「あれ?
香里って眼鏡かけてたのか?」
全てはこの一言から――。
眼鏡にまつわるエトセトラ 〜美坂香里の場合〜
担任である石橋の授業中、祐一は堂々と身体ごと後ろを向きながら香里に話しかけた。
どうやら、授業をまともに受ける気はないようだ。
「今日だけ臨時よ」
香里はそう言って眼鏡越しに祐一を軽く睨むと、すぐに黒板へと視線を戻す。
黒板−ノート間の目の往復を忙しなく、だがしっかりと行うところは流石と言えよう。
真っ白な祐一のノートとは対照的にぎっしりと書き込まれている。
そこまで石橋は書いていないのだが。
香里の『しっかり授業受けろ』というメッセージつきの睨みも気にならないのか、祐一は嬉々として香里を見つめている。
「……何なのよ?」
「いや、俺のことは気にせずに授業を受けてやってくれ。石橋が可哀想だ」
文字通り死んだように眠る生徒一同を一瞥しながら、祐一苦笑する。
今現在、ご健在の生徒はクラス全体の1割程度である。かなり少ない。
「だったら、相沢君も受けなさいよ」
「それとこれは話が別だ。――お、新しくなんか書かれてるぞ」
「……はぁ」
香里は溜め息を吐きながら、シャープペンをノートに走らせた。
暫らく経っただろうか。
石橋は眠りこける生徒たちを気にするでもなく、喋っては黒板に文字を刻んでいく。
周りなど目に入らず、どこか恍惚とした表情を浮かべていることから、自分の世界に入ってるようだ。
その頃、数少ない生存者である香里はほとんど授業に集中できていなかった。
何故なら、先程からずっと祐一が香里を見つめているのだ。
そりゃあもう、嬉しそうに。
もし尻尾がついていたなら、フルスロットルで躍動していただろう。
いくら百戦錬磨の香里でも、少なからず想いを寄せている異性にこうも長時間見つめられていたら、何も頭に入らないだろう。
そっと祐一に目を向ける。
「――っ!?」
が、すぐに慌てて目を逸らす。
極上の笑顔を浮かべる祐一の姿は、どうやら今の香里には刺激が強すぎたらしい。
時計をじっと見てみる。
残り10分。
先はまだまだ長そうだ。
――授業終了のチャイムが鳴り響く。
それと同時にぞろぞろと起き上がる生徒たち。
B級ホラー並だ。
それに紛れて、香里は深い溜め息を漏らす。
その顔には安堵の表情が強く浮かんでいる。
どうやら、彼女にとって先程の時間はかなり堪えたみたいだ。
「香里っ」
そこへ、彼女にとってのA級戦犯である祐一が微笑みながらやってきた。
自らの苦難など知る由もない祐一に、香里は文句の一言でも言ってやろうかと思ったが、心底楽しそうな表情を浮かべる祐一を見て、怒気が薄れるのを感じていた。
「香里、香里っ」
「何度も呼ばなくってもちゃんと聞こえてるわよ。――で、何?」
「眼鏡、かけてたんだな」
「さっきも言ったでしょ。これは臨時。普段はコンタクトよ」
香里の説明も碌に聞かず、祐一はとても物欲しそうな目で香里を見つめる。
「……何、貸して欲しいの?」
その一言で、目を輝かせる祐一。
直後、物凄い勢いで首を縦に振る。振る。振る。
まるで、子供のようだ。
『はぁ……』と溜め息一つ、香里は眼鏡を外すと、祐一に渡す。
「……はい。壊さないでよ」
祐一はそれを嬉しそうに受け取ると、まじまじと視回す。
たったこれだけのためにこの男は授業をほったらかして自分を見ていたのか、と少々落胆する香里。
しかし、呆れの方が強いのか、何度目か分からない溜め息を吐くと、ぼやける目で祐一の様子を眺めることにした。
その祐一はというと、受け取った眼鏡を徐に、しかし恐る恐る自らの目にかけだしていた。
「おぉ!?
何にも見えないぞ?」
「それは相沢君の視力が良いからでしょ」
香里は視力の低下を注意することもなく、その様子を見ている。
祐一の行動が面白いようだ。
祐一は妙な体勢で辺りを弄るように手を動かす。
ちょうど、暗闇の中にいるような感じだ。
「お、おおぅ?」
「え?
ちょ、ちょっと――きゃあっ!」
バランスを崩したのか、祐一は香里に抱きつくように倒れた。
香里は突然でのことと、祐一に抱きつかれているということが顔を真っ赤に染め上げていた。
「わ、悪い、香里」
「……あ、うん。気にしないで」
むにゅ。
「…………」
「…………」
直後、香里の顔が先程よりも真っ赤になる。
どうやら、祐一が立ち上がろうとした際、両手が香里の豊かな胸を鷲掴みしたらしい。
……そんなこと普通は有り得ないが。
「わ、悪い、香里。わざとじゃないんだ」
「……あ、うん。気にしないで」
むにゅむにゅ。
「って、揉むなーッ!!」
我に還ったのか、香里は身体を離して胸部を腕で覆う。
その顔は少し涙目になってたりする。
萌え。
「ごめん、香里。悪ふざけが過ぎた」
「……もうっ」
祐一が謝ると、香里は表情を崩した。
そして、小声で
「こんなことするのはちゃんとした場所で……ね?」
と、祐一だけに聞こえるように勇気を出して言ってみたはいいが、祐一の意識は既に眼鏡へと舞い戻っていた。
香里はその姿を見て、癖となりつつある溜め息を大きく吐いた。
祐一にそういうことを求めるのは無駄だと分かったようだ。
「見える!
見える!
窓からローマが見えるっ!!」
「見えないわよ」
「……すまん。フランスの首都はローマじゃなかったな」
「…………」
もう一つ言うと、これから先、香里が祐一から主導権を握るのは不可能に近いだろう。
今までからかわれっぱなしだし。
キーンコーン――。
――授業開始のチャイムが鳴る。
それを聴くと、祐一は眼鏡を外し、香里に返した。
「サンキュ。面白かった」
「全く……もう、あたしの眼鏡で遊ばないでよ?」
「あぁ、もう飽きたしな」
「人ので遊んどいて、随分飽きっぽいのね?」
祐一の言葉を聞いて、香里はさっきまでの逆襲とばかりに少しきつく睨みつける。
しかし、祐一はそれに対してニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「俺は目が良いからな。――大好きな香里の顔がよく見えなくなる」
「なっ……!?」
やはり、この二人の主導権は祐一しか握れないみたいだ。
なんていうか……願望?
眼鏡の香里っていいじゃん、っていう祀りに相応しい妄想(ぉ
いいですよね、かおりんの胸(爆
やはり合言葉は『ふにょっと』だぁ!
っていうか、クオリティ低いぞ、大丈夫か、主催者。
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