気付いた想い

 

 

 

 

 

 陽が西に沈みかけているそんな夕方。

 あたしは自分の教室に帰って来た。

 その教室の扉がやけに遠く小さく感じるのはあたしの気の所為なのだろうか。

 

 自分でも判っている、足取りが重いことに。

 それと同時に、どうしても心に残る罪悪感。

 久々だった所為か、全ての行動が億劫になる。

 何回経験してもコレは慣れない。

 尤も、慣れることなんて希望してないけど。

 

 ガラガラ

 「はぁ―――

 

 いつもより重く感じる扉を開けて、足を進める。

 こんな時間に誰か残っているなんて思わないので、溜息が出てしまった。

 今は、どうしても一人でいたい気分。

 

 「あれ、まだ帰ってなかったのか?」

 

 教室内から声。

 誰も居ないと思ってた教室内から、声が届いた。

 思わず沈んでいた顔を上げて、声の主を見る。

 

 「もうこんな時間だから、誰もいないと思ってた」

 

 それはあたしも思ってた。

 だから、その言葉はあたしが言いたい台詞なのよ。

 

 『彼』は忘れ物を取りに教室に戻ってきたんでしょう。

 あたしの机に鞄がまだあるのに見えてなかったかどうかはこの際どうでもいい。

 そんな彼の横を通り過ぎて、あたしは自分の席に向かう。

 使い慣れたいつもの席、『美坂香里』の席に。

 

 

 

 

 

 

 気付いた想い

 〜二人に幸あれ〜

 

 

 

 

 

 

 教室に置きっ放しだった自分の鞄を背負う。

 じっと見つめてくる彼に声も掛けずに。

 でも、今だけはあたしを一人にして欲しかった。

 

 「どうしたんだ? いつものお前らしくないな」

 

 だから、如何してこういうときに貴方は声を掛けるのよ。

 あたしの顔を見て、それくらい察して欲しいのに。

 

 「瞳を見れば判るさ、今のお前が辛いことくらい。

  ………でもな、だからこそ俺は声を掛ける。 そんなお前を放って置けないから」

 「え?」

 

 あたしが声を挙げたのは、彼の言葉に対してじゃない。

 今の―――状況。

 あたしの―――状況。

 

 「―――――手を離して」

 

 あたしは彼の手の上から自分の手を重ねて、言う。

 そんな彼は渋々ながらも、ゆっくりと手を離す。

 本当にゆっくりと、悔いが残っているように離す。

 

 ――――――あたしの両頬から両手を離す。

 

 あたしの顔を固定させて、瞳を覗いてた。

 ったく、一体彼は何を考えているんだろう。

 そんなことを思ってしまっても仕方ないのに。

 

 「で、何が言いたいの?」

 「あぁ……………何に悩んでいるのか教えてくれ」

 「いや、お断りよ。 用件を聞いたからあたしは帰るわね。 さようなら」

 

 早く一人になりたかった。

 誰かと一緒に居たら、この情緒不安定な心が更に悪化しそうで。

 ……………いや、既になっているのかもしれない。

 

 「………………………わかった、言いたくないのなら、その件についてはもう訊かない。

  だから、これだけは答えてくれ。 授業が終わって今まで何処に居た?

  いや、それより、誰と会って、何を聞いた?」

 

 これだけって言っといて、いくつも訊かないで欲しいわ。

 しかも、今のあたしにとってどれも答えにくい質問ばかり。

 確信犯かと思ってしまうくらいの、鋭い正確の質問ね。

 はぁぁぁ、どうしようかしら。

 

 「答えられないのか?」

 「……………………………」

 「なら俺が当ててやろうか。 ……………告白、されてたんだろ」

 「っ!? な、なんで!?」

 「ふーっ…………俺はカマかけたなんだけどな」

 

 そう言われてあたしは我に返る。

 つまりは、見事に誘導尋問に引っ掛かったということ?

 ………如何してこういうときにあたしは冷静に対処できないのよ!

 

 「そうよっ! 告白されたわよっ! しかも断ってきたわよっ!

  それで勝手に自己嫌悪してるのよっ!! 断る方も痛いんだからっ!!」

 

 滅茶苦茶。

 何時の間にか、あたしの苦悩を、気持ちを、悩みを全てぶちまけていた。

 

 「……つか、逆ギレかよ」

 

 彼はあたしに対して慰めるとか、宥めるといったようなことはしなかった。

 こういうときって、普通嘘でも優しい言葉を掛けるもんじゃないの?

 まるであたしのことを『友達』として見てないような、そんな反応。

 

 「でも、失礼かもしれないけど……………良かったよ」

 「はぁ!?」

 「だって、俺お前のこと好きだし」

 

 ……………………………………………はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?

 何か今、会話の流れが急に変な方向に向いたような。

 

 「どうした?」

 

 いや、どうしたって…………。

 ここで普通そう返す?

 彼が何を考えているのか、さっぱりわからない。

 本気なのか、冗談なのか。

 

 「冗談……よね?」

 「お前、何言ってんだ?」

 

 まるであたしが冗談を言ったような、そんな反応。

 しかも、その冗談が全く笑えないような、そんな反応を返された。

 いや、あたしの感覚は普通だと思うんだけど、これはどういうこと?

 

 「もしかして………………………………………本気?」

 「そうだけど?」

 「……………………………」

 

 あたしの問いに、彼は戸惑うことなく平然と答えた。

 その言葉に微塵の嘘がないのは彼の瞳を見ればすぐに判る。

 極自然の、考えるまでもないような回答。

 まるで低レベルの数学問題を答えるくらいの即答。

 姿勢を崩さないで告げられた言葉ははっきりとしていて、瞳はいつになく真剣そのもの。

 

 そこから導かれることは――――――――真実。

 

 「――――――あ、あっ、貴方ね!

  普通そういうときって、こう………か、顔を赤らめるとか、照れくさそうにするとかっ!

  それなりの態度があるでしょ!!」

 

 普段のあたしからは似ても似つかないほど別人なくらい早口で捲くし立てる。

 論述はあたしが自負するくらい得意とする分野のはず………だった。

 正直なところ、今自分でも何を言ってるのかいまいち判っていないくらい動揺してる。

 冷静に物事を考え、言葉を選んで発言するほどの余裕なんて欠片もない。

 

 

 ――――――まるであたしじゃないように。

 

 

 カアァァ、と体全体が妙に火照っているのが判る。

 いや、これは火照るというより熱い。

 

 「って、うあぁぁぁぁぁぁっっ!!

  ―――――な、なんであたしが赤くなるのっ!?」

 

 両手で頬を包んで、後ろを向く。

 意識せずに、それは無意識に。

 ―――体が勝手に動いた。

 

 

 ――――――まるであたしじゃないように。

 

 

 手の掌が火傷するくらい熱くなっているのはきっと気のせいよ!

 恥ずかしいからだなんて、そんなこと絶対にない!

 

 何にせよ、今のあたしの顔を見られたくなかった。

 

 

 

 

 体の奥底から感じる異変………それは――――――――

 

 

 ――――熱い

 体温は、熱いくらい飢えて渇きを訴えているように。

 

 ――――速い

 心臓の鼓動は、鳴り止まない遮断機の警報のように。

 

 ――――重い

 両足は、底知れぬ沼にはまって抜け出せないように。

 

 

 

 まるで――――――――あたしじゃないように。

 

 

 

 

 

 「応えを聞かせて欲しい」

 

 声のトーンは変わらないけど、どこか緊張気味な様子があたしには判った。

 それは何故だろう。 あたしはふと疑問点があることに気付いた。

 緊張気味と思ったけど、普段と如何違うのだろう。

 自分で思ったくせに、即答できなかった。

 あたしと彼は、まだそれほど交友暦が長いわけじゃない。

 でも、答えはとっても簡単なものだった。

 

 

 

 あたしは何時の間にか、彼に惹かれていたのだ。

 

 意識せずとも普段の彼の様子や何気ない様子まで把握するほど、惹かれていたのだ。

 

 

 あたしは子供じゃない。

 この感情が何を意味しているのかは深く考えずとも判る。

 

 だから、あたしは彼に応える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちゅっ♪

 

 唇と唇を軽く合わせる。

 

 言葉ではなく、それ以上のモノで応える。

 それがあたしから彼に対する応え。

 

 彼は驚いた顔をするけど、またそこが私の欲を激しく駆り立てる。

 違う表情、更に驚いた表情を見てみたくなる。

 

 だから――――――――あたしは深いキスをする。

 

 首に抱きついた腕を更に絡め、より深く抱きつく。

 完全に密着していたりするけど、そんなことお構いなし。

 拙い舌技で絡めながら、後ろに押し倒す。

 

 バタンと大きい音が聞こえたけど、それはあたしの熱を更に上昇させる。

 

 

 「これからよろしくね、祐一♪」

 

 

 

 


 

 あとがき

 固有名詞(人物名)がほとんどありません。
 これで祐一×香里SSと言えるんでしょうか?
 皆さんに判ってもらえるか、ものすごい不安です(汗

 祐一の言動、告白に少々難あり。
 香里の動揺、手を頬に当て赤面。
 ……を、入れたいなと思って書きました。
 祐一の告白の流れは少々強引だったかな。
 まぁ、こういうのもアリってことで許してください。

 返事より先にキスをする香里。
 ………萌えというより『えっちぃ』ですか?
 舌まで絡ませちゃってますが、こんな香里はダメですか?

 完全シリアスになれず、完全ほのぼのにもなれず、といった出来です。
 物凄い中途半端な感が否めません。

 

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