今日も怠惰な授業を受けきり、帰宅。
お疲れ、あたし。
「おかえり、香里」
「ただいま」
何かと反則的な母親に挨拶をする。
とても40代とは思えない肌の張りとか。
はっきり言って、自信なくす。
「……どうかしたの?
お母さん」
「?
どうもしないわよ」
口ではそう言うが、その火照った頬は怪しい。
「何かあったの?」
「だから、何もないわよ。……変な香里ね」
変なのはあんただ、とか言ってみたいけど、やめる。
覚醒するから。
覚醒した母は強し。
「何でもないならいいわ」
怪しすぎる人物を泣く泣く逃すというのはとても悔しいものだ。
こないだのドラマ見てて、思った。
あたしは階段を上りきると、自室のドアノブに手を掛けた。
そして、捻りからの押しでコンボを繋げる。
日常でよく使うコンボ十傑にも選ばれたシロモノだ。
「おかえり、香里」
――パタン。
現実というのはいつも理想の斜め下側をいくもので、とかいう問題かこれは。
斜め下どころか、別次元だ。
しかし、アレだ。
現実を受け止めて生きるとついこの間心に誓った気がする。きっかけは忘れたが。
だからあたしは現実という名の扉を開いた。
「おかえり、香里」
世界が、止まった。気がする。
っていうか。何で。
「何であなたがいるのよ」
「いや、奥さんに粗品握らせたら、入れてくれた」
ナニ握らせたのよ。……変な意味じゃなく。
そんな想像してませんから変態じゃありませんから。
それに相沢君のは立派よ?
って、何言わすかっ。
――っていうか、奥さんって呼ぶな。
「とても悦んで頂いたぞ」
あ、やっぱりそれだったのね。
と、冷静な自分に乾杯。
『入れてくれた』はあっちなのだろうかと思ってしまうあたしは末期なのでしょうか。
「で、何の用?」
何かもう、慣れた。
そんな自分に杯をっ。
「いやな、何か最近のあいつらの俺を見る目が獣化してきた気がしないか?」
「そうかしら?」
あいつらってのは……ま、別に説明しなくてもいっか。
「というわけで、泊めれ」
端折り過ぎ。
とりあえずこれだけは言いたい。
「安心しろ、許可は貰った」
「誰によ」
「学校」
はい?
「ほれ、ここに見たこともない校長の判が捺してある」
相沢君の右手にひらひら舞う紙。
おそらくあれが許可証なのだろう。
何で学校が許可出さなきゃなんないのよ。
「家庭の事情ならしょうがない、って言ってた」
バイトかよ。
っていうか。そうじゃなくて。
「何であんたは本人の許可取らないのよ」
「だから、今取ってる」
うわ、マジムカつきますわ。
「ちなみに、拒否権はない」
許可取りにきたのか命令しにきたのか、どっちだよ。
「何かいろいろ甚だおかしいけど、学校の許可程度じゃ本人の承諾がなきゃダメよ」
「大丈夫だ。もう一つ許可証がある」
「今度はどこよ」
「国」
日本人辞めようかしら。
何ていうか、存在を否定したくなるわ。いろいろと。
天国のお父さん、香里は今、栞の時と同じ轍を踏みそうです。合掌。……死んでないけど。
「というわけで、泊まる」
「はぁ……。もう勝手にしてちょうだい」
人間、諦めが肝心。
なんと的を得た言葉だろうか。万歳古人。
「そういえば、栞はどうするのよ。あの子は帰ってくるわよ」
当然だけど。
「それについては抜かりはない」
「へぇ、何か策があるの?」
「ずっとこの部屋にいる」
「……本気?」
「本気」
「食事は?」
「持ってきてくれ」
「トイレは?」
「頼む」
「頼むな」
せんせー、コンクリ抱かせて沈めてもいいですか?
「ベッドは半分こな」
「狭いから嫌よ」
「ふむ……」
手を顎に当てて考える仕草を見せる。
どうでもいいけど、とんでもなく似合ってないわよ。
「重なってればいいわけか」
「何でよ」
「いや、だって。隣がダメなら」
「床に寝るって選択肢はないわけ?」
「香里って、そういうプレイが好きなのか?」
「相沢君が望むなら」
「……でもやっぱベッドで寝たい」
「しょうがないわね」
さっきから流されっぱなしな気がするけど、何かもういいや。
好きにして。そういう意味じゃなく。
「そろそろ、着替えたいんだけど」
「おぅ、どぞどぞ」
「ちょっと、出てってくれない?」
「……いや、今出てって栞に見つかったらダメだし」
本日何回目だろう。
自然と深い溜め息が漏れる。
「着替えが見たいなら最初からそういいなさいよ」
「見たい」
「素直でよろしい。――でも、手を触れるのは禁止よ」
そう言い、着替え始める。
冷静に考えなくてもおかしいんだけど、もうどーにでもなれ。
相沢君の相手した時点で既にあたしは彼の術中に嵌ってるのだから。
――ぴと。
「触るのは禁止って言ったでしょ?」
「手で、って言ってたから」
子供かっ。
立ち読み禁止だから座って読む、みたいな。
「香里」
「何よ」
「もう無理」
「え、ちょ、ちょっと――きゃっ!」
そりゃあ、相沢君が我慢できるなんて思っちゃいなかったけど。
でもこんな中途半端な……。
「半脱ぎの制服がそそるな――じゅる」
じゅるって言いました。変態です。
「最初の食事は香里だな」
ベタです。変態です。
「って、ひゃっ!
そ、そこは……」
「ほほぅ、香里はここが良いと申すか」
あんた何キャラだ、と言いたいけど、それどころじゃない。
あぁ…段々理性が侵されていく気がする……。
「あ…ダメ……そ、んな…いきなり……」
「やっぱり反応は香里が一番だな」
「なに…いって……」
もう無理。限界です。我慢できません。
美坂香里、リミッター解除します。
行為から数分、あたしは荒々しい息を整える。
相沢君はというと、あたしの隣でぐっすり眠ってやがる。
くそっ、何かムカつく。
結局、今日も主導権握れなかったし。
――がちゃ。
「お姉ちゃん、ちょっといいで…すか……」
ノックぐらいしろやーっ!!
お約束過ぎます。変態です。
ここは変に動くと怪しいから、まずは相手の動きを見る。鉄則ね。
「ななな、何で祐一さ……っていうか、何やってるんですかっ!?」
「何って…見ればわかるでしょ?」
「な……交尾ですかっ!?」
交尾言うな。
何か増して淫靡だから。
「何でお姉ちゃんとっ?
って、それよりも!!」
ぎゃーぎゃー喚く栞は置いておこう。
あたしはとりあえず着てるのか着てないのかよくわからない制服に手を掛ける。
こうして見ると、相沢君の変態っぷりが顕著になる。
「――何で私も混ぜてくれなかったんですかっ!!」
どーん。
せんせー、この子の姉辞めてもいいですか?
ついでに元凶の男も沈めていいですか?
「はぁ……」
あたしは制服を脱ぎながら、人知れず溜め息を吐いた。
そして運命を呪った。
何であたしをこんな環の中に生んだんだ、と。
いやマジで。
病んでますかそうですか。
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