―――いつからだろうか、彼にこんな感情を抱いたのは。
初めて逢ったとき? ……いや、違う。もっと最近だ。
そう……やはりあのときだろう。
―――姫子さんが消えたときから。
酷く落ち込んでいる彼を見ていると、とても胸が苦しくなってくる。
しかし、私は彼に優しい言葉をかけることができない。
何故なら、それは私の役目ではない―――彼の隣は私いるべき場所ではないから。
それに、優しく接すれば接するほど別れは辛くなる。
姫子さんが消えた今、私にも残された時間は少ないだろう。
彼に、二度と同じ思いはさせたくはない。
「―――かずー。夕飯、何がいい?」
いつもはおちゃらけた雰囲気で話す妙さんも、今は彼を気遣っている。
出来るだけ明るく話しかけ、彼の心の闇を払拭せんとしている。
「……………………なんでもいい」
しかし、彼は自らの殻に引き篭もってしまっている。
食事や入浴以外では大抵部屋に篭り、私たちの前では口を開く事すら珍しい。
「和。ちびちゃんがいなくなった事に対して、あなたがどれだけの悲しみを抱いてるか、わたしたちにはわからない。
―――でも、そうやって自分の殻に閉じ篭ってるのはよくないと思うわ。ちびちゃんだって、今の和なんか見たくないと思う」
「…………」
「…………ふぅ。和、夕飯は自分が食べたいもの買ってきなさい。
ついでに散歩でもしてきたら? たまには外の空気思いっきり吸うのもいいわよ」
彼は無言で立ち上がり、妙さんからお金を受け取ると、玄関へとふらふらと歩いていく。
―――そんな彼の後姿が泣きそうで、とても寂しくて。
抱きしめて、私の胸で思いっきり泣かせてあげたい衝動に駆られる。
しかし、やはり私にそんな資格はない。
やるせない気持ちが私の心を満たし、どうしようもない苛立ちが私の運命を呪う。
―――どうして自分は人間ではないのだろうか。せめて、消えゆく運命がなければ―――。
「―――氷庫さん。あなたまでそんな顔しないで」
妙さんの声に、思考に耽っていた顔を上げる。
そこには、軽く微笑んだ妙さんの顔が。
「わたしたちがそんな顔してたら、和も元気を取り戻そうにも取り戻せないわ」
笑って言う妙さんが、とても大人に見えて。
やはり、この人は彼の理解者なんだな、と。
「そう……ですね……。すみません、私としたことが」
「いいのよ。それだけ和のこと想ってくれてたってことだから」
「い、いえ……別にそんな―――」
「ふふっ、隠さなくてもいいのよ。―――あぁ、これで和にも良い人ができたわね」
良い人ができた―――その言葉が、私の心に突き刺さる。
私に残された時間は少ない。
しかし、だからといって何もしないのはいけないことだ。
だから、今は今の私ができる、精一杯の事をしよう。
そうと決まれば、すぐに実行するべきだ。
私はまだ玄関にいるだろう彼の後を追いかけた。
案の定、彼はまだ玄関にいた。
虚ろな目で靴を履き替える彼の姿は、凄く危なっかしい。
私は靴を履き終わった彼に、後ろから手にしたマフラーをそっと巻いてあげる。
「外は寒いですよ―――和っち」
驚いた表情でこちらを振り返る彼に、私は微笑んだ。
―――そう、今できることは、これくらいだ。
それでも私は、私が私である限り、今できる事をしてみようと思う。
いつか、彼と前みたいに冗談を言い合えることを想いながら―――。
written by
柊
えらく短いし、何が言いたかったのか謎。
そしてこれは年上とのカップリングなのか不明。
というか、氷庫さんの年齢が不明。
そんでもって、妙さんの方が目立ってる。
それ以前に、ゲーム内の季節完全無視。
っていうか、シリアスなんて書けん。
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