「熱く燃え滾る何かがしたいの」



 ―――それは、午後のまどろみを突き破る一声。

 突然の告白に祐一や北川は疎か、あの名雪まで口をあんぐりと呆ける始末。

 それは近くに居合わせたクラスメートにまで影響を及ぼす。

 それほどまでに、美坂香里の発言は一撃必殺の如く彼らを驚破した。



「お、おい、香里……。どういうことだ?」

「言葉通りよ」

「いやまあ…それはわかるんだが……」

「普通、こういうことはオレか相沢が言うもんじゃないかと……」



 内心、激しく動揺しながらも真意を探る相沢・北川の両氏。



「普段勉強ばっかしてる所為で相当キてるんじゃないか?」

「ツケが廻ってきたのかもな」

「そこ、聞こえてるわよ」



 影でこそこそとと話す2人。

 奥さん、聞きました? えぇ、まさかあの人がそんな…的なノリで。



「それで香里、突然どうしたの?」



 あの2人に任せたら先に進まないと感じた名雪は、妙な使命感で香里に真意を訊く。

 まあ尤も、名雪とて祐一や北川と同感だったりするのだが。



「うーん……まあ、相沢君が言ったことも少なからず当たってるんだけど……」



 つまりはこういうことだった。

 現在、香里たちは受験戦争爆心地真っ只中。

 今も充分そうだが、夏休みに入る頃からはもっととんでもない事になる。

 だから、その前に盛り上がる何かをやって、すっきりして戦争最前線に乗り込もうではないかと。

 まあ、これは香里の建前で、実は祐一と北川が日々何かで盛り上がってるのが羨ましかったから。

 更に本音を言えば、祐一と何か記憶に残るような事をやりたいという想いだったりする。



「はー」

「ほー」

「へー」

「ふーん」

「あんたたちね……」



 香里の真意に、感嘆の意を示す祐一たち。

 その言葉はかなりふざけていたが。

 ちなみに、祐一・北川・祐一・名雪の順だったり。

 そして2度目の出番を名雪に取られて悔しそうな北川がそこにはいた。



「んで、何をやりたいんだ? 香里は」

「それが決まってないからあなたたちに相談してるのよ」

「熱い何か……ねぇ」



 考え込む祐一。

 普段彼らがやってる事はただ勢いでやってるだけなので、具体例を挙げろと言われてもなかなか思い浮かばない。



「そうだね……文化祭も近いし、ライブでもやってみたら?」

「ライブってお前、そんな―――」

「それよっ!!」



 ビシィ! と名雪を指差す香里。

 一方、名雪は何も考えないで適当に言ったのか、あまりの香里の食い付きに面喰う。



「北川君! あなた確か軽音部だったわね?」

「何ィ!? 北川、お前そんな都合の良い部活に入ってたのかよっ!」

「ああ、まあ……同好会だけどな」

「もちろん、楽器はできるわよね?」

「ドラムなら少しは……」

「それは好都合ね。それじゃあ、一緒にバンドやりましょう」

「お、おう……」



 香里のキャラが若干変わってきてることもあり、気圧された北川。

 勧誘成功。



「これで3人、メンバーが揃ったわね」

「ちょっとマテ。……3人?」



 なにやら不吉な予感が我が身を襲い、祐一は恐る恐る香里に訊く。



「あたしと北川君、それとあなたはデフォでオリジナルメンバーよ」

「あぁ…そう……」



 予感的中。

 既に彼は諦めた様子だ。



「まあ、何の因果か俺もギター弾けたりするんだよな……」

「都合良過ぎるよな」

「全くだ」

「都合良いに越した事はないわ。それと、相沢君にはボーカルもやってもらうから」

「は?」

「あなた、歌上手いんでしょ?」

「何情報だ、そりゃ……」

「名雪情報よ」



 ぐるんと名雪に首を方向転換する祐一。

 名雪はといえば、えへっ♪ と笑って誤魔化す作戦に出ていた。



「俺は名雪に歌声を聴かせた覚えがないぞ」

「昔聴かせてくれたよ」

「昔の話だろ? 今は上手いかわからないじゃないか」

「でも、お母さんが祐一の歌は上手いって言ってたよ」

「う……あの時か……」



 実は祐一には、秋子と2人で行ったカラオケでラブソングを歌い、秋子を陥落させたという逸話が……。

 何故2人っきりでカラオケに行ったのかは謎だが。



「それじゃ、決まりね」

「後は最低でもベースが必要だな」

「わたしは応援してるから」



 怒涛の展開。

 北川も何だかんだ言って乗り気だ。

 まあ、根っからのお祭り男である祐一も満更ではないのだが。



「そういや、香里は何やるんだ?」

「そういえばそうだな。ボーカル……は相沢がやるしな」

「あたし? あたしはキーボードよ」

「あ、何か香里っぽいかもね」

「まあ、自慢じゃないけど、栞の事があった時は一心不乱に鍵盤叩いてたから腕前はなかなかよ」

「それは確かにあんま自慢できないな……」



 一応その経緯を知る祐一は苦笑する。

 まあ確かに、それが良いのか悪いのかイマイチ判断しかねる事ではある。



「で、どんな曲やるんだ? オレも一応、バンドマンとしてはこだわりがあるんだが」

「俺もそうだな。最近の流行りの曲とかは正直あまり好きじゃないからやりたくないな」

「お、相沢もそうか? オレも勢いだけのヤツはどうもな」

「北川もか。確かにノリはいいんだが、メロディがないから演ってて面白くない」



 突如として音楽談を始めだした2人。

 音楽的嗜好もなかなか合うようで、やはりこの2人は相性が良いことがわかる。

 しかし、その内容はかなり濃いもので、名雪なんかは終始疑問符を浮かべていた。



「その点は大丈夫よ」



 そんな2人を安心させるように香里が一言。



「HR/HM系の曲やるから」

「…………」

「…………」

「どうしたのよ、2人して」

「いや、なぁ……?」

「美坂からメタルなんて単語が出てくるなんて」

「都合上よ。あたしも嫌いじゃないし。栞の事があった時なんてデスメタルを―――」

「あー、わかったわかったから。もういい」



 つまり、香里はデスメタル聴きまくって、鍵盤叩きまくっていたということだろう。

 想像するとちょっと怖い。

 激しい曲調にヘッドバンキングしながら鍵盤を一心不乱に叩きまくる香里。

 いや、聴きながら鍵盤叩いてたわけじゃないだろうけども。



「それじゃ、演奏する曲はメンバーが揃ってから決めましょ」

「だな。いろんな意見も聴いた方が良いしな。オレ的には激しい曲演りたいけど」

「北川君のこういう意見もあることだし、早めにメンバー集めた方が良いわね」

「香里はアテあるのか?」

「それは相沢君にお願いするわ」

「俺かよっ!?」

「あなた、人脈広いでしょ? ……主に女の子のだけど」



 若干、恨みがましく言う香里。

 そりゃあ、祐一の知り合いが女の子、しかもレベルの高い女の子ばかりなのは香里にとって面白くない。



「はぁ……わかったよ。でもお前らも探せよ?」

「わかってるわよ」

「北川は軽音だったらメンバーいないのか?」

「それが皆辞めちゃって、それこそボーカルしか残ってないんだよ」

「それじゃあしょうがないな。地道に探すか」

「あと欲しいのは最低でもベースね」



 HR/HM系の曲はツインギターが主流だが、曲によってはギター1本+キーボードという編成も少なくない。

 まあ、ツインギター+キーボードというのバンドももちろんいるが。

 中にはギター3本というバンドもヘヴィメタル界の大御所的位置にいる。流石にキーボードはないが。



「それじゃ、メンバー集めに行くとしますか」

「そうだな」

「頑張って、相沢君」

「おう……って、香里も探せよな」

「―――ねぇねぇ、ひとつ思ったんだけど」



 メンバー集めへの士気が上がる3人に、今までついて行けなかった名雪が声を上げる。



「バンド名、何ていうの?」

「…………」



 どうやら、メンバー以外にも問題は山積みみたいだ。






written by 柊 神

 激しく趣味全開ですごめん。
 都合良過ぎだろと若干オーヴァーに突っ込み叱って鞭打って。


 

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