月明かりが照らす夜の道

 雲ひとつない夜空には無数の星が瞬いている

 そのどれもが儚く、力強い

 そしてそんな星の中で一際光り輝く、満月

 古人曰く、『満月は人を狂わせる』・・・・・










                            今宵、月明かりの下で










 「はあ〜くそっ、覚えてろよあう〜にうぐ〜め」


 白い息とともに悪態を吐き出している彼の名は相沢祐一


 「なんで俺がパシリをせにゃならんのだ」


 手には彼が居候している水瀬家より近いとは言えないコンビニの袋


 「こんな夜中に肉まんに鯛焼きが食べたいだ〜、冗談じゃないっての」


 首に巻かれたマフラーをより一層強く締め夜風の侵入を防ぐ

 なぜ彼が夜遅くにコンビニまで行ったかというと・・・・・















 時刻は午後10時43分

 高校生である祐一にとってまだまだ宵の口

 自室のベットの上で親友である北川から借りた【漢の夜の友 Ver.近似編】を読み耽っている

 この【漢の夜の友 Ver.近似編】は北川推薦のクラスの女生徒に似通っているそっち系の写真を集めた物だ


 「おお〜〜さすが北川だぜ!いい仕事してやがる!」


 彼もまたお年頃、興味がない訳ではない


 「しかしやたらと香里に似た人ばっかだな」


 そんなことを呟きながらもページをめくる

 その時!


 「ゆういち〜〜!!」


 彼の部屋を閉ざしていたトビラが、バンッ!、という大きな音を立てて開く

 その突然の事態に彼は焦り、北川推薦【漢の夜の・・・以下略】を慌ててベットと壁との間に隠す


 「な、なんだ真琴!部屋に入る時はちゃんとノックしろってあれ程言ってるだろ!」

 「なによ〜真琴が祐一なんかの部屋に来てやってるのよ、感謝の言葉くらい言いなさい!」


 突然の来訪者の真琴は、フフンッ、と胸を反らし自らに非がないと言いのける

 当然彼はそんな態度は頭にくる

 無言で立ち上がり真琴の頭を鷲掴みにし徐々に力を込めていく


 「い、いたたたた〜〜〜!!いたい、いたい、はなして〜〜!!」

 「今度からはちゃんとノックするか?」

 「する、する、だからはなして〜〜!」

 「本当に?」

 「ほんと!ほんと!いたたた〜!!」

 「肉まんとぴろと謎じゃむに誓えるか?」

 「ちかう、ちか・・・・なぞじゃむにはちかえないよ〜!」


 真琴の目にしだいに涙が溜まる

 それはアイアンクローの痛みだけではないだろう





 「で、何のようなんだ?」


 ほどなくして真琴を解放した祐一は問いただした


 「う〜〜」


 彼女の同居人にして祐一の従姉妹、名雪ばりの恨めしさをこめながら呻く真琴

 こめかみの辺りを擦っている仕草は妙に愛らしい


 「あのね、肉まんが食べたいの」

 「はあ?」


 真琴のあまりにも彼女らしい言葉におもわず間抜けな声を出してしまう


 「肉まんが食べたいって、そんなの秋子さんに言って勝手に食べればいいだろう」


 この家の家主、秋子さんならばこの真琴の理不尽な要求にも「あらあら」と言いながらも肉まんを作って答えてしまうだろう


 「秋子さんがね、肉まんの材料がないから作れないって・・・・」

 「ふ〜ん」

 「だから、ね?」

 「だから?」

 「肉まん買ってきて♪」


                            ゴンッ


 「いた〜い!なにすんのよ!」

 「なにすんのじゃねぇ!自分で行け、この馬鹿!」

 「行けたら行くわよ!でも秋子さんが・・・」

 「秋子さんが何だって」

 「夜道を女の子が一人で出歩いちゃダメって・・・」


 顔を俯け声のトーンを落とす

 彼、相沢祐一は女の子のこういった落ち込んだ仕草に弱い


 「はあ、分かったよ。買って来てやるよ」


 腰掛けていたベットから立ち上がりクローゼットにかけてあるコートを着る


 「ほんと!だから祐一って大好き♪」

 「なんつ〜現金な奴・・・」


 踊りだしそうな勢いで喜ぶ真琴を引き連れ一階へと下りていく

 そのまま玄関へと向かい外へと出ようとすると


 「祐一君、どこに行くの?」


 水瀬家居候3号ことうぐ月宮が走りよって来た


 「ちょっとコンビニまでな」

 「コンビニ?」

 「ああ、真琴が肉まんが食いたいなんてほざくからな。しょうがないから買ってきてやるんだよ」

 「うぐ、じゃあじゃあ、鯛焼きも買ってきて〜」


 右手を懸命に上げその場で小さくジャンプをし訴える


 「コンビニに鯛焼きが売ってる訳ないだろ」

 「今のコンビニは売ってるよ」

 「何!そんな馬鹿な!!」

 「ホントだよ。ねえだから・・・」

 「分かったよ。ついでだから買ってきてやるよ」

 「うぐ!ありがとう祐一君」


 玄関で靴に履き替え、首にマフラーを巻いて完全に寒さ対策をする

 だが寒いのが苦手な彼にとってはこれでもまだ寒いらしいが・・・


 「「いってらっしゃ〜い」」


 と満面の笑みで送り出す彼女たち

 こうして祐一は寒風吹く中夜中の買出しへと出かけたのだった














 「はあ〜ホント、さっぶいな〜」


 北国の冬な風は彼から容赦なく体温を奪っていく

 街灯の少ないこの街の夜道は薄暗い




 「あら、相沢君じゃない」


 聞き覚えのある声

 振り返るとそこには月明かりに照らされた彼の同級生、美坂香里がいた


 「よお、香里。こんな夜中に何やってんだ?」

 「そう言う相沢君こそどうしたのよ」

 「俺はこれだよ」


 祐一は右手を上げレジ袋を強調させる


 「ふふっ、ゆーいち君は一人でお買い物できるんだ」

 「はあ、何言って・・・・」


 不意に香里は祐一に近づき彼の頭を撫でる

 それ声には出してはいないが雰囲気から「い〜こ、い〜こ」と聞こえてきそうである


 「な、ななななな・・・・」

 「ふふっ」


 突然の行動に祐一は固まってしまい香里のなすがまま

 その香里は嬉しそうな笑顔で祐一を撫で続ける


 「何をっっ!」


 ようやく我を取り戻した祐一は香里の手を振り解く


 「あら、お気に召さなかった?」

 「いや、気持ちよかったです・・・ってそうじゃなて、一体どういうつもりだ!」

 「どういうって、お使いをしてるゆーいち君を褒めて上げたんじゃない」


 口に手を当て上品にクスクスと笑う香里


 「からかってるのか?」


 じと目で香里を睨む


 「そんな顔しないでよ、ちょっとした冗談なんだから」

 「はあ、もういいよ」


 ため息をし自分のペースを取り戻そうとする祐一



 「で、改めて聞くけど香里は何やってるんだ?」

 「あたしは、散歩よ」

 「散歩?こんな夜中にか?」

 「ええ、そうよ。夜中の散歩もなかなか良い物よ。普段通い慣れている通学路もまったく違った道に見えるし星も綺麗だし・・・」


 言葉を区切り祐一に背を向けるように振り替える


 「それに、月も綺麗よ」


 その言葉とともに再び祐一の方へと顔だけ振り向かせる香里

 蒼白い月明かりに照らされその仕草は普段の大人っぽい香里をより一層魅力的にさせた



 「ねえ、相沢君も一緒に散歩しない?」

 「え、いやだよ、寒いし・・・」」

 「ダメ?」


 言葉を濁す祐一に香里は目をうるうるさせ上目遣いで見つめる


 「はい、喜んでお供いたします」


 もちろんそんな表情に勝てる訳もなく180°態度を変える祐一


 「ありがと♪」


 そう告げると香里は素早く祐一の隣に移動をし左手を取り歩き始める


 「お、おい、香里!」

 「〜〜♪〜〜〜♪」



 突然の行動に祐一は抗議するも満面の笑みの香里にそれ以上何も言えずしたいようにさせることにした

 祐一はしばらくその手から伝わる香里の体温に頬を赤らめていた











 香里に手を引かれること十数分、二人は噴水のある公園へ到着した

 もうじき日付も変わるこの時間にはさすがに人影はなく水の流れる音だけが聞こえてくる


 「ねえ、相沢君」

 「なんだ」

 「この公園で栞とキスしたって、本当?」

 「え!!」


 突如とした問いに驚きを隠せない祐一

 確かにこの公園で香里の妹である栞と一週間限定の恋人となったときに口付けを交わした


 「あ、いや、それはその・・・・」

 「その様子じゃ本当のようね」


 握っていた祐一の手を離し噴水に近づく香里


 「それじゃあ・・・あたしともしてみる?」


 ゆっくりと、静かに囁く


 「・・・・・・は?」

 「だから、あたしとキスしてみない?」

 「いや、なんで、ってかどうして?」


 香里の顔を見つめる祐一

 その表情は普段の大人っぽい雰囲気を遥かに凌駕した色気がある


 「どうしてって、あなたのことが好きだからよ」


 一歩祐一に近づく


 「栞のことをあなたに打ち明けたときからずっとあなたを見てきた」


 また一歩


 「栞が倒れたときに壊れそうなあたしの心を支えてくれたあなたに惹かれていった」


 また一歩


 「あなたが他の、あたしじゃない女の子と一緒にいるだけで心がざわめいた」


 お互いの息がかかるほどに近づいた二人


 「栞にも、名雪にも、他の誰にも渡したくない」


 頬に両手をそえ動かせないようにする

 そして静かに、そっと唇が重なる















 どれだけの時間がたったのだろう

 二人は未だに唇を重ね合わせている

 ただ触れ合うだけのキス

 情熱的なディープキスでもなければついばむようなバードキスでもない

 ただ重ねているだけ








 「・・・・・・んっ」


 惜しむように離れる二人

 唇から伝わってきていた自分のではない体温を愛しむように噛締める


 「きもち、よかった?」


 頬を赤らめそれでも目を見つめ合いながら聞く香里


 「ああ」


 こちらも頬を赤らめ香里の目を反らさずに答える祐一


 「よかった」


 香里は祐一の胸に顔を埋めその喜びを表す

 祐一もそんな香里を優しく受け止めウェーブのかかった髪を撫でる

 その感触はとても触り心地がよく何度も繰り返す

 撫でられるのが気持ち良いのか香里も目を細め、なすがまま






 「なあ、香里」

 「何?」

 「どうしたんだ、今日は」


 あれからしばらくして近くのベンチにお互いに抱き合うように座った二人

 祐一は香里のその細い腰に手を回し寄せ付け香里も先ほどと同様に祐一の胸に顔を埋める


 「どうしたって?」

 「あ〜説明するのが難しいが、いつもの香里ならさ告白するならもっとこう・・なんと言うか・・・」

 「あたしらしくなかった?」

 「・・・少し、いやだいぶ、な」

 「ふふっ、そうね。それはあたしも自覚しているわ。ただ、ね・・・」

 「ただ?」

 「今日は月が綺麗だったから。だからかもしれない」

 「意味が分からんのだが」

 「そうね、相沢君にも分かるように言うなら・・・」


 胸に埋めていた顔を上げ、祐一の目をまっずぐに見つめ・・・


 「月があたしを狂わせたのよ・・・・」


 そう呟き再び口付けを交わした











あとがき

 二作目かんせ〜〜い!!という訳でのuniです

 今回の作品は月。なにげな〜く空を見てたら満月だったもんで書いてみましたが、いかがでしょう?

 なんか中途半端な終わり方をしているような・・・(汗

 いやいや気のせい気のせい・・・多分、ね


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