最狂の媚薬

 

 

 

 

 

 「――――ふふ♪」

 

 至上の喜び。

 極上の幸せ。

 其処にいるだけで甘美な世界に酔い痴れる。

 特別な香水を使っているわけでもないのに、良い香りが鼻腔を擽る。

 何よりも、どんなものよりも、破壊的で魅力的な、唯一無二の香り。

 この世で最も甘く、どんなお酒より陶酔し、体が熱く火照る。

 

 私にとって最上級の麻薬のような、匂い。

 依存症なほどに泥酔しきった私。

 もう、やめられません。

 

 

 

 

 

 

 最狂の媚薬

 〜悦に入る条件〜

 

 

 

 

 

 

 「何やってるんですか、秋子さん?」

 

 ひゃぅ!?

 いつの間にか祐一さんが後ろに!!

 戸を開けたまま見事に固まっています。

 瞳に映っている光景が信じられないみたいです。

 

 「欲求不満だったんですか、それなら俺に言ってくれればよかったのに」

 「―――――――――え?」

 

 全く以って、これっぽっちも理解できない言葉に私の頭は混乱するしかありません。

 私の疑問に答える気がないのか、祐一さんはゆっくりと近づいてきます。

 

 

 ――――私の元に

 

 ――――私がいるベッドに

 

 ――――私が体全体を預けている祐一さんのベッドに

 

 ――――私が枕に頬擦りして匂いを嗅いでいる祐一さんのベッドに

 

 

 そう。

 私・水瀬秋子は甥・相沢祐一さんの眠るベッドに顔を埋めていたのです。

 それにしても布団に染み込んでいる祐一さんの体匂フェロモン

 う〜ん、此れだけで御飯3杯は軽く逝けそうです。

 って、そんなこと考えてる場合じゃないです!

 毎日の悦びたのしみが祐一さんにバレてしま――――――ひゃん!?

 

 「ゆ、祐一さぁ〜ん」

 

 きゅ、急に抱きつかないで下さい。

 斜め後ろにある祐一さんを見ながらそう言う。

 

 「まさか秋子さんが俺の布団であんなことをしてるなんて」

 「…………い、いや、それはですね―――

 

 あんな姿を見られた後で如何言い訳できるんでしょう。

 祐一さんの枕を抱き枕のように抱いて、更には鼻を押し付けていた姿を見られたのに。

 もしかしたら悦に入ってる顔も見られたかもしれないのに。

 …………ど、どどど、どうしたらいいんでしょう!?

 誰でもいいですから私に教えて下さい。

 

 でもでもっ! 祐一さんが悪いんですよ。

 みんなに笑顔を振り撒いて気がある仕草をしているのに自覚ないんですから。

 

 「俺、ずっと前から秋子さんと…………こうしたかったんです」

 

 私の胸まで回された、逞しい祐一さんの腕。

 それが更にギュッと締まり、抱き締められる。

 まるで私を拘束するかのように。

 私専用の鎖のように。

 

 意識しなくても鼻に香るのは私を惑わせる最狂の媚薬。

 布団から嗅ぐ匂いと同じなはずなのに、今は何故か幸福感で胸が一杯になる。

 溺れるくらいこの身を預け、この妖艶な匂いに浸透する。

 

 

 「あ〜、秋子さんの匂い、すげぇ良い匂いする」

 

 祐一さんの匂いを感じる私もですよ♪

 首筋に顔をスリスリする祐一さん。

 

 「何か癖になっちゃいそうだ」

 

 私は既になっています♪

 大きく露出している鎖骨あたりでクンクンと鼻を鳴らす祐一さん。

 

 「………………やばい、興奮してきた」

 

 私もです――――――って、何て言いましたか祐一さん!?

 

 興奮ってアレですか…?

 男性特有のアレに血液が……。

 思わずアレを想像してしまう。

 

 「秋子さん……」

 

 って、私を覆い被さるように包んでいた祐一さんが何故か目の前に――――っ!?

 

 祐一さんが私の肩を掴んで、向き合うように反転させた。

 そう気付くのに少し時間がかかりました。

 

 「「…………………………」」

 

 どちらからともなく、見つめ合う私たち。

 ただそれだけの行為のはずが、若返ったように私の心を激しく躍らせます。

 年甲斐も無く、心臓の鼓動が速く激しくなっているのがわかります。

 祐一さんの瞳に私が映っているように、私の瞳にも祐一さんが映っているんでしょうか。

 

 祐一さんの瞳。

 ほんの少し潤んだ瞳は、それだけで私の動悸を速くさせます。

 熱いくらい真剣な瞳は、それだけで私の神経を麻痺させます。

 魅力すぎる恍惚の瞳は、それだけで私の理性を陥落させます。

 最も愛しい貴方の瞳は、それだけで私の全てを虜にさせます。

 

 「「祐一さん/秋子さん」」

 

 どちらからともなく、瞳を閉じる私たち。

 何も見えないはずなのに、何故か祐一さんを感じることができます。

 自然に互いが距離を縮めるのに、違和感なんて微塵もありません。

 こうなることが運命だったかのように、互いが互いを信じあう。

 

 抱き合ったまま、私たちの距離を零に。

 唇を合わせ、溜まっていた想いをぶつける。

 

 「……んふぅ………ぅん……はぁぁ……」

 

 刹那のようで、永久のようなキス。

 全てを忘却の彼方へ追い遣るような、燃えるように激情のキス。

 

 舌と唾液が混ざり、部屋中に響く水音。

 それだけで私の心を一杯に満たしてくれる。

 もっと! もっと下さい!

 

 「……んぁっ…ふぁ…………あんっ♪」

 

 唇を離すと、私たちの【心】が解け出したように唾液が繋いでいた。

 それは私たちを掛け持つという意味の、唾液の橋。

 愛するという行為の、第一結晶。

 一番初めの結晶。

 

 

 それから私たちが如何したかは、私と祐一さんだけの秘密です♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 Happy End

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜後日談〜

 

 私と祐一さんの、二人だけの秘密の情事から四ヶ月。

 一つの季節が終わりを次げて、また新しい季節が始まります。

 あの日から私たちはたくさんの秘密を重ねました。

 それは数えられないほど。

 

 

 ですが、それも終わりを迎えようとしています。

 

 

 「祐一さん、今日は大事な話があります」

 

 いつものように祐一さんの胸に頭を預けながら、私。

 私たち以外誰もいない部屋。

 それでも恥ずかしい私はシーツを胸までたくし上げて、言います。

 

 私たちの秘密に終わりを告げる言葉を。

 これを言ったら、貴方は何て言うんでしょう。

 

 「大事な話? 何ですか秋子さん?」

 

 シているときは呼び捨てなのに、さん付けに戻っている祐一さん。

 その顔は優しくて、カッコいい。

 

 「…………もう、秘密は終わりにしましょう」

 

 私の頭をなでなでしていた祐一さんの手がピタッと止まる。

 その顔は驚いたようで、疑問の声すら挙がらないみたいです。

 

 「……実はですね―――

 「ちょ、ちょっと待って下さい! どうしてですか!?

  俺に何処か駄目なところがあれば言って下さい!!

  そこらへんの説明がないと納得できませんよ!!

  いや、説明を聞いても納得なんか絶対にしませんけど。

  どうして今になって別れるなんて!? 全然解りませ―――

 「ストップです」

 

 人差し指を祐一さんの唇に軽く当てます。

 

 余程動揺している所為か、祐一さんは早口で言い寄ってきました。

 それは私の言葉を遮るほど。

 

 「私の話を最後まで聞いて下さい。 ね♪」

 「けどっ!………………わかりました」

 

 何か言いたげな表情の祐一さんでしたが、納得してくれました。

 というか、納得するように自分で抑えたようにも見えたんですけど。

 

 「……実はですね」

 

 先ほどと同じ言葉で切り出す。

 この関係を終わりにするきっかけになったことを。

 終わりにせざるを得ない出来事を。

 

 「――――できたんです」

 「は?」

 

 これも予想通りというか、疑問符の祐一さん。

 やっぱり鈍感です。

 

 「三ヶ月に入ったみたいです。 今日病院に行って来たらそう言われました」

 「………………………………………………え? それってもしかして……」

 

 固まっていた祐一さんが、私のお腹を見て指差す。

 それに私はコクンと頷くだけ。

 

 「ですから、私たちの秘密は終わりにしなければいけません」

 「………………そう、ですね」

 

 「お腹が出てきたらみなさんにバレてしまいますから」

 「………………そう、ですね」

 

 「みなさん祝福してくれるといいですね♪」

 「………………そう、です――――――は?」

 

 理解不能という顔をする祐一さん。

 何故でしょう。

 ん? そういえばさっき祐一さんは――――

 

 「私は一言も『別れる』なんて言ってませんよ♪

  お腹が出てきたらみなさんにバレることですから、

  そろそろ公の場で私たちの関係を話しましょうという意味だったんです。

  秘密、ではなくて堂々とした関係に。 ちょっと恥ずかしいですけど、ね」

 

 堂々といちゃつく姿を想像して、ちょっと恥ずかしくなったり。

 街中をデートしたり、ものみの丘までピクニックに行ったり、今まで出来なかったことをしたいです。

 祐一さんの違った一面を見ることに少し期待したりして……きゃっ♪

 

 「けど、俺たちの関係がみんなにバレたら世間体とか、秋子さんの肩身が狭―――

 「姉さんは承諾してくれましたけど…?」

 「えっ……??」

 

 病院から帰った後、真っ先に姉さんに電話をして相談。

 私にとって良き相談相手で、祐一さんの母親。

 少し価値観というか、考えが普通とは違う人ですけど。

 

 『あ〜はっははは、おもしろいよ秋子。 まさかお前の相手が祐一だなんてさ。

  あたしがいないことをいいことに、んな楽しいことをやってたのかよ。

  まぁ、あいつの母親のあたしから言うことは、自慢の息子をよろしく頼むってことだけだ。

  今度お前たちの惚気話でも聞きに行くから、覚悟しとけよ』

 

 でしたからね、姉さんからの返事は。

 

 「ったく、あの愚母は何てことを」

 

 そう言いながら、祐一さんの表情は楽しそうです。

 今まで見たことないくらい嬉しそうな顔をしています。

 

 

 ピンポーン!

 「お〜い、秋子! あたしだ、開けろ――っ!!」

 

 私と祐一さんは顔を見合わせて、確認する。

 その表情からして、この声は、もしかしなくても……。

 

 「「姉さん/母さん!?」」

 

 あの電話の後、まだ数時間しか経っていないのにこの行動力。

 相変わらず姉さんの考えはどうもわかりません。

 

 

 それから私たちがどうなったかはみなさんのご想像にお任せします。

 

 

 


 

 あとがき

 祀りに参加表明した琉海です。
 妄想想像の赴くまま指を動かしたSSがこれです。
 凡そ二、三時間で書いたのであまり自信はありません(言い訳
 というか、話が滅茶苦茶なのは気にしないでください。

 シリアスしか書いたことないので、ほのぼの系は難しい(というか無理
 頑張ってはみたんですが、これが限界です。
 ほのぼの感はどうしたら出せるんでしょうね。
 誰か教えてください(切実な願い

 どこか微エロ要素を入れたくてキスシーンなんぞ入れてみました。
 ディープまで描いたわけですが、流石にアレ以降は……ね。
 一応それらしい描写を削除したんですが、大丈夫だろうか。

 体臭と書かずに体匂と書くだけでちょっとHっぽく見えるの何故でしょう?
 そんなことを思いました。

 

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