど…。

だが、その時だった。

コンコンコン!!

ドアをノックする音が聞こえた。

「祐一さん、ご飯出来ましたよ。」

秋子さんだった。

「はい、今行きます。」

うん。このまま悩んでても埒が空かない。

夕飯を食べてから又考えよう。



「それでは頂きましょうか。」

「「「「いただきます。」」」」

俺達は夕飯を食べ始める。だが、暫くして…

「ねえ祐一、今月の24日なんだけど空けといてくれない?」

「えっ、24日はクリスマス・イヴだけど…何かあるのか?」

「うん。今年はみんなでここに集まってパーティーをしようって決めたから。」

名雪はそう言って笑顔で頷く。

「そうよ。美汐達も呼んでパーッとするのよ。」

真琴も興奮気味に頷く。

「きっと楽しくなるよ。」

あゆも上機嫌だ。

「…クリスマスねえ。」

俺はそう呟きながらクリスマス・イヴの予定を確認する。

だが、俺は何も言えなかった。封筒に入っていたチケットの日付と同じだったから。

「祐一くん。で…どうなの?」

あゆが聞いてきた。

「そうよ、空いてるの?」

真琴も聞いてきた。

こ…言葉に詰まる。何と言えばいいのか分からない。

「…悪い、まだ分からない。」

俺は箸を置いて自分の部屋に逃げた。

「あぅ〜。待ちなさいよ〜。」

「祐一くん、酷いよ。」

「待つんだお〜。」

名雪達3人は叫ぶ。だが…

「祐一さん…。」

秋子さんの顔は何故か悲しそうだった。



「ふう。」

俺は再びベッドに倒れこんで溜め息をつく。

姉さん。本名 相沢祐奈

青い眼に薄い緑色の髪をした女性。

そして、聡明で誰よりも優しい女性だ。

あゆの事で引き篭もっていた時に何度も俺を説得して救ってくれた。

姉さんがいたから俺は立ち直れた。

俺が今こうしているのも義姉さんのお陰だ。

でも、まだ実家に帰るわけにはいかない。

あの日…姉さんに告白した日に姉さんが言った「資格」の意味がまだ分からないから。

あれから1年近く経つがまだ分からない。

「ふう…。」

俺は再び溜め息をつく。

だが、その時だった。

コンコンコン!!

「祐一さん、私です。」

廊下から秋子さんの声が聞こえてきた。

「どうぞ。」

「失礼します。」

秋子さんはそう言って部屋に入ってきた。



「何か用ですか?」

俺は、秋子さんに質問する。

「はい、では単刀直入にお聞きしますが、祐一さん何かありました?」

「えっ…。」

「夕食の時に祐一さん元気がありませんでしたから。」

さすがは秋子さんだ。俺を心理を見抜いている。

「はい、原因はこれです。」

俺は秋子さんに手紙を渡す。

「差出人は姉さん達ですが、これがどうか。」

「クリスマス・イヴに実家に帰って来いって書かれてたんです。」

「えっ…。」

秋子さんはそう言って驚く。

「それってどういうことですか?」

秋子さんは俺に質問する。

「それは、名雪達が俺に対してやってることがバレて、それで帰って来いって…。」

秋子さんはそれを聞いてはあと溜め息をついた。

「やっぱり…ですか。」

「はい…。」

それから俺達は何も言わず黙っていた。そして…暫くして秋子さんの方から話を始める。

「姉さん達が帰って来いって言う理由は分かりましたが、それで祐一さんはどうしたいのですか?」

「俺はですか…。」

「はい。」

俺はどうしたい…か。

分からない。

姉さんには会いたいと思っているけどまだ会うわけにはいかないから。

まだあの時姉さんが俺に言った言葉の意味がまだ見つかっていないから。

それに、俺が帰ったら名雪達が悲しむ。

だから、帰れない。いや、帰るわけにはいかない。

だが、その時だった。

「帰ったらどうですか?」

「えっ?」

秋子さんはいきなり答えをだした。

「祐一さん、帰れない理由があるようですがそれを理由に帰らないというのはいけないことです。それは、只の言い訳に過ぎません。」

そんなことは自分でも分かってる。でも…。

「…でも、まだ帰るわけにはいかないんです。まだ…答えが見つかっていないから。」

「できれば話してくれませんか?その帰るわけにはいかない理由を。」

「はい。」

それから俺は全てを話した。

母さんが再婚したこと、姉さんのこと、この街に来る前に姉さんに告白したこと。

「そうですか…。この街に来る前にそんなことが…。帰ろうとしたのは名雪達の為だとしか思っていませんでしたが盲点でしたね。」

「ええ。だから、まだ帰るわけにはいかないんです。」

俺は素直に言う。だが…。

「そうですか。なら、なおさら帰るべきです。」

「えっ?」

秋子さんの台詞は意外なものだった。

「祐奈さんが何故祐一さんを振ったのかは分かりませんが、祐奈さんが祐一さんに何か負い目を抱いていることは分かります。だから、祐奈さんに聞いてみてはどうですか?振った理由を…。」

俺は秋子さんのその言葉に少し迷うが…暫くして答えが出た。

「はい、帰ります。帰って姉さんに俺を振った理由を聞いてみます。やっぱりそうしなきゃ気が済まないから。」

「はい、その意気です。」

秋子さんは笑顔で言う。

だが、俺はここであることに気付く。

「あっ、でも名雪達はどうします?春休みの時みたいに何かやって妨害してくるかもしれませんよ。」

だが、それに対して秋子さんは…

「大丈夫です。もしもの時はこれを使いますから。」

そう言って何処からか謎ジャムを出す。

「いろいろとすみません。でも、何で秋子さんは俺にそんなにも協力してくれるんですか?」

俺は疑問に思っていたことを尋ねる。

それは、名雪達がいつもいつも事あるごとに祐一さんを脅して自分の好物を奢させてばかりいるから……少し人生の厳しさを味あわせたほうがいいと思いまして。」

俺はこれ以上何も聞かなかった。

聞いたら殺させる気がしたからだ。



そして、クリスマス・イヴ当日。

「ふう、やっと到着したか。」

俺は飛行機を出て飛行場のロビーで背伸びをする。だが、その時だった。

「あれ…あそこの奥のロビーにいる人は誰だろう?」

俺は気になって奥のロビーへと急ぐ。そこにいたのは…姉さんだった。

髪型はポニーテールに変わっていたが間違いなく姉さんだった。

「姉さん。どうして…。」

「ユウを迎えにそれと…。」

姉さんはそう言うと俺に近づく。

「1年前に私が貴方を振った理由を説明する為よ。」

「えっ?」

姉さんはそう言うと俺を家の近くにある公園に連れ出す。ここは子供の頃二人でよく遊んだ思い出の場所だ。

そこで姉さんは教えてくれた。俺の知りたかったことを。

「私は貴方を振った理由…それは、私が8年前に貴方の記憶を消したから。」

「えっ?」

俺は最初姉さんが言った言葉の意味が分からなかった。思い当たるフシはあるが。

「8年前…あゆちゃんの事故が原因で貴方が引き篭もった時があったでしょう。その時私は消したんだ。あの街で起こったことに関する記憶を全て…。」

俺は何も言えなかった。

あゆの事故や名雪達と遊んだ思い出を忘れてしまったのは姉さんの所為…。

「最初は貴方を救う為にやったことだと自分に言い聞かせた。何度も気にしないようにした。けど…駄目だった。いつの間にか…私も貴方を好きになってしまったから…。だから、私は貴方を…振ったんだ。私に貴方を愛する資格はないと思ったから。」

確かに姉さんの気持ちは分かる。

もし俺が姉さんでも俺も姉さんと同じ行動を取っていただろう。

でも、それじゃ駄目だ。何の解決にもならないしお互いの為にもならない。

                          ひと
「だからユウ、もう私のことは諦めて。他の女性と幸せになって。」

ここで姉さんの話は終わる。だが、俺は納得がいかなかった。だから、俺は言った。

「そんなことない。」

「えっ?」

「人を好きになるのに資格なんて必要ない。大切なのはお互いの気持ちだ。」

「……。」

「8年前に姉さんが俺にしたことはまだ何とも言えないけど、俺の為にやったということは分かる。それに、謝らなければいけないのは俺の方だ。あの時俺が落ち込んでいたから姉さんをここまで苦しめてしまったから。だから、ごめん。」

俺はそう言って姉さんに謝る。

「姉さんのやったことは罪じゃない。だから、もう気にしなくていいんだ。それに俺の気持ちは1年前と変わらない。俺は今でも姉さんが好きだ。いや、姉さんじゃなきゃダメなんだ。他の人じゃダメなんだ。」

俺がそう言ったその時だった。

ギュッ!!

「なっ…。」

姉さんが俺を強く抱きしめた。

「ちょ…ね、姉さん。くるし…。」

「ありがとう…ユウ。そうだよね。人を好きになるのに資格なんて必要ないよね。やっと気付いたよ。だから、私も自分の気持ちを素直に言うね。私も貴方のことが好き。大好き。」

よく見ると姉さんは泣いていた。でも、それは嬉し涙だということは分かる。

「姉さん、苦しいからいい加減離して欲しいんだけど。」

「あっ、ゴメンゴメン。」

姉さんはそう言ってやっと抱きしめるのを止める。そして…

「じゃあ、帰ろうか私達の家に。」

「うん。母さん達も待っていると思うしね。」

「あっ、そうそう。今日はパーティーだね。」

「うん。いろんな意味でね、姉さん。」

「ふふふふふ。」

「あはははは。」

俺達はそうして手を繋いで帰ることにした。



姉弟と恋人の距離。

それは…俺達にも分からない。

でも、お互いの想いが強ければその距離をきっとゼロに変えることができる。

俺達がそうだったから。



〜おわり〜







あとがき

どうも菩提樹です。柊さん投稿が遅くなって本当にすみません。卒業論文とかバイトとかいろいろありましたから。いつもクロスものばかり書いていましたが今回はオリキャラとのカップリングに挑戦してみました。まあ、お陰で完成までに随分時間が懸かりましたが…。さて、キャラ設定です。



相沢 祐奈(あいざわ ゆうな)

身長         170cm

髪の色       薄い緑

3サイズ       89・58・88

能力         他人の記憶を消去する

好きなもの(事)  祐一  読書  音楽観賞  インターネットで祐一の人間関係を調べること

嫌いなもの(事)  Kanonヒロインズ全員(祐一に甘えてばっかだから)

補足
相沢家の長女。と言っても祐一の実の姉ではなく継父の子。
祐一のことは弟としてではなく、一人の男として愛している。しかし、いつも祐一に自分達の好物をたかっているKanonヒロインズ特に名雪のことは嫌い。ちなみに恋愛への考え方は「お互いが対等の立場にならなければ成立しない」である。


ちなみにおまけ話も書きました。読んでみて下さい。






おまけ

その頃水瀬家では…名雪達が祐一がいないことに気が付き騒いでいた。

「「「お母さん、祐一(くん)がいないよ〜!!」」」

そして、栞、香里、美汐、舞、佐祐理もクリスマスパーティーの為にやって来たが…ここで祐一がいないことを知り、秋子さんを問い詰める。

「祐一さんは、実家に帰りました。いや、帰しましたと言った方が正しいですね。」

秋子さんは怒りを含んだ声で言う。

「ど…どうして、帰したんだお〜?お母さん、酷いんだお〜!!」

「そうだよ。」

「そうよ!!」

「そうです。」

「そう…。」

名雪、あゆ、真琴、栞、舞の5人は秋子さんのやったことに怒るが、香里、美汐、佐祐理はやっぱしと言う顔をして何も言わなかった。

「どうして…ですかって?それは、貴女達がいつもいつも祐一さんに自分の好物を奢らせてばかりいることが祐一さんの両親に知られてしまったからです。」

「「「「「!!」」」」」

5人はその理由を聞いてショックを受ける。

「母親として人生の先輩として言っておきます…。人に甘えて甘い汁しか吸わない人は最低です。そして、そんな貴女達が祐一さんの側にいる資格はありません。だから、祐一さんは諦めなさい。それと祐一さんの実家の住所も教えるつもりはありません。」
 
秋子さんの声は名雪達5人に重くのしかかった。

香里、美汐、佐祐理の3人も責任を感じて落ち込む。

そして…5人は秋子さん特製の『謎ジャム』を無理矢理食べることとなった。

香里、美汐、佐祐理の3人は何とか回避できたが、見ていて地獄だったと言う。そして…

「だ、だお・・・」



「うぐっ!?」



「あぅーっ!?」



「えぅ〜」



「・・・」



名雪達の断末魔がこだました。




〜こんどこそおしまい〜


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