香ばしい小麦の香りが鼻腔をくすぐる。それにつられて食堂へ足を向けてみれば、そこには何てことないいつもと変わらない朝餉。だが、その何の変哲もない日常こそが、戦争という自らが置かれている状況にとって何よりも嬉しく、幸せなことなのだろうと、ルキアは思った。
 既に食堂にはちらほらと戦火を共にしてきた仲間たちがいた。彼らに軽く朝の挨拶を済ませると、ルキアはカウンターでいつもと変わらず、パン、サラダ、コーヒーを受け取ると、いつの間にか自分の指定席となった端の席に向かった。
 ルキアが席に座り、食事を始めようとしたとき、背後から聞き覚えのある唸り声が聞こえてきた。

「―――ジャンヌ、おはよう」
「あー……おはー」

 ジャンヌ―――ルキアと同じライトアーマーであり、故郷マハールではルキアと共に数々の戦果を競ったライバルであり、無二の親友。その実力は、どちらが最強のライトアーマーか度々議論されるほどである。
 ジャンヌは頭を抑えながら、ふらふらとルキアの隣に腰を下ろした。

「頭イター……」
「また二日酔い? お酒は控えめにしなさいって何度も言ってるでしょ?」
「ハイハイ……わかったから、にっがーいコーヒーでもちょうだい」
「何で私が持ってこなきゃいけないのよ」

 そうは言いつつ、先天的世話焼きのルキアは席を立ち、再びカウンターへ足を向ける。暫くしてコーヒーを持ってきたルキアにジャンヌは礼を言うと、苦虫を潰した様な表情でコーヒーを喉に流し込んだ。

「苦いわよ」
「あなたが苦いコーヒー持ってこいって言ったんじゃない」

 ルキアは呆れた表情で、ようやく食事に手をつけた。

「で、昨日はなんでそんなになるまで呑んでたわけ?」

 フォークに突き刺したプチトマトを口に放り込みながら、ルキアは特に興味もなさげに尋ねた。

「いやぁ、昨日は朝までビュウと呑んでたんだけど―――」
「―――――」

 ザク―――とルキアのフォークがサラダに突き刺さり、一際大きな音が食堂に響き渡った。その様子を目の当たりにして、ジャンヌは酔いも一気に醒めたかのように、引き攣った表情を浮かべていた。

「…………しまった」
「ちょっとジャンヌ―――それ、どういうことか詳しく話して欲しいのだけど」

 あの高名なカーナ戦竜隊々長にして、ルキアたちが所属する反乱軍のリーダー、ビュウ。年若くして個性的な面々が揃ってる反乱軍を纏める彼に、ルキアは恋心を抱いていた。それは親友であるジャンヌ以外に知る者はおらず、秘められた想いだった。

「い、いやね……ビュウの周りの女性関係と、ルキアのことどう思ってるか探ってきただけよ……」
「本当に?」
「も、もちろん……」

 冷や汗をかきながら、ジャンヌは迫るルキアに弁明する。こうなったルキアはいくら付き合いの長いジャンヌといえども、いや、付き合いの長いジャンヌだからこそ、止める術がないことを知っていた。

「それより、あんたも早くビュウにアタックしなきゃ、他の娘に獲られるわよ?」
「そ、そんなこと言われても……」

 ルキアはこの生涯、ほとんどを戦争に捧げてきたため、恋愛の経験がかなり少なかった。そのためか、姿形、立ち振る舞いなどは完全に大人の女性なのだが、こと恋愛になると少女のような奥手さを見せるのだった。
 さらに、ビュウが自身より結構な年下であることもまた、彼女の中でブレーキを踏ませていた。

「さっさと決めるとこ決めて、握るとこ握っとかないと。なんだかんだでビュウはモテるんだから」
「そ、そうなの?」
「そうよ。あの戦一筋のルキアを落としたんだもの、他の娘を無尽蔵に落としていても不思議じゃないわ」

 ジャンヌの言うとおり、見た目、性格ともに申し分ないレベルを誇っているため、ビュウは反乱軍の男女共に慕われている。なので、その内に恋愛感情を持つ者がいてもおかしくはない。実際、公にその想いを叫んでいる少女や、口にこそしてないが行動から想いが滲み出てる者もいる。
 まあ、前者はまだ子供故の主張だろうとビュウは思っているし、後者はジジイなので問題外ではあるが。

「そうね……例えばフレデリカなんてその筆頭じゃないかしら」
「で、でも、前にビュウに遠まわしにフレデリカのこと訊いてみたけど、そういうのじゃないって言ってたし……」
「甘い! 甘いわよ、ルキア。男なんて、そんな風に思ってなかった女だろうと、迫ってきたらコロッといっちゃうときはいっちゃうのよ! 現に彼女、この戦争が終わったら一緒に薬屋やろう、ってビュウにプロポーズ紛いのこと言ったらしいし」
「それ、本当!?」
「ディアナ情報」

 カーナのプリーストであるディアナは噂好きとして有名である。真偽の程はさて置き、ディアナの噂は物凄い早さで艦内に広がっていくのだ。そうすれば、ビュウとフレデリカの仲は実際どうあれ、艦内では公認となってしまう可能性が高い。
 それを言われたルキアは流石に焦りを感じたらしい。それはマズイ、と。

「あと、ミストもビュウのこと気に入ってるわよね」
「そうなの!?」
「聞いた話だけど、彼女がゴドランドで臥せてたとき、魘されながらも『ビュウ』って言い続けてたそうよ」

 ミストも二人と同じライトアーマーであり、時間を共にすることが多い。彼女は前にジャンヌにビュウのことを洩らしたらしい。それが恋愛のそれかはジャンヌにも分かりかねたが、彼女がビュウを慕っているのは間違いなかった。
 また、ミストはルキアやジャンヌとは違い、ビュウとはカーナの同郷で、昔からの付き合いというのも注意すべき点である。

「あ……―――」
「噂をすればなんとやら、ね」

 二人が視線を向けた先には、ちょうど食堂の扉を開けたビュウの姿が。ビュウは二人の視線に気付くと、待ち人を見つけたかのように軽く表情を崩して歩み寄ってきた。

「ほらルキア、夜の約束でもなんでも取り付けなさいって」
「う、うん……」
「いつもの私たちの戦い方よ、"ガンガンいこうぜ"よ」

 そう二人が話し合っている間に、ビュウは目の前までやってきていた。

「あ、あの、ビュウ―――」
「ジャンヌさん」
「……え? 私?」

 意を決してビュウに声をかけようとしたルキアを遮って、ジャンヌの名を呼ぶビュウ。ルキアを見守ろうとしていたジャンヌは、まさか自分にその矛先が向けられると思わなかったため、驚愕の声を上げた。

「俺の部屋に忘れ物してるんで、後で取りに来てくださいね」
「わ、忘れ物?」

 ジャンヌにしては珍しく焦りながら、隣を窺ってみると、不機嫌なオーラ全開のルキアが半目でジャンヌを睨んでいた。

「忘れ物って、な、なにかなー?」
「…………言うんですか?」
「あ! やっぱりいい! 言わなくていい!!」

 思い当たる節があり、それが自分にとって不利益なものと気付いたのか、慌てて拒否するジャンヌ。冷静沈着な彼女からは、やはり考えられない慌てぶりだった。

「そうですか、じゃあ後で取り―――「言いなさい」―――え?」
「言いなさい」

 ビュウの言葉を遮るように、冷徹なる一言、二言。それがどこから発せられたものなのか、ジャンヌには考えるまでもなかった。

「わ、わかりました」
「ジャンヌは、あなたの部屋に、何を、忘れたの」

 わざと一言一言区切って発するルキア。恐怖感5割増。

「え、えっと―――下着―――です……」
「そう、わかったわ」

 朝までビュウの部屋で呑んでた=朝まで二人でいた……@
 部屋に下着を忘れた=少なくとも服を脱いだ……A
 @+Aより 朝まで二人は裸同然でいた≒致した
 ∴ジャンヌはルキアの敵(Q.E.D)

「い、いや、ルキア、これはね?」
「ジャンヌ」
「な、なに?」
「―――最強のライトアーマーは、二人も要らないわ」




 タイトルが意味不明です。
 てか、ルキアの服ってエロくね?
 攻撃モーションのときなんて生足がブラボー。


感想など

 


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