Angel Love 後編

 

 

 

 

 

 

 

「あ、秋子さんっ!?何でここに?」

 

よくよく見てみると彼女の服装は、なんとナース服ではないか!

独特の青い髪が、白のナース服と良いコントラストを生んでいる

突然の衝撃に戸惑い、思考が回らない祐一

漸く息の整った秋子は混乱している祐一に強めの口調で言う

 

「祐一さんっ!!」

「はいっ!」

 

見えざるプレッシャーで、体が勝手に気をつけの姿勢を取ってしまった

(怒られるのか?理由は分からんが……もしかして洗濯物を取り込んでいる時に秋子さんの下着に目を奪われて、

 眺めてしまった事がバレた!?だって黒かったんだから仕方ないじゃん!それとも寝ている名雪に肉って額に書いたやつ?

 転んだ時に思わず秋子さんの胸を揉んでしまったやつか?ぐっ、あり過ぎて分からねぇ…)

混乱が強まって心の中で数々の悪行(?)を大暴露

萎縮して待ち構えていても、依然自分の身に何も起きない

秋子を見ると目にキラリ光るものを浮かべていた

 

「祐一さん!」

 

そして秋子は平手打ちを………ではなく、祐一に寄りかかるようにして抱きついた

 

「よかっ……よかったっ…!。血を吐いて…倒れたって聞いてっ………。本当に、本当に心配したんですよっっ!!!」

 

埋めている胸板の部分が彼女の涙で染みになっていく

その冷たさが要らぬ心配をかけさせた事を責めさせて、その温かさが彼女の優しさに感謝をさせた

 

「もう嫌なんです。あの人の……あの人のように大切な人を失いたくない!」

 

一層秋子の抱きしめる力が強くなり、離さないように、繋ぎとめるように留まらせる

涙も相変わらず流れたままだ

(あの人?大切な人ってことは……もしかして…秋子さんの夫じゃ…)

だからこんなにも心配してくれているのか

自分を夫と重ねているのかもしれないが、そんな事を抜きにしてそう思うと心が痛む

麗らかな気分を与える日光の中に、秋子の嗚咽が一段と強調されて静寂を渡る

落ち着かせようと頭を撫でようとするのだが、ナースキャップを被っていて無理であったので背中を摩り、時には軽く叩く

赤ちゃんや子供をあやす仕草に似ていた

秋子も懐かしさと気持ちの良さから段々と平常心を取り戻していき、大切な人の命を身体で感じる

 

「あの……秋子さん。幾つか質問してもいいですか?」

 

頃合いを見計らって祐一が尋ねた

 

「はい、いいですよ」

「何でナース服を着てるんですか?まさかとは思いますがコスプレ、なんてことはありませんよね?」

「ふふふ。私はこの病院の看護婦として勤めていますから。ちゃんとした職業服です」

 

初めて秋子の口から仕事について祐一は聞いた

少なからず衝撃を受けたようだ

 

(秋子さんってナースだったのか。でも似合ってるよな〜。白衣の天使………ピッタリだな。家でも着て欲しい)

 

彼女が看護婦であるよりも、ナース服を持っている事の方が大事らしい

ちょっとした妄想が広がり始めている

 

(私服だと着痩せするタイプなのか?かなり胸が大きく見える……。これは名雪以上だな。まったく、1児の母に見えん)

 

彼の視線は上から下へ(途中ある部分で止まったが)移動していく

祐一に見つめられて頬をほのかにピンク色に染める秋子

どんどん下降していき、またある部分で停止する

(ス、スカートが短くないかっ?半分ぐらい太股が露出してるし………じゅるり…。うわぁ……マジで触りたいっ!!)

ヤバイ方向に進んでいく祐一の思考は益々ヒートアップ

目が変に血走っているのは気の所為ではない

今度はピンポイントに射抜く視線から意図を読み取り、桃から林檎へと彩られていく

 

「………祐一さんのエッチ」

「ち、違いますって!俺はっ、そ、そんな卑しい目で見てたわけ……じゃ…ぁ…」

 

スカートの裾を伸びないのに無理矢理ギュっと掴む仕草がとても可愛らしくて、激しく萌えた

エッチと言われて、そして萌えで撃沈した祐一に秋子が恥ずかしそうにボソボソ呟く

 

で、でも……祐一さんになら……もっと、もっと見てもらいたいですぅ…

「何か言いました?」

「あっ、え、あの、そのっ、何でもありませんから!」

「はぁ……別にいいんですけど。そうだ。俺ってどのくらい意識失ってました?」

「えっと、たぶん5時間ぐらいだと思います」

「そうですか。で、俺って何の病気なんですか?」

 

一番最初に聞くべき事を今聞くとは………“漢”とのしての血には逆らえなかったらしい

その言葉で冷静になった秋子は音も無く立ち上がり、手を差し伸べる

 

「主治医の所に行きましょう。そこで詳しい事は説明してもらえます」

 

祐一は遠慮なくその手をとってベンチから離れる

 

「重い病気なんですかね?」

「ちゃんと休養すれば大丈夫ですよ。原因や詳細はやはり聞かないと分かりませんが」

 

秋子は祐一の身体を支えながらゆっくりと中庭を後にする

((温かい…))

触れ合うお互いの体温が共通して自分達に伝わってきた

特に秋子は家庭で何時も見せる笑みよりも、柔らかく魅せるものだった

院内はお見舞いに来た人々で賑わっている

一般の診察は午前中で終了し、午後からは入院患者の診療がメインだ

そこを抜けて人気の無い廊下を2つの足音が通る

ちなみに祐一はずっと裸足だったので、再び病院に戻った時に秋子に持って来てもらっている

1つの扉の前で秋子が止まり、祐一も自然と同じようにする

コンコンコン

 

「どうぞ」

「失礼します」

 

ノックをすると中から女性の声(?)が返ってきた

2人は部屋に入り、カルテに目を通している若い医者と対面

男性(?)にそこに座ってくださいと促されて、背凭れがあるターン式の椅子に腰掛ける

 

「相沢祐一君だね?僕は堀川雄樹。君の担当医になるんだ。これからよろしくね」

「こちらこそよろしくお願いします」

 

軽く握手を交わす2人

秋子は彼らを後ろで見ている

雄樹の第一印象は優しくて付き合いやすい感じ、そして女性っぽい

否、「女っぽい」のではなく「少女っぽい」のだ

童顔で髪は腰まで伸ばしていて、それだけならいいのだが、ポニーテールにしていてより少女さを醸し出す

言うまでもなく声質も幼い少女のもの

これは狙っているのか、寧ろこれが当たり前?

聞こうか止めようか悩んでいると雄樹が微笑んで言う

 

「この髪型は僕の趣味なんだ。男の格好が似合わないから、いっそのこと女の格好にしちゃうのがいいかなって。

 僕自身気に入ってるからね」

「そ、そうなんですか…」

 

冷や汗を大きく1つ額に表してしまう

もしかしたら同性愛者なのかもしれない

祐一の中で言葉に出来ない不安が渦巻く

 

「でも意識を取り戻してすぐに抜け出すなんてね……。部屋に行った時は驚いちゃったよ」

「すっ、すみません」

「外に出たのは褒められた事ではないけど、ある程度動けるのは良い事だから。でも、もうダメだよ。今は冬で寒いんだからね」

 

頭を下げる祐一に雄樹は苦笑しながらレントゲン写真を出していく

扉の開く音がして、目を向けると秋子が退出するのが見えた

彼女も自分の仕事があるので彼だけに付いているわけにはいかないのだろう

この部屋に雄樹と2人きり

祐一の第6感が危険信号を発している気も否めない

とにかく今は様子を見るしか万が一の対策はないようだ

 

「さて、祐一君も気になっていると思うけど、君の患っている病気について話そうね」

 

微笑を崩さず、それとも本来そういう表情なのかもしれないが、雄樹が本題に触れる

緊張と不安が祐一に重い空気として圧し掛かる

 

「肺炎と胃潰瘍。この2つが祐一君の病気」

「肺炎と…胃潰瘍……」

「このレントゲンを見て欲しいんだ」

 

十数枚あるうちの1つを指す

 

「これは肺なんだけど……右と左を比べてどう見える?」

「………左の方が少し黒ずんでいるような気がします」

「うん。つまり右の肺が悪いってことなんだ。細かい事を言ってもよく分からないと思うから端的に言うよ。これはウイルス性の肺炎。

 でも、これは軽度のものだからそこまで心配はいらないの。まだ発病してから時間が経っていないみたいだしね」

 

雄樹が女の子口調で説明している中、祐一は安堵していた

自分が患っているのが予想より重い病気ではなかったからだ

脳内出血や癌など余命僅か、と言われたら自我を保てるかどうか分からない

 

「じゃあ胃潰瘍の説明もしようね」

 

あれこれ思考に沈んでいるうちに肺炎については終わってしまったようだ

 

「分かるとは思うけど、胃の内側が爛れて崩れ落ちている、穴が開いてしまう状態を言うんだ。祐一君の場合、

 肺炎よりもこっちの方が重症だね。酷い腹痛ぐらいだったらよかったんだけど、膜は薄くなってるし、穴も幾つか空いちゃって。

 だから吐血してしまったんだよ。何かストレスでもあるのかな?」

「………」

 

自分にとってのストレスとは何か?

思い当たる節が無い

肺炎は風邪の延長線上だと考えればよいとして、別にこれといって風邪を引くようなことは…………ある

夜更かしを、しかもずっと寒空の下に

親友を救う為に丘や公園、校舎の中で過ごす時期が

つい1〜2週間前の事だ

 

「あ、丁度いいタイミングに」

 

先程部屋を出た秋子が再び入室してきた

何故か車椅子を運んできて

 

「何でしょうか?」

「水瀬さんは祐一君と一緒に住んでるんだよね?最近祐一君にとってストレスになるような事、風邪を引くような事ってあったかな?」

 

同じ質問を雄樹が投げかける

秋子は1回祐一に視線を向けた後、微笑む

 

「夜中、頻繁に出かけていた事はありました。しかし悪い意味ではありません。外出していたのは仕方がなかったんです。

 祐一さんを想っている人達の為に1日中奔走していたのですから。それに私も祐一さんに救われた1人です。

 しかも深夜に私が誘った形で。だから余計に悪いとは言えないんですよ」

「そうなんだ。内容までは聞かないけど、本人がストレスと認識してなくても肉体、精神共にそれを受け取っちゃったんだ。

 肺炎は薬で治せる。でも胃潰瘍はストレスを溜めない環境で療養するのが一番だよ。だから祐一君には入院してもらうね。

 それで…………その前に病室に行こう。此処にいると拗らせちゃう可能性があるから。じゃあ、その車椅子に乗ってね」

「その、自分で歩けますから」

「だ〜め。身体に負担をかけちゃうと治るものも治らないよ」

 

可愛い顔して叱られたので、しぶしぶと気が乗らないまま車椅子に乗る祐一

秋子に押されて部屋を出た

初めて乗ったそれは、自転車や車とは違った不思議な乗車感で、意外と快適であった

偶に見かけては大変そうだなと考えていたが、自分で動かした時の話で誰かによって運ばれるのは楽なのだ

 

「祐一さん」

 

秋子が話しかけ、後ろを振り向くと首が疲れそうなので声だけで反応する

 

「何ですか?」

「すみません。勝手にあの事を話してしまって」

「大丈夫ですよ。細かい事まで言ってないじゃないですか。あそこで咄嗟に嘘も考え付きませんでしたから、感謝してます」

 

本当にどう答えようか悩んでいたんですよ、と秋子からは見えないが苦笑いを浮かべた

詳細を言ってしまえばプライベートに関わってしまう

しかも彼女達の事情は一般を逸脱しているものばかり

信じない、相手にされないというのが普通だろう

秋子は上手い具合に曖昧な表現で暈してくれた為に、相手も納得して次の話題に進んだ

祐一にとって、言っている通り感謝すべき事である

無論、秋子も祐一に感謝していた

口にしてしまった後、失敗したと後悔していたのだが、彼の、恐らく彼自身にとっては当たり前なのだろうが、

言葉が深く心に響き渡る

何気ない優しさが心地良さを生み出す

それに何度救われた事か

今の秋子が生きる為の重要な活力になっている

角を曲がり、いよいよ入院患者の集まる病棟に入った

ちらほらと廊下にいる人を見かけ、しかしながら検診やリハビリの時間みたいで人気は寂しい

専用のエレベーターで上の階に昇り、祐一に割り当てられた病室に2人は向かう

閉まっていた窓は空いていてカーテンが靡き、乱れていたシーツはきちんと清純されていた

車椅子から降りて祐一はベットに座る

 

「でも……」

 

唐突に秋子が切り出す

 

「祐一さんが7年ぶりにこっちに来た時からそうでしたが、祐一さんがいてくれて本当に良かったです。

 あの時は一番実感出来ました」

「何だか面と向かって言われると照れますね。けどあの時は偶然ですよ。場合によっては名雪だったかもしれないですし」

 

車椅子を壁際に寄せる秋子

ストッパーをかけて勝手に動かないようにする

さて、2人の会話に挿入されている『あの時』という単語

一体何を指しているのであろう

時は遡ること3日前

祐一と秋子は夜中11時頃、商店街に向かった

理由は「私だって祐一さんと2人っきりでお話がしたいんですよぉ」と頬を赤くして甘い声で言われた為

飲み物とお菓子類を購入しにコンビニへ赴いた

その際、太りますよと祐一は言って秋子を半泣きにさせたのは秘密である

それに激しく萌えて思わず抱きしめてしまったとかしまわないとか

帰宅途中横断歩道を渡っていると、一台の車が猛スピードで2人に向かってきた

決して祐一と秋子が信号無視をしていたわけではない

後で分かった事なのだが、飲酒運転だったらしい

丁度横断歩道の中間地点を歩いていた2人が気づいた時には、僅か3m程にまで迫っていた

秋子は助からないと絶望から目をきつく締める

しかし衝撃の受けた方向は横からではなく、正面からだった

一瞬の浮遊感の後、背中から全身に走る打ち付けられたような痛み

考えていたよりも全然痛くなかったのを疑問に思い、目を開けてみる

すると祐一が自分を抱きかかえて庇ってくれていたではないか

本能的に身体が反応し、秋子を抱えて飛んだのだ

肘や頬が擦り剥けて血が流れているのにも関わらず、笑顔を向けて安心させるのと同時に癒してくれた

2人が立ち上がろうとした瞬間、車は10m先の電柱に激突

ガラスの崩れる激しい音と共に、周囲からの悲鳴とざわめきが発生する

車体は見事なまでに凹んでいて、たぶん運転手は生きていないだろう

衝突したのが電柱であったからよかったものの、もし自分達だったら確実に死んでいるはずだ

解放感が秋子を襲い、安心感に包まれた事により、堤防が決壊したかのように祐一に縋り付いて大泣き

救急車とパトカーが駆けつけるまで続けられた

秋子は祐一のおかげで無傷、彼も運良く擦り傷と打撲だけで済んだ

以上の事柄が『あの時』の内容である

 

「その可能性は絶対にありません。あの娘はもうぐっすり眠っていますから」

 

祐一の隣に立って頬に手を添える

実の親にここまで言い切られるとは…………水瀬名雪、流石と言うべきか

 

「そういえばそうですね」

 

否定する事無く祐一も頷く

ガチャ

ドアが開き、雄樹が1人の看護婦を連れて入ってくる

彼女は台車を押していて、点滴や注射器などが置かれていた

 

「これからの事を話す前に点滴を打とうね。今度は外しちゃだめだよ」

「は、はい」

 

雄樹は優しく窘めた後、祐一の左腕に注射して点滴の管を通す

細かな作業は長くなるので省略する

流れる量を調節して棒に掛けた

最中、秋子ではないナースが別の注射器に薬を入れていた

脱脂綿に痛みを和らげる麻酔薬を染み込ませ、反対の腕に塗る

雄樹に注射器を渡し、薬を注入

小さなガーゼを止血の為に宛がう

 

「今打ったのは肺炎用の薬。点滴は栄養分を送り込んでいるの。今日は食事出来ないからね。明日からは1日1食、

 飲み物も水だけ。外出は基本的に禁止。トイレは自由に行っていいから安心してね。要はベットで絶対安静ってこと。

 さて、質問はあるかな?」

「水は何処で飲めば?」

「冷蔵庫があるから水瀬さんにミネラルウォーターでも買ってきてもらえばいいよ」

「飴とかガムとかは?」

「う〜ん……。駄目とは言えないけど過食はいけないね。少しぐらいなら許可するよ。それも甘いやつだけね」

「どのくらいで退院出来そうですか」

「そうだね。症状的に診れば最短で1ヶ月程だけど、肉体的にも精神的にも疲弊しきっているからもう1ヶ月、

 大体2ヶ月ぐらいになりそうだね」

「2ヶ月………そんな長いんですか」

「祐一君の治癒力によって変動するからはっきりとした時間は言えないけどね」

 

結構な長さに祐一は口を噤む

今から2ヶ月、つまり新学年としての生活が始まるということになる

新たに出会う生徒逹も、特に転校生である祐一にとっては多々いるに違いない

そんな中で1人スタートを出遅れてしまうのだ

受験生で勉学で忙しいとはいえ、唯一解放感に浸れる生徒逹との、友人とのコミュニケーションが取れないのは孤立の原因となる

またその時期は冬国で漸く桜が開花する

教室の窓から見る勇気と幸せを与える桜も、病室からでは命の儚さを如実に表しているかの如し

窓もそうだ

たったそれだけで、と思いがちだがその1枚が外界と内界を大きく隔てる

暖かな日光と温かな心の活きる町、家、人間、自然

無機質な壁と空気が司る病室

大きく窓を開けたとて、そこから飛び立つ事は叶わぬ夢

翼をもがれた鳥が鳥籠の中で生きていくのを余儀なくされた様

ありふれた日常が突然崩れると、どうも悲観的な考えが脳内を埋める

 

「もうないようだったら僕は戻るから。何かあったらナースコールで呼んでね」

 

雄樹が白衣を翻して出て行こうとするが、祐一があっと漏らして振り返った

 

「どうしたの?」

「着替えとかどうしようと思って……」

「ああ、忘れてたよ。その事だけど、今から水瀬さんに用意してもらおうと思ってたんだ」

「い、今からですか?」

 

秋子は慌てた様子で問う

 

「もうすぐ日も暮れるから早い方がいいよ」

「で、でもっ…」

 

躊躇いを見せている秋子に仕方ないな、と言った感じで耳打ちをする

 

「――――のポイントを稼ぐチャンスだよ?」

「っっっ!何故それを!?」

 

顔を赤くして秋子は雄樹を睨む

娘同様、寧ろ可愛くて恐さをなど微塵も感じられない

 

「ナース達との飲み会、僕も参加してたからね。別に興味ないって言ってたけど、一番気にしてるよね。見守るだけでいいのかな?

 本当は違うんでしょ?いい加減素直にならなきゃ。それに此処で他のナースよりもリードを取った方が得策だと思うよ」

「………分かりました。今から家に戻って祐一さんの着替えを持ってきます」

 

早口で言うと、ツカツカと早足で病室を去っていった

彼女の後ろ姿を企みが成功したように微笑んで見送る雄樹

何が何だか理解していない祐一

怒っているのかな、ただそんな事ぐらいしか予想出来なかった

 

「さて、祐一君。ここ最近、町中で女性に話し掛けられた事はなかった?」

「女性に………。えぇ、ありました」

「皆自分は看護婦だって言ってたでしょ?」

「確かに言ってましたけど……何で知ってるんですか?」

「ううん。こっちの話。いやはやそんなことになってるとはねぇ……。これは厳しいかもしれないかな」

 

不敵な笑みを残して彼も病室を出て行く

しかし彼と一緒に来た看護婦は逆に祐一へ近付いてきた

 

「私、美坂希織っていいます。えっと、結婚を前提に友達になってくれませんか?」

 

恥ずかしそうにちらちらと見ながら途中、一番大事な部分を小さくして自分を名乗る

 

「結婚を前提にってのは無しで、友達になるのなら俺の方こそお願いします」

 

その努力も虚しく祐一には丸聞こえ

本来の自分に戻ってきたようで軽く受け流して答えた

 

「あ、あははは……。じょ、冗談ですよ〜(ふえ〜ん。上手くいったと思ったのにぃ(泣)」

「そうですよね。でも掴みとしてはよかったですよ」

 

彼女の本心を知らないで、ギャグだと思い込んでしまう

この様子から察するに、希織も祐一を狙う看護婦の1人のようだ

希織は細かな世話をしながら祐一と楽しく雑談を交わしていた

もうすぐ自分の勤務時間も終わるので祐一に病院についてレクチャーする、ということを口実に残り時間を費やしている

その他の内容は此処では言えないような事も、無論含まれているので伏せる

長針が円の半分を回った頃、入口から1人の影が音も無く現れた

 

「あら、希織。随分楽しそうですね……?」

 

その正体は秋子だった

両手に祐一の着替えを詰めたバックを持って微笑んでいる

尤も天使のようで魔王のようでもあるが

殺気の流れる空気が祐一達を恐怖へ導く

 

「あっ、ああ、秋子さんも戻っていらっしゃったんですかっ?!」

 

驚きと恐さから声が震えている希織

 

「戻ってこない方がよかったかしら?何せ“残り時間”が“少ない”からといって、

 しかも勤務を“サボって”祐一さんと“2人っきり”でお話をされていたんですからねぇ。さぞかし楽しかったでしょう」

「は、はぅ……」

 

3割増しになった秋子の笑みと容赦ない言葉で希織は撃沈

所々単語を強調して言うあたり、秋子もかなり怒り心頭の様子だ

(そりゃあ、サボってたらいけないよな)

祐一も同意するが、2人の本心は如何なものか

近いうち祐一も知ることになるのだが、今は語るまい

 

「では希織。ナースステーションに戻ってとっとと帰りなさいね」

「うぅ…はいぃ…」

 

影が見える程落ち込んでいる希織はふらふらと歩き出して消えた

流石に相手が悪かったかもしれない

 

「さて、祐一さん…?」

「なっ、何でございましょうか?」

 

矛先が自分に向けられた事に祐一は態度を低くしてしまう

しかし今度は刺々しさのない穏やかな笑顔だった

 

「服は動き易い部屋着を4日分持ってきました。着替えた服は黒い大きい袋がありますから、そこに入れて置いてください。

 私が持ち帰って洗ってきますから」

「お手数おかけします、秋子さん」

「いいんですよ。私も好きでやっている事なんですから」

 

頬に手を添えて微笑む姿に、祐一の心が揺れる

子持ちとは思えない容姿が可愛らしく、綺麗で、愛しい

魅力的なそれはかなりの破壊力を備えている

 

「祐一さんの部屋にあった雑誌類も一応あります。読んでしまったとは思いますが。買ってきて欲しい物がありましたら言ってください」

 

小さめのバックから雑誌と小説と漫画が覗いていた

 

「それと……」

 

ベットの横にある棚の上に置いて、何か含みのある笑みで祐一を見た

 

「エッチな本は全部処分しちゃいました♪」

「マジですかっ!?」

 

大きな声で反応してしまう祐一

これにはショックを隠せない

祐一も年頃の“漢”、夜のお供ではなくとも必要なのだ

 

「ど、どうして………?」

「もう必要ないからですよ」

 

彼女の言葉の意図が掴めない

必要がない――――病院だから?

否、病院だというのは関係無いはず

しかしながら此処には白衣の天使が住まう場所、楽園

彼女達が――――(公の場では不適切である為に伏せさせてもらう)してくれるのだろうか

治療と言えど、そこまで面倒は見れない………と思う

もしかしたら極一部ではあるのかもしれないので断定は不可能だ

 

「――て――いる―――いで――」

 

考えることに没頭して、続く秋子の声もぼやけてしか耳に届かない

結局答えが導き出せなかったので尋ねてみた

 

「それはどういう………」

 

が、秋子は既に退出していて自分1人だけだった

窓から風が流れて場を冷やす

虚しさに襲われた祐一は掛け布団を頭まで被って寝る事にした

 

 

 

 

 

 

 

 

祐一が入院してから10日程が経つ

病院内での移動もある程度許され、車椅子で回ったりしている

偶に自分で動かす事もあるが、基本的に秋子が押してくれていた

だから祐一と一緒にいる事が多い

今日は祐一だけで移動していた

診察も終わり、部屋にいても暇を持て余してしまうからである

入院患者と擦れ違いながら周りを見ていくと、ある1つの部屋を視界に入れて止まる

自分より年上である(25〜30歳ぐらいだろう)男性を介抱している秋子がいた

新しく包帯を取り替えて、笑顔で他愛もない話をしている

段々険しさを増していく祐一の表情

ムカムカ感を胸に秘めながらそこを後にした

心なしか、移動するスピードも速い

ホイールを握る手、動かす腕にも力が無駄に込められている

 

「苛立っているのか、俺は……」

 

見知らぬ男と楽しく話す秋子の笑顔

見知らぬ男に優しい手つきで触れる秋子の動作

全てに不快感、苛立ちを感じてしまう

それらが自分の勝手な理不尽さだと分かってはいる

仕方のない事、彼女の仕事なのだから

思えばあの時――――秋子とコンビニへ行った時もそうだ

誘われて心躍る思いだったのを今でも覚えている

秋子が支払いを済ませる際、男の店員に微笑を向けているのを見て、ムッとしている自分がいた

たったそれだけの、別に彼女が自然と行っている仕草なのに

どうしても胸が痛み、渇望する

――――その笑顔を自分だけに魅せて欲しい

 

「薄々気付いてはいたんだがな…」

 

悟った表情で笑みを零す

車椅子を止めて灰色の雲が覆う空を窓越しに見つめる

 

「もう……潮時だな」

 

視線を前に戻し、車輪を動かし始めた

顔に決心を残して……

そんな祐一に見惚れた女性がいるとかいないとか、定かではない

さて、さらに1週間が過ぎて身体の調子も落ち着き始めた頃

とは言ったものの、治ったのは肺炎だけで、胃潰瘍は回復はしているけれども食事制限は依然続いている

3月に入り、新たな生命が芽吹く春はもう近いというのに空から降る雪

暗き闇の世界に反射して舞い降りる白き精

黒が蝕んでいくのか、それても白が包み込んでくれるのか

同様に自分のこれから行う事も明暗を分ける

ガラガラガラ

夜の冷たく、恐怖を煽る静寂な空間に響く引き戸の動かされる音

目を向けなくてもその人物が誰なのか分かる

何故なら自分が呼んだのだから

祐一の目的の人物とは――――

 

「毛布をお持ちしましたよ、祐一さん」

 

――――水瀬秋子だった

ナースコールを使い、寒くて起きてしまったから毛布を持ってきて欲しい、と伝えた

だがこれは秋子を呼び出す為の口実にしか過ぎない

この日が彼女の夜勤である事も調査していたので呼び出すことが出来たのだ

 

「ありがとうございます」

 

ベットの中に入ったまま上体を起こして振り返る

秋子は慣れた手つきで両手で抱えていた毛布を上に重ねていく

 

「これで大丈夫ですか?」

「はい」

「じゃあ私は戻りますね。また何かあったら遠慮なく呼んでください」

 

最後に微笑を残して去っていく彼女を祐一は呼び止める

 

「待って下さい。少し話がしたいんです」

「………もう時間も時間ですし。それに祐一さんのお身体も速く休ませないと」

「お願いします」

 

真剣な眼差しで自分を見つめる彼

この表情は以前見せていた秋子を含め、親友達を救う時に見せていた偽りないもの

 

「……分かりました。でも、少しだけですからね」

 

見てしまっては断れるはずもなく、了承する事にした

祐一は緊張を解かぬまま言葉を発していく

 

「単刀直入に言います」

 

まだ祐一は秋子から目を離さない

否、離してはならない

自分の中にある想いを真っ直ぐに伝えるには、相手と繋がらなくてはならないのだから

 

「俺は秋子さんが好きです。1人の女性として、秋子さんが好きです」

 

祐一の口から出た言葉に秋子は驚き、固まる

――――私のことが好き?祐一さんが?私を……好き…?

何度も頭で反芻しながら正常な思考を取り戻していく

 

「……嘘では…ないんですね」

 

重々しく出た一声は、祐一の全てから汲み取った真の想いの確認

 

「当たり前です。嘘でこんな事は言いません」

 

進行形で見続けている視線

鋭さがありながらも安心させてくれる、祐一の瞳

そして1度だけ、この祐一を見た事がある

穿たれ、魅入ってしまった、気付いてしまった、あの事故の日

不安と恐怖で震える自分に彼はこの瞳を向けて言ってくれたのだ

 

『秋子さんは俺にとって一番大切な人なんです。どんな時も一緒にいて、守り抜いてみせます。だから安心して下さい。

 今は未熟ですけど、何時でも秋子さんが頼れる人になりますから』――――と

 

祐一は嘘を言うのが苦手だ

秋子も実際に体験しているので知っている

表情に、瞳に真意が表れてしまうからだ

 

「祐一さんのその想いは嬉しいです。でも……私達は叔母と甥。血の繋がりを無視出来る関係ではないんです。

 祐一さんもそれを分かっているはずです」

 

秘めたる想いを抑え、笑顔を作った

世間が、法が道を阻む

抗えば異端者として生きていかなければならない

 

「そんな事は分かっています。それを抜きにして、俺は秋子さんの気持ちが知りたい」

 

祐一の心は現実の壁が立ちはだかろうとも揺るがない

告白するのなら知っていて、考えていて当たり前だ

それでもストレートに進み続けるとは、己の全てを賭けているのだろう

秋子は戸惑った

此処で祐一も引き下がってくれると思っていたからだ

しかし、実際が違う

尚も自分に想いをぶつけてくるではないか

真摯な態度で向かうのを見て、心が痛くなる

自分は偽っているのに、彼は正直に言っている

だからこそ仮面を被らなければならない

自分より相応しい女性は身近にいる

叔母である自分は、彼の歩む道を見守るのが役目なのだから

 

「私が断る、という選択肢は浮かんでいないのですか?その場合、祐一さんはどうするんですか?」

「考えていますよ。絶対に、“はい”と答えてくれるなんて自惚れていません。それと秋子さんが断った場合……」

 

祐一が言葉を区切る

もう1度自分の想いに問いかけて、決心する為に

 

「お互いに居辛くなるでしょうから、両親のいる海外に行きます。結構落ち着いた所みたいですし、

 そこで少し身体を休めて新たな気持ちで歩き出そうと思っています」

「えっ………」

 

予想以上の答えが返ってきて唖然としてしまう

諦めて他の女性を好きになるという考えは甘かった

家を出て、秋子と過ごした日常を思い出に変える

それ程までに大きな決意が表れていた

 

「い……ヤァ……」

 

衝撃的な返答が見えない何かとなって全身を流れていく

秋子は顔を俯けて身体を震わせる

祐一が出て行く?どうしてそんな事が考えられようか

否、考えられるはずがない

秋子もそれは望んでいないから

秋子もずっと一緒にいたいと思っているから

秋子もずっと祐一を一生頼っていたいから

祐一に自分だけを支えてもらいたいから

――――誰よりも祐一を愛しているから

 

「そんなの……イヤアアアアァァッッ!!」

 

パリリリィィィィン

今、仮面は外され、割れた

秋子を抑制する枷は、何もない

彼女の本心は牢獄を抜け出し、自由な世界へ飛び出す

黒が穢れ無き純白に彩られていく

募らせてきた想いを全部表に出してしまおう

もう、それしか自分の起こす行動はないのだから

 

「祐一さんがいなくなるなんてっ!!出てっ……出て行かないでっ!」

「ちょっ、秋子さん!?」

 

叫びながら勢いよく抱きついてきた秋子に困惑する祐一

 

「祐一さんがっ!祐一さんがいない生活なんて考えられないっっ!!!ずっと一緒に、私と一緒にいてぇっ!!!」

 

涙で顔を一杯に濡らして秋子が祐一に頼み込む

何処か狂気を感じさせる彼女の表情は、魅力的で、美しかった

普通ならば気が狂ったと思うのだろうが、素直な想いを伝えている祐一と同じ想いが打ち消す

さらに今まで溜め込んできた本心が爆発している状態だ

祐一を呼ぶ言葉以外、普段の口調とは違って雑になっている

 

「お願いっ!!私だけをっっ!!私だけを愛してぇぇぇっ!!!!」

 

絶叫と共に涙が辺りに振り撒かれる

秋子の想いをしっかり受け止めた祐一は、彼女を落ち着かせる為にも、答える為にも――――

 

「んっ………」

 

――――ディープな口づけをした

 

秋子も自分がキスをしている事を理解すると、祐一の首に腕を回して没頭

フレンチな軽さは皆無

餌を貪るハイエナの如く、ただ愛を確かめ合うだけに激しく、一心不乱に求め合う

 

「…んふぅ……ちゅ……ぁ…んはぁ…」

 

舌を絡め、唾液の混ざる淫猥な響きが場を支配する

必要以上に身体を密着

お互いの身体を、体温を、想いを逃さないように

 

「くちゅ………んむ…ぅん…あぅん……は……ちゅ…んぅ……あぁ……ん…」

 

ますますヒートアップしていく2人の行為

頬は赤く、全身も熱を帯びて汗ばんでいる

現なのか夢なのかそれすらも認識出来なくなる程、秋子の思考能力は低下していた

感じられるのは己を突き動かす祐一に対する絶対愛と駆け巡る火照りと快楽のみ

故に心地良い、気持ちいい、温かい

混濁する意識下で秋子は自分が満たされているのを自覚する

全てを忘れ、永遠に浸っていたい

願望は際限なく溢れ出すが、それも叶わない

ビクンッッ!

 

「っっっ!」

 

大きく秋子の身体が痙攣し、結ばれていた唇が離れる

月光に照らされて淫らに映える透明の橋

秋子は脱力感に任せて祐一に体重を預けた

祐一は至って普通だが、彼女の呼吸は温くて甘く、マラソンをした後のように乱れている

しかし表情は満足と翔け昇った絶頂で妖艶なものであった

項に顔を埋めてこの世界に酔いしれる

 

「フフフッ。祐一さん……」

 

艶かしい声で何回も愛しき者の名を呟く

彼女を知る者が………否、知らない者でも壊れてしまった、と口を揃えて言うだろう

強ちその表現は間違っていない

悪い意味ではなく、勿論彼女にとってプラスになる意味だ

欲望のない人間は存在しない

それこそ生まれたばかりの赤ん坊でさえある、つまりなくてはならないもの――――欲望

だから完全にそれを抑えられる、我慢出来る人間も然り

秋子がこのような状態に陥るのも当然の結果なのだ

ヒステリーを起こした彼女は、差し詰め不幸を嘲笑う悪魔に酷似している

だが祐一はそれすらも天使だ、と思った

人間と同じで天使にだって欲望が渦巻くのは言うまでもない事

天使に潜む狂気の感情は対極に位置していて極上の美を生み出す

滅多に見せないだけで表に現れた時、それがインパクトがあるように見えるだけだ

 

「秋子さん」

 

祐一が秋子と向き合う

 

「もう1度、秋子さんの答えを聞かせて下さい」

 

秋子の肩に手を置いて、真正面から真剣な瞳で射抜く

もっとあの雰囲気に浸っていたかったと少々不満もあったが、祐一の瞳に見せられて頬を桃色に染める

天使の裏にある嘲笑ではなく、表にある慈愛の微笑で答えた

 

「愛してます。私は祐一さんを誰よりも愛していますっ」

 

言い終わるのと同時に再びキスを交わす

触れるだけの優しいキスを

そのまま2人は抱擁を続けた

先程までの取り乱しが嘘みたいな静けさが戻る

雪がしんしんと降り積もる音が聞こえる、そんな錯覚すらしてしまう程の静けさが

2人の抱き合う姿が異種族間のそれのように見えた

1つの芸術的絵画と言っても語弊はない

寧ろそれが真の姿なのかもしれない

秋子は“白衣の天使”なのだから

 

「よかった…」

 

不意に秋子がぽつりと漏らして静寂を破る

 

「祐一さんが私を好きでいてくれて」

「俺だって秋子さんが自分を好きって知って嬉しいですよ」

「でも……知ってますか?」

 

彼女の問いに祐一は首を傾げる

 

「祐一さんを好きな女性は沢山いるんですよ」

「俺を好きになる人がいるなんて、変な人もいるもんですね」

「……じゃあ私も変ななんですね」

 

頬を膨らませて秋子は不満を言う

祐一は頭を撫でながら微笑む

 

「秋子さんは違いますよ。俺の天使ですから」

 

“俺の天使”という言葉に薄紅色に頬が彩られる秋子

嬉しさと恥ずかしさで首元に顔を埋めて隠してしまう

 

「もうっ、上手なんだから♪それで好きな人ですけど名雪を含めた8人の生徒。後、ナース達も祐一さんを狙っているんです」

「ナースが?」

「飲み会の時、好きな人はいますかって聞かれたので祐一さんの事を言ったんです。別にナースになら言ってもいいと思いまして。

 けど写真を見せたら皆一目惚れしてしまって……。以来、外で祐一さんを見かけると声をかけるようになってしまったんです」

「だから全員看護婦である事を教えていたのか」

 

謎が解けて、若干すっきりしたような気がした

過去、雄樹が言っていた事も頷ける

俺ってモテたんだな、と祐一は他人事のように考えていた

秋子はまだ言葉を紡ぐ

 

「祐一さんが入院したのには驚きましたけど、反面嬉しかったんです。祐一さんといる機会が増えるって。

 専属にもなって祐一さんを専門的に世話していて本当に幸せでした。しかし、1つだけどうしても嫌な事があったんです」

 

意味深に言葉を区切り、その答えを祐一に投げかける視線を向ける

頭を悩ませるが自分なりの答えが出てこない

ギブアップを首を横に振って表す

 

「他のナース達との交流です。入院しているのですから別に可笑しくはありません。寧ろ当然の事と言えるのです。

 でも祐一さんが私以外の女性と楽しそうに会話をしているのを見てしまうと、胸が痛くて、苦しくて、憎かった………。

 祐一さんの声を、祐一さん笑顔を、祐一さんの全てを私に向けて欲しいっ!……………最低な女ですよね、私。

 独占欲が強く、自分の欲望を叶えたい為に自己中心的になってしまうなんて………。これじゃあ……嫌いになりますよね…」

 

最後は泣きそうな声で搾り出していく

秋子にとって祐一に拒絶されるというのは死活問題

全部を曝け出してしまい、故に彼女の感受性が祐一の行動1つ1つを大きく受け止めてしまう

 

「嫌いになんてなりませんよ」

 

耐え切れず秋子の頬を流れてしまった涙を祐一を指で拭う

 

「つまり嫉妬してくれてるんですよね?嫉妬は好きな気持ちがあるからこそ生まれるもの。嫌いになる理由がありません。

 それに俺も秋子さんが他の男の人を介抱してるのを見て、むっとしますし。一緒なんですよ、俺達は」

 

祐一は気にしていない事を自分も同じだ、と笑って告げた

そう言われて安心したのか、余計に涙が止まらなくなってしまう

だから祐一の胸に抱きついて涙を拭く事にした

その後数時間、2人はお互いを離さないまま過ごした

何があったのか?

矢鱈にギシギシとベットの軋む音や女性の悦な喘ぎ声が終始聞こえていた、とだけ言っておく

体中汗と白濁色の液体塗れで2人共、特に秋子は快楽に表情を染めていた事も追加しておこう

分かる事は、触れたら火傷してしまう程の愛を確かめ合っていたという事だけだ

 

 

 

 

 

 

 

 

月日は流れ、祐一が入院してから1ヶ月が経つ

めでたく祐一と秋子の2人は恋人同士となった

因みにこの出来事を女性陣は知らない

肺炎は完治し、胃潰瘍も8割方回復して食事制限も緩和

痩せていた体重も少しばかり肉が付いた

祐一はあの日の夜からこれといって変化はないが、秋子は違う

秋子が男性の世話をしているのを見ても、祐一は仕事だから仕方がないと割り切って考えている

フラストレーションは溜まっていくも、余裕で我慢出来る範囲だ

また彼女を可愛くからかったり、愛の営みで晴らしているのですぐに消滅出来る

しかし秋子の場合、祐一がナース達と話すシーンを見てしまうと一気に雰囲気が変わるのだ

まずは彼女達に笑顔で――――天使の裏に潜む狂気を出して近付く

そして身体の底から凍えてしまうような声で言う

 

「サボリはよくありませんよ……」

 

ナースは一目散に退散、祐一は体を震わせながらベットで丸くなる

祐一が誤解を解く為に必死に、全力で弁解をしていくのだ

その日の夜は何時も以上に長くて萌える秘め事が行われる――――といった内容が毎日繰り返されている、そんな日々が続いていた

今まで抑えてきた分、その反動が彼女を嫉妬へと導いているのだろう

これも愛故に、かもしれない

時刻は正午を回り、病院内でも昼食を開始

普通入院患者は病院側で作られた料理が配られるのだが、祐一だけは雄樹の取り計らいで秋子の手作り弁当

――――秋子曰く愛妻弁当を許可されている

毎日秋子の手で食べさせてもらっていた

暖かくなってきた陽の光に照らされて穏やかな空気の流れる中で萌えて萌える愛の炎

独自の世界を堪能していると、廊下から何人もの騒々しい足音が

病院内で走るのはマナー違反であるのを分かっているのだろうか

否、分かっていてもそんなもの彼女達にとっては小さい事

――――そう、祐一に関する事に比べれば

ドアが勢いよく開けられて入ってきたのは香里を戦闘とする8人の女生徒

室内での光景を見て絶句した後、すぐに香里は叫ぶ

 

「何で、『あ〜ん♪』なんてしてもらってるのよっ!!」

 

残りのメンバーも激しく同意、と言わんばかりに首を動かす

 

「あら、いいじゃないですか。だって……」

 

弁当箱と箸を棚の上に置く

 

「私は天使。天使は対象の人を幸せにする者」

 

祐一に微笑みかけ、彼も微笑み返す

 

「祐一さんに舞い降りた、祐一さんだけの愛の天使ですから♪」

 

そして見せつけるように熱いキスをした

全員は石化し、崩れて欠片が流されていく

気にも留めずに2人は2人だけの時間を満喫する

一瞬、秋子はしてやったりと笑みを浮かべた

天使は優しいだけではない

己の欲望の、愛の為なら悪魔にでもなれるのだ

そんな事を理解した1日も平和に刻まれていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

鏡華「リハビリ第1弾終了〜」

希織「ちょっとちょっとちょっとっ!!」

鏡華「何で貴方が此処にいるんですか……?」

希織「どうでもいいでしょっ!それより、どうしてまた秋ちゃんがメインなのよ〜!?」

鏡華「だって一応祀り用に書いた物だし」

希織「でも前後編はマズイって言われたんでしょ?だったらヒロインを私に変えるのが当然なの!」

鏡華「希織さんに決まってるんですか?」

希織「秋ちゃんもかおりんも書いたんなら次は私になるはずだもんっ!」

鏡華「まぁ香里さんは少しだけ出てきましたからねぇ」

希織「しかも私はあんなキャラじゃないし。ていうか勝手に使っていいの?」

鏡華「あれは同姓同名の『美坂希織』と言う事で…」

希織「それ、苦しくない?」

鏡華「ええ。自分で言ってて辛いと思いました。とにかく、希織さんはこれで出演したんですから文句言わないで下さい」

希織「私はメインヒロインでって言ってるの」

鏡華「ネタがないから無理なわけです」

希織「『Rhapsody』の外伝にすれば?」

鏡華「それも柊さんに許可取らないと」

希織「許可されたら、ぜぇ〜ったいに書いてよね!」

鏡華「時間があれば今度は書きますよ」

希織「じゃあ話を戻して………私、ものすごくヘタレな気がするんだけど。しかも秋ちゃんに敬語だし」

鏡華「設定的には希織さんは秋子さんより年下なんですよ」

希織「この秋ちゃん、結構恐いね」

鏡華「そこは突っ込まないで(汗)僕の精神状況を表していると思ってくれれば」

希織「………精神異常者?」

鏡華「病院に長くいましたからね。ある意味侵されたのかもしれません」

希織「それにしてもいきなり祐ちゃんが吐血するなんてね」

鏡華「少しはインパクトを持たせたくて」

希織「ストレスからって言ってたけど、別に奢りとかは関係無いんだよね?」

鏡華「書いてある通り、皆をつける為に夜も頑張っていたわけですよ。夜は舞シナリオがメインですけどね」

希織「秋ちゃんが事故に遭ってないのは祐ちゃんが助けたからなんだ」

鏡華「これはオリジナルです。事故に遭ったら秋子さん登場出来ませんから」

希織「見守る、とか言いながらちゃっかりポイント稼いでる所が秋ちゃんらしいよ」

鏡華「せめて2人きりの時は一緒にいたいというわけです。恋する乙女ですからね」

希織「私だってそうだよ。祐ちゃんにらぶらぶなんだから」

鏡華「寧ろ僕に頼むより柊さんに頼んだらどうです?」

希織「あの人はきっと書いてくれないよ。オリキャラなのに他の女に夢中、もといゾッコンだから。特に智代」

鏡華「………(汗)」

希織「だからこっちに頼んでるの」

鏡華「頑張りますよ。出来る限りラブラブなのを」

希織「秋ちゃんだけには負けないんだからっ!」

鏡華「それではお相手は皇 鏡華と」

希織「美坂希織でした〜」

鏡華&希織「「また次回〜」」

 

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