あたしがその事実を知った時、自分でも驚く位冷静だった。

理由は大体予想をしていたし、答えも決まっていたから。



「妊娠したの…相沢君の子供よ」



夜の漆黒につつまれた、静かな公園で。

栞の好きだった、思い出の公園で。

栞が旅立った、悲しみの公園で。

相沢君と付き合いだした、約束の公園で。

あたしは事実を伝える。

ただ、淡々と…。



「冗談じゃ…なさそうだな…」

「こんな冗談言わないわよ」

「そうか。 俺、高校卒業したら働くよ。 苦しい生活になると思うけど、一緒に頑張っていこう」



実に相沢君らしい答え。

そして、予想通りの答え。

だから、あたしは予定通りの反応で返す。



「就職する必要はないわ」

「……え?」

「だって、あたし産むつもりないもの。 だから相沢君は気にしないで。 ただ、報告しただけよ」



そう、これがあたしの答え。



「香里!! お前本気かよっ!!」

「ええ、本気よ。 相沢君…産んで欲しいの?」

「当たり前だ!! お前と俺の子供なんだぞ!!」

「そんな事解ってるわよ。 でも世間の目もあるし、仕方ないでしょ? 今ならばれないしね」



高校生同士の結婚、妊娠。

周りからはいい顔をされないだろう。

だから、堕ろす。

それが社会の常識。



「世間の目って…。 お前は産みたくないのかよ!! お前自身はどうなんだよ!!」

「産みたくない」

「っ!!」

「今のあたしには大学受験があるの。 今子供を産めば、進学なんて不可能でしょ? それは今まで頑張ってきた事が無駄になるって事。 そんなの絶対嫌!!」

「香里…」



悲しそうな相沢君の横を通り過ぎて…。



「話はここまでよ。 また明日学校でね」



あたしは公園から立ち去った。











  〜Just Because It Merely Loves〜










「香里、祐一と何かあったの?」



四時間目が終わった後、名雪が尋ねてくる。

普段は鈍いのに今日は鋭いのね。



「別に。 何もないわよ?」

「でも、香里と祐一、今日一言も会話してないよ? 目も合わせないし…」



自分では意識はしてなかった。

でも、自然に態度に出ていたみたい。

それは名雪でもわかる位不自然だったという事。



「大丈夫よ。 気にしない「香里」……相沢君…」



そこには相沢君が居た。



「付き合ってくれるか?」

「昼食が食べたいんだけど?」



自然に出てきた、言葉。

あたしは、相沢君から逃げたいのかもしれない。



「これから話す事と、昼飯のどっちが大切か分からないか?」

「………」

「行くぞ」



あたしは相沢君と一緒に教室を出て行く。

名雪は、ただ心配そうな目で私達を見つめていた。











屋上…そこは出入りが禁止されているから、私達以外誰も居なかった。

初夏の気持ちいい風が吹き抜ける。



「ここは立ち入り禁止よ」

「不純異性行為も禁止だったな」

「そう…ね」



決められているが、誰も守っていない校則。

でも、妊娠となれば話は別。



「話は…子供の事ね」

「ああ。 もう一度聞きたい。 何故産みたくない?」

「世間の目と、あたしの将来」

「高校生の出産と、高卒はそんなに嫌か?」

「あたし自身、それも一つの道だと思うわ。 でも、周りから変に言われるのが嫌なの」

「愛さえあれば問題ないだろ?」

「恥ずかしい事言うのね。 相沢君らしいけど」

「恥ずかしい?」

「ええ。 恥ずかしいわ」



なんでこんな恥ずかしい事を真顔で言えるのだろう?

あたしでは、絶対に無理ね。



「質問を変える。 香里は俺の事どう思っている?」

「好きよ。 何時も言ってるじゃない」



そう、あたしは相沢君に惚れた。

その結果、相沢君を好きになった。

だから付き合っている。

子供でも分かる簡単な考え方。



「そうか。 もういいぞ。 昼飯食ってこい」

「もう遅いわよ。 相沢君はどうするの?」

「俺はもう少しここに居る」

「そう…」



あたしは一人屋上から立ち去った。











五時間目も後10分もすれば終わりを迎える。

相沢君は授業には出ていなかった。

先生には保健室に行っていると嘘をついている。

でも、名雪は気がついてるみたい。

名雪からの目線と、相沢君の不在以外は何時もと変わらない授業。



『美坂香里いいぃぃぃ!!!』



そうでもなかった…。

突然スピーカーから聞こえてきたのは相沢君の声。

そして、クラス全員があたしに注目している。



『お前は世間の目が気になるからと、そして愛って言葉は恥ずかしいと言ったな!!』



その声は自信に満ち溢れて、そして勝ち誇ったているような印象を受ける。

頼むから余計な事は言わないで。

そう考えながら、あたしは驚きから動く事も出来ない。



『生徒諸君聞け!! 美坂香里の腹の中には俺、相沢祐一の子供がいるぞ!!』



凄く嬉しそうに。

そして誇らしげに。

相沢君は全校生徒に向かい語り喋り続ける。



『きっと、3ヶ月前に香里の部屋でSEXした時の子供だ!!』



あの馬鹿はどこまで言う気なんだろう。

顔が赤くなってるのが自分でもわかる。

そもそも、恥ずかしくないのだろうか?



『どうだ香里!! 恥ずかしいか!!? でもな!! 俺は全然恥ずかしくない!! 愛しているヒトとSEXする事、そして子を授かる事の何が恥ずかしい!!? ヒトを愛するってそうゆう事だろ!!? それとも、ヒトを愛する事は恥ずかしい事なのか!!?』



あたしは相沢君と愛し合う行為が恥ずかしかった。

それに対して相沢君は問いかける。

愛し合う者同士、愛し合う事の何が恥ずかしいのかと。

それは、あたしにとって衝撃的な問いかけ。



『世間の目なんて、知った事か!! 停学でも退学でも勝手にしろ!!』



本当に愛してるなら。

相沢君みたいに相手に全てを出せるのだろうか?

全てを投げ捨てる事が出来るのだろうか?

ならあたしは…。

あたしは心のどこかで相沢君を信用していなかったかもしれない。

好きという感情でけで、相沢君を愛してなかったのかもしれない。

だから、相沢君に愛してると言えなかった。

だから、相沢君に裸を見られるのが恥ずしかった。

だから、相沢君の子供を産むのが怖かった。



『香里と幸せになりたいんだよ!! お前は子供を産めばそれでいい!! 大学に行きたいなら、働かなくてもいい。 家事も子育てもしなくてもいい。 お前は勉強してろ!! 俺が全部支えてやる!!』



相沢君はあたしをここまで愛してくれているのに。

ここまで信頼しているのに。

あたしはなんて勿体無い数ヶ月を送ってきたのだろう。

心も身体も…全てを相沢君の前に出せばよかったのに。

そうすれば本当の恋人になれたのに。

あたしは、相沢君を愛せるだろうか?

生涯を共にする事が出来るだろうか?

もし、できれば子供を産む事が出来るのだろうか?

そんなあたしの思いは相沢君の次の言葉で簡単に解決した。



『俺は香里と暮らしたい!! 香里の子供が欲しい!! だから、香里!!! 俺と結婚してくれ!!!!』



まったく飾りのないその言葉…。

その意味を理解した瞬間に、あたしは…









































相沢祐一に二度目の恋をした。











































進学なんてしない。

あたしは、相沢君と共に生きる。

あたしは、もう恥ずかしくない。

あたしは、もう迷わない。

そうと決まれば…。

答えなくては。

あたしの決断を。

見せなくては。

あたしの心を。



『早く答えろ!! 俺はドラマの男みたいに待ったりしない!! 今すぐ答え「相沢やめろ!!」離せ!!今大事な…』



今の声は生徒指導の結城…。

相沢君はどうやら強制連行されたみたい。



「香里、どうするの?」



名雪が尋ねてくる。

あたしの決断を。

答えはもう決まっている。



「あたしは頑固だから、一度決めた事を枉げる事は滅多にしないわ」

「え…じゃあ…」



次の瞬間、あたしは何処に居るかも分からない相沢君に向かって叫けんでいた。

その声はあたしの人生の中で最も大きく、そして傲慢な声。

その声は一生枉げる事のない、あたしの誓い。



「祐一!!! 今更冗談とか言っても、一生ついていくわよ!!! 覚悟しなさい!!!」



次の瞬間、教室…いえ学校中は歓声につつまれた。

それは祐一とあたしに向けられた、祝福の声。

友人達の暖かい祝福の声が響く中、あたしは涙を流していた。

その涙は自分自身から生まれた涙。

栞の事で流したあの涙とはまた違う、自分自身の涙。



「祐一、愛してる…」



今度は自分しか聞こえないような、小さな声で。

でも、祐一には必ず聞こえていると思いながら。

あたしはずっと言えなかった気持ちを口に出していた。



















後書きっぽい雑談

テーマは『愛』!!!
………。
いや、そんなに引かないで(涙

今回のテーマは真剣に愛です。詳しく言うと、愛と恋ですね。
初めて見た人に惚れた事ありますか?私はあります。
でも、その恋をした瞬間に相手を好きになっても、愛する事はありません。
愛って言うのは、そんなに簡単に構築できる感情ではないと思うんですよ。
好きな相手と付き合う…この行為は相手を愛せるか否かについて考える時間を生みます。
愛する事が出来れば、相手に対する感情はかなり変化します。本編での香里の『二度惚れ』ですね。
愛する事が無理であれば別れる。可能であれば結婚する。極論ですけどね。
でも、自分が愛する事が出来る人ってかなり限られてます。
人生において、これを見つける事が一番大切だと私は思います。

好きな相手に自分の負の所を見せれますか?自分の全てを伝えれますか?答えは「無理」ですよね?
もし、出来るのであれば、それは相手の事が好きではなく、愛してるのだと思いますよ。











くさ!!読み返して寒気がしました!!←書いた奴


SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送