「さて、メンバーも集まったところで、何を演るかを決めていこうと思うんだけど」

「そうだな」



 惰性と眠気が付き纏う授業を受け終え、今日も今日とて放課後会議。

 名雪は部活があるとかで不在だが、今回から新メンバー・天野美汐嬢が参加している。

 といっても、名雪はバンド企画の発端であるがメンバーでないため出席する必要はないのだが。



「それじゃ、ここまでで何か質問ある?」

「あ、あの……」

「何? 天野さん」

「……何で私がここにいるんでしょうか?」

「成り行き」

「そんな! 相沢さんが無理矢理連れてきたんじゃないですかっ!」

「そうだっけ?」

「そうですっ! ―――大体、こういう場合はギターよりも先にベーシストを探すべきだと思います!」

「ああ、美汐ちゃんがギターやるから俺がベース弾くことにした」

「―――――っ!?」



 なかなかに順調な滑り出しだ―――首謀者・美坂香里は新ギタリストを見ながらニヤリとほくそ笑んだ。

 祐一が連れてきたのがやはり女性だったことはちょっとムカついたが、まあ何と言うか、想定の範囲内です。



「それで、何か演りたい具体例はある?」

「美坂は何かあるのか?」

「まあね―――これよ」



 そう言って香里は自分の鞄から楽譜を取り出す。

 ―――『Long Live Rock'n'Roll』。

 1ページ目には、そうわかりやすく大きく書いてあった。



「Rainbowか……」



 かの有名なギタリストであり、美汐も尊敬するリッチー・ブラックモアが立ち上げたバンド"Rainbow"。

 リッチーが好きなときに好きな音楽をやっているため、曲のジャンルは様々。

 また、リッチーが頻繁に気に入らないメンバーをクビにするため、メンバーの入れ替えが多いことで有名。

 そのため、Rainbowの初期は様式美、後期ではかなりポップな要素が入った路線を辿っている。



「まあ、ライブ映えする曲だし、いいんじゃないか? 問題は相沢が歌えるかだけど」

「何だそのフリ。俺にディオになれというのか。無茶言うな」

「いや、流石にそこまでは要求しないが。まあ最低でも様になるぐらいは」

「……ま、カッコぐらいはつくようにするさ」

「まあ、オレもコージーみたく叩けと言われても無理な話だしな」



 『Long Live Rock'n'Roll』はRainbowの数あるアルバムの中でも名盤に数えられる『Long Live Rock'n'Roll』に挿入されている。

 そのときのメンバーには、ロニー・ジェイムス・ディオ(Vo)、コージー・パウエル(Ds)といった、ハードロック界においてなくてはならない人物を擁していた。

 そのため、リッチー、ディオ、コージーの三人在籍時は「三頭政治時代」と呼ばれる。



「美汐ちゃんは当然この曲は熟知してるよな?」

「ええまあ。……というか、先程から何故ちゃん付けなんですか?」

「いやなに、これから天野美汐を可愛らしい路線で売り出そうと思って」

「結構です」



 男性受けがどうの……と言い出した祐一を、美汐はバッサリと一閃。



「そうだぞ、何言ってやがる悪徳プロデューサー相沢。天野さんはいぢめたい妹路線に決まってるだろ」

「なっ……」

「バカ北川。それ可愛い路線とあんまり変わんねえじゃん。つーか、言葉の響きが何か卑猥だ」

「…………」

「二人ともバカなこと言ってないの」



 目の前で勝手に自分の今後の活動を決められていく様に美汐は苦笑いを浮かべる。

 一応先輩の御前なのでそれは憚られたが、如何せん内容が内容。仕方がなかった。

 なので、香里の一言が入ったときは、安堵感を覚えずにはいられなかった。



「素材がいいんだから、逆に突き放すようなクールな路線に決まってるじゃない」

「「―――それだ!!」」

「逆転の発想とはやるな、香里」

「…………」



 ―――バカばっかか。

 美汐の心情をいぢめたくなるように可愛らしく、かつクールに翻訳すると、その一言に尽きた。

 しかし、流石にそこは慎ましいことで有名な天野美汐。しっかり目上は立てる。

 ―――こんなにも精神面が追い込まれてるなんて、受験っていうのは怖いですね。

 私はそうはならないように頑張らないと、と締めくくったそれは、美汐を以ってしてもフォローにならなかった。










□■□■□■











「さて、とりあえず一曲は決まったわけだけど、他に希望ある?」

「カバーでいいんだろ? 流石にオリジナル作るには時間がなさ過ぎる」

「そうね。そういえば北川君、この前激しい曲がやりたいって言ってたけど、何か候補はあるの?」

「オレ個人としてはLoudnessとか、あの辺のへヴィなのが演りたいな」

「おっ、いいね! 『Crazy Doctor』とかか?」

「いや、『Slaughter House』とか」

「……シブいとこ突くな、北川」

「いや、最初ドラムソロで入るから」

「自己満足かよ」



 祐一と北川のLoudness談義に花が咲く中、香里と美汐はやや顔を顰めていた。

 とはいえ二人の表情は対照的で、香里は思うところがあるような、美汐はどこか呆けた様な表情をしていた。



「……二人ともどうかしたか?」

「大したことじゃないわ……ただ、Loudnessをやるとして、あたしはどうしようかをね」



 Loudnessはボーカル、ギター、ベース、ドラムというシンプルなパートで構成されたバンドである。

 よって、キーボードである香里の担当するものはないということになる。

 そのことについて、祐一と北川は「結構大したことじゃん……」と思ったとか。



「私はLoudnessを聴いたことがなくて……日本のバンドだってことは知ってるんですが……」



 そう言って、美汐はやや恥ずかしげに苦笑する。萌え。

 メタルサウンドが好きである以上、有名どころ、しかも日本のバンドを自分だけ聴いたことがないというのは美汐にとって少しばかり応えたようだ。

 有名どころを知らないからといって、決して落ち目を感じる必要はないのだが、美汐の真面目さがそれを招いたのだろう。



「何て言うんだろうな、王道的なへヴィメタルサウンドと言えばいいのかな?」

「……というと?」

「ギターギュインギュイン、ベースブリブリ、ドラムドコドコな感じ」

「はあ……」



 北川の解説に、わかったようなわからないような微妙な表情の美汐。

 まあ少なくとも、美汐の好きなリッチーの在籍してたDeep PurpleやRainbowよりは激しいということは北川の陳腐な言葉でもわかったみたいが。



「勝手に鍵盤足せばいいんじゃないのか? 緩和剤っぽく。あんまりヘヴィなのは普通の人にはうるさいだけに聴こえるかもしれないし」

「そうねぇ……。でも、変に浮ついて曲の良さが減るんじゃないかしら?」



 一方、祐一と香里はキーボードをどうするかで話し合っていた。



「まあ曲に因るが、『Soldier Of Fortune』なんかメロディアスだから結構合うんじゃないか?」

「あ、その曲あたしも好きよ」

「俺も好き。サビなんか歌うと最高に気持ちいいんだよな」



 楽しそうに笑い合う二人。

 得てして、共通の趣味などが見つかったとき、人は普段以上の歓びを得る。

 特に香里の場合、少なからず思っている人物と好みを共有しているということが何よりも嬉しかったり。



「ソロでギターとユニゾンしてみたり?」

「それ最高だな! まあ、なんだったら片方のギターのチャンネルを鍵盤で弾けばいいし」



 いつの間にか二人の間でかなりの盛り上がりを見せてたらしく、どうやら問題は解消されたようだ。

 乗じて二曲目も決定となりそうである。



「なんだなんだ? 盛り上がってるな、二人とも」

「何か曲でも決まったんですか?」



 その様子に気づいたのか、Loudness講義(拙さ抜群)を終えたらしい北川と美汐が会議に参加。

 結局、美汐がわかったのはLoudnessがヘヴィでカッコいいという北川の熱き想いだけだったりするが。



「ああ。『Soldier Of Fortune』を演ろうかと思うんだが」

「おお、いいな。その曲もドラムインだしな」

「で、ソロの際には香里と天野の新旧クールビューティー・ソロバトルを展開することになった」

「「……は?」」

「凄そうだな、それ。これで真のクールビューティーが決まるわけだな?」

「そうだ。女の闘いは凄いぞ?」



 再び盛り上がる男二人。

 一方の女性陣は突然の決定の上にどんどん進行されていく様に唖然としていた。

 香里も知らなかったらしく、どうやらこれは祐一の独断(北川曰く、英断)らしい。



「北川は他に演りたいのとかあったか?」

「いや、特には。『Firestorm』も考えたんだが」

「お前はまた……。そこから持ってくるか」

「まあな。Loudnessでも最速チューンだし、日本詞の方が受け入れられるんじゃないか?」

「確かにいいんだが、一般人にゃヘヴィ過ぎないか?」

「……そうかもな。人によっては雑音と取られないこともないしな」



 香里と美汐がそうしてるうちに始まっていた、第二次相沢・北川会議。

 ちなみに、クールビューティー・ソロバトルはいつの間にか済し崩し的に開催が決定していた。

 ―――そうして、本日の放課後会議もやや纏まりの欠ける締めとなった。

 今回の収穫―――演奏曲二曲決定。



「……相沢さん、ちょっといいですか?」

「どうした?」

「私が入った代わりにベースをやるとのことですけど……」

「ん? 何か問題でもあったか?」

「いえ……。ただ―――――相沢さん、ベース持ってますか?」

「………………あ」

「その様子じゃ、何も考えずに決めたみたいですね……」

「いや、それは、あの、ね?」

「―――まさかとは思いますが、借りるアテも、買うお金もないってことはありませんよね?」

「………………痛」



 今回の問題点―――ベース本体の欠品、そして金。






written by 柊 神

 いやっほーっ! やりたい放題www
 ラウドネスを選んだ理由は単に今聴いてたから(爆

 ちなみにラウドネスのアルバムは『Loudness』が好きです。
 っていうかそれしか持ってませんorz
 元・Xの沢田泰司のベース萌え。

 っていうかおい、今回レインボウとラウドネスの話しかねーじゃねーか(核爆


 

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