そのジャム、危険につき。

「祐一さん、コレ食べてみませんか?」

ある日曜日の朝。
週に一度の、眠り姫覚醒作戦を行わなくても良い楽園のような一日。
朝のひと時を、のんびりと一人で過ごすはずだった。
それが、秋子さんのこの一言で崩れ去ったのだ。今思い返せば、我ながら大失態だったと思う。

「なんですか?ソレ」

「新作のジャムです♪」

色は、まぁオレンヂだ。秋子さんがコレまで作ってきたヤヴァイジャムは、常にオレンジ色だったからな。
これも、またあの奇妙で不可解で人を絶望に突き落とすジャムのお決まりになっていた。

「遠慮しておきます」

「そうですか、残念です」

本当に残念そうだ。毎回断っているが、この表情をされると後ろめたい気持ちになるのはなぜだろう。

「あ、一口くらいなら。食べてもいいと思いますよ。うん。一口くらいなら」

つい、言ってしまった。

「本当ですか?じゃ、一口・・・」

秋子さんがスプーンに掬って口元に持ってくる。

「あ〜ん」

うわ、恥ずかしいぞ、コレ。
誰もいないにもかかわらず、すごい破壊力だ。
(女の子の笑顔は破壊力ではかるんだよ)
だれのことばだったか。それが、秋子さんにも適用されてる。

「あ、あ〜ん」

ぱくっ。

「ウッ!」

「甘くないジャムは不評でしたので、今回は甘いジャムにしました♪」

どこからか、秋子さんの嬉しそうな声が聞こえてきた・・・。



「祐一、ゆ〜いち〜」

名雪の声が聞こえてきた。

「ゆ〜いち〜。ご飯だよ〜〜」

えっと、今何時だ?

「もう夜の六時だよ〜」

そうか。

「そうかじゃないよ〜。起きてよ〜〜」

むぅ、名雪に起こされるとは。ショックだ。

「って、名雪?」

「やっとおきたよ〜。もう夕飯できてるから、降りてきてね」

時計を見た。
六時三分。確かに外は暗いし、朝って雰囲気ではない。

「え〜と、朝起きて、朝飯食って・・・そうだ、秋子さんの新作ジャムを・・・!!」

駄目だ。これ以上口にしてはいけない。
・・・そうだ、これは使えるぞ。
居間に行くと、もう食事の準備は終わっていた。

「祐一さん、具合のほうはもう良いんですか?」

「はい。半日眠りましたからね」

「じゃ、食べましょう」

「いただきまーす」

「召し上がれ」



翌朝。

「よし、ブツの準備はOKだ。ミッションスタート!」

コンコンッ。

「名雪〜〜〜、起きてるか〜〜〜?」

起きてるはずは無い。起きないから名雪というのだ。

ガチャッ。

まずは、厄介な目覚ましを全て止める。
そして、一応揺さぶってみる。

「お〜き〜ろ〜」

「うにゅ〜。じしんだお〜〜」

「な〜ゆ〜き〜」

「まぐにちゅーどじゅうだお〜〜」

やばい、平仮名だ。いつもならこの辺で漢字変換は出来てるはずなのに。
もう後悔はすまい。

「名雪。ジャムだ」

「イチゴだお〜〜」

「しかも、今回は甘いぞ」

コレがとどめで、名雪の警戒が解けた。
すかさず甘い「甘くないジャム」を放り込む。

「・・・だおおおぉぉ〜〜」

「着替えてさっさと降りてこいよ」

叫んだことを確認して、さっさと下に下りる。

「名雪、起きましたか?」

「ええ、バッチリです」

「最近は、警戒心強くなってますからねぇ、名雪は」

寝てる間にジャムを口に放り込まれたら、警戒心は強くなるだろうよ、と思った。
起こすのにジャムを使う俺も俺だが。

「うぅ、口の中がネバネバするよ・・・」

そりゃだって、某練乳蜂蜜ワッフルも追い越さんとする甘さだ。
その衝撃は俺も経験したから分かるぞ。

「じゃあ次は、トウバンジャンを使ったジャムでいきますね。それとも、青唐辛子がいいですか?」

辛い「甘くないジャム」・・・。

「やめてくれぇ〜〜〜」

もう二度と、秋子さんの笑顔には騙されないと誓った祐一だった。

アフタ−。
ついに秋子さんの甘くないシリーズが週刊になりました。
現在まで
甘い「甘くないジャム」
辛い「甘くないジャム」(トウバンジャンVer,
辛い「甘くないジャム」(青唐辛子Ver.
酸っぱい「甘くないジャム」
塩っ辛い「甘くないジャム」
どろり濃厚「甘くないジャム」

ちなみに、抽選で一名様に「甘くないジャム」詰め合わせパックをプレゼント(秋子)
しません(祐一)
甘いの、欲しいかも(A.S)

「祐一さん、今週のジャムは・・・」

「もういいです、おなか一杯です・・・」

合掌。


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