電車に乗ること数時間。

 目的の駅に着いた電車から降り、プラットホームを歩く。

 肩からボストンバックをつるし、両手で不慣れに何かを抱いている。


「はぁぁ〜〜〜」


 ついたため息は白く、北の街に帰ってきたことを教えてくれる。

 駅の改札口を抜け住み慣れた家へと向かう。


















     Baby Panic!? 後編

















「あうぅ〜〜、これどこに置けばいいの〜〜」

「うぐぅ、こげちゃった…」

「栞、アイスつまみ食いしないの!」

「えぅ、ばれちゃいました」

「……佐祐理、これ味見して」

「うん、大丈夫だよ、舞」

「この飾りはここでよろしいのでしょうか?」


 今、わたしたちは祐一を出迎える準備をしてるんだよ。

 祐一がアメリカにいる伯母さんたちのところに行って三週間、今日ようやく帰ってくるんだよ。

 その知らせが届いたのが昨日の夜。

 向こうに行っちゃって初めて電話をしてきたかと思うと『明日帰る』だって。

 突然すぎるよね!

 極悪人だよ。

 でも、嬉しいんだ、だって祐一が帰ってきてくれるんだもん♪


「名雪、そんなところで突っ立ってないで手伝ってよ」


 手に持っているお皿を渡してそそくさとキッチンに戻って行く香里。

 お皿の上にはおいしそうなから揚げがたくさん。

 確か舞さんが好きなんだよね。


「わかったよ〜」


 キッチンに戻ってしまった香里に返事をするとリビングに移動する。


「あ、名雪さん」


 リビングではあゆちゃんと真琴、それに美汐ちゃんが飾り付けの看板を吊るいていた。


「あゆあゆ、これでどお?」

「うぐぅ、あゆあゆじゃないもん。…美汐ちゃん、もう少し上だよ」

「これでよろしいでしょうか?」

「うん、バッチリだよ」


 三人が吊るしていた看板には『祐一君、お帰りなさい!』って書かれている。

 これは昨日、夜なべして作ったんだよ。

 そのおかげでとっても眠いんだけど頑張って起きてなきゃね!


「ほら、名雪。そこどけて」


 キッチンから香里が料理を運んで来る。

 その後に栞ちゃんに舞さん、佐祐理さんにお母さんが続く。


「これであらかた準備は終わったわね」


 お母さんが時計をちらりと見る。


「祐一さんももうすぐ到着するはずね」


 その言葉に皆の顔が喜びに満ちていくのが分かる。

 やっぱり皆も祐一のことが好きなんだね。

 祐一が帰ってきてくれるのは嬉しいけど、ちょっと複雑だよ。












 祐一を待つこと数十分。

 その間に舞さんと真琴がおかずに手をつけようとして佐祐理さんと美汐ちゃんに注意されたり、お母さんが懐に忍び込ませたジャムをこっそり出したりと色々と大変だったんだよ。

 そうこうしているうちに30分が過ぎたころに玄関のチャイムが鳴った。

 お母さんが出迎えに行ってわたしたちはクラッカーを扉に向けて待つ。


「お帰りなさい、祐一さん」

「あ、ただいまです、秋子さん」

「あら、それは……あらあらあら」

「えっと、もろもろの事情はリビングの方で…」

「……え、ああ、そうですね」


 ぱたぱたぱたぱた

 玄関で話をしていたお母さんと祐一の足音が近づいてくる。

 皆はクラッカーを扉の方に向けて祐一が入ってくるの待つ。

 そして扉の取っ手が回される。
















 ぱんぱんぱぱぱ〜〜〜〜ん




「祐一〜お帰り〜」

「お帰りなさい、祐一君」

「あぅ、おかえり、ゆういち」

「祐一さん! お帰りなさい!」

「お帰り、相沢君」

「……お帰り」

「あははー、お帰りなさい、祐一さん」

「お帰りなさい、相沢さん」



 ………………

 …………

 ……


 あれ?

 驚かそうと思って皆と息を合わせたんだけど…

 祐一はクラッカーから飛び出した細い紙まみれで固まったまま。

 その手には白い布にくるまれた何かを持っていた。

 しばらくすると沈黙を破るように


「ふっく、ふあああぁぁぁぁーーーーー!!!」


 耳をつんざめク劈めくような泣き声が響き渡った。


「ああ、また泣き出しやがった! せっかく寝てたのに!」


 祐一は手に抱えている布を覗き込みながら必死にそれを上下に動かしている。


「あらあら、祐一さん、それではだめよ」


 お母さんは祐一から布を受け取ると愛しむように両手で抱き、体全体を揺らしながらリビングに入っていく。


「ほらほら、もう大丈夫よ。おっきな音がしてビックリしたね〜。ほ〜らこわくな〜い、こわくな〜い」

「ふえぇぇーー、うっく、ううぅぅーー、ふぐぅぅぅ……」

「おお! こんなに簡単に泣き止んだ!」

「力任せにあやしてもだめなのよ」

「はぁ、流石です、秋子さん」

「伊達に名雪の母親をやってませんから」


 ソファに座ったお母さんとその後ろに立つ祐一。

 それはつい三週間前まで当たり前の光景だったんだけど…


「……赤ちゃん?」


 いつの間に移動したのか、舞さんが布を覗き込んで言う。


「……祐一の子供?」

「んなわけあるか!」

「ね、ねえ、祐一」


 ようやく事態に追いついてきたわたしは祐一のそばに近寄る。


「この子、誰?」

「あ〜まあ、なんだ説明するからとりあえず皆リビングに入ってくれないか」


 祐一のその言葉で皆リビングへと移動。

 そして祐一とその隣で赤ちゃんをあやしているお母さんをの前に座る。


「えっと、まずは皆、ただいま。この部屋を見るだけでも皆が歓迎してくれてるのがよっく分かるよ。ありがとう」


 そう言うと祐一はわたしたち一人一人、順に顔を見る。

 その表情は嬉しさと優しさがにじみ出て、何て言うか…うにゅぅ、その顔は卑怯だよ(///)


「で、だ。この子が誰なのかって話なんだけど、俺の妹だ」


 はい?


「祐一? 今、何て言ったの?」

「ん? だから、この子は俺の妹だって、言ったんだ」

「赤ちゃんだよ!」

「そりゃ、二週間前に生まれてたばかりだからな」

「二週間前ってそれじゃあ、相沢君がアメリカに行ったのって」

「ああ、こいつが生まれそうだったからだよ」


 お母さんに抱かれすやすやと眠っている赤ちゃん。

 その様子を舞さんと真琴、それにあゆちゃんと栞ちゃんがまじまじと見つめる。


「まったく、まいったよ。向こうについてすぐに生まれて、忙しいから面倒見てくれって押し付けられて」

「あはは、凄いご両親ですね〜(汗」


 乾いた声で祐一と赤ちゃんを半々に見る佐祐理さん。


「抱いてみますか?」

「はえ!?」

「赤ちゃん、抱いてみます?」

「え、でも……いいんですか?」

「いいですよね、祐一さん?」

「ええ、俺が抱いてるより絶対に喜ぶでしょう」


 駅から家まで赤ちゃんを抱いてきたのが疲れたのかソファに深く腰掛けうなだれる祐一が答える。


「まだ首が据わってないからないから気をつけてね」

「は、はい」


 何事も動じず笑顔でこなしてしまう感じがある佐祐理さんでも緊張してるみたい。

 恐る恐るといった感じでお母さんから赤ちゃんを受け取る。


「わぁ…」


 赤ちゃんを抱いた瞬間、佐祐理さんが声を上げる。


「あったかい…」


 いつもとは違う、慈愛の満ちた笑顔を浮かべる佐祐理さんは同性のわたしも見惚れる程。

 隣でだらけていた祐一もそんな佐祐理さんの表情を見て口に運ぼうとしているフォークが途中で止まっている。


「祐一さん」

「…………」

「祐一さん?」

「…え? あ、何? 佐祐理さん」

「赤ちゃんの名前、何て言うんですか?」

「祐奈だよ。相沢祐奈。佐祐理さんの祐に奈良県の奈」

「はぇ〜、佐祐理の名前も入ってるんですね〜」


 名前を聞いた佐祐理さんは嬉しそうに赤ちゃん、祐奈ちゃんをあやす。


「こんにちは〜祐奈ちゃん。佐祐理は佐祐理って言うんですよ〜。佐祐理の祐は祐奈ちゃんの祐と同じ祐なんですよ〜」

「あの、佐祐理先輩」

「はぇ? 何ですか? 香里さん」

「えっと、あたしにも抱かせてもらえませんか?」

「いいですよ〜」


 佐祐理さんから祐奈ちゃんを受け取る香里。


「お姉ちゃん、どんな感じですか?」

「ん〜、そうね…ちっちゃくって、あったかくって、それに…いいにおい」


 祐奈ちゃんに頬擦りをする香里。


「お姉ちゃん、次は私に抱かせてください」

「うぐぅ、ボクも抱きたいよ」

「あぅ〜、真琴も〜」


 栞ちゃんの言葉を皮切りにあゆちゃん、真琴と香里に近寄る。


「え、ちょっと、三人とも待ってよ!」


 祐奈ちゃんを抱きかかえて身動きが自由に出来ない香里が静止の声を上げるが三人は止まらない。

 三人はただ他の二人よりも早く祐奈ちゃんを抱きたい一身で飛び掛る。

 三人が三人、同時に飛び掛る…という事は


  ガンッ


 と、痛々しい音を立て頭をぶつけ合うわけで。


「えぅ〜〜」

「うぐぅ〜〜」

「あぅ〜〜」

「はぁ、まったく、危ないじゃない」


 祐奈ちゃんを守ろうと体を捻っていた香里が呆れ声で呟く。

 床で仲良く頭を抑えている三人を放って香里は祐一の隣に腰掛ける。


「ふふっ、赤ちゃんって可愛いわね」

「そうか、ぎゃーすか泣き喚いてうるさいだけだろ」

「それを差し引いても可愛いの」

「そんなもんかね」

「そんなもんよ。ほら見て、笑ってる」

「このやろう。俺が抱いてるときは笑ったことないぞ」

「それは相沢君の抱き方が悪いのよ」

「おいおい、俺は母さん直々に教わったんだぞ。そんなはずはない」

「それじゃぁ、愛情が足りないのよ」

「ぐっ、血を分けた実の兄の愛情が足りなのか」

「頑張りなさい、おに〜ちゃん」


 ソファで祐奈ちゃんを覗き込むように座っている二人。

 なんていうか、その、とってもいい雰囲気だよ。

 皆もそれに気付いてるんだけど、何故か誰も二人を止めようとしない。

 ううん、違うね。

 止めたいんだけど出来ないんだよ。


「うりうり、兄の愛を受け取れ」


 この


「ちょっと、止めなさいよ。嫌がってるじゃない」


 二人の


「むむ、兄妹愛の邪魔をせんでくれ、香里」


 認めなくい


「あなたのは愛情じゃなくて悪戯でしょう」


 認めなくないけど


「あなたって…香里…」

「な、何よ…」

「なんかさ…その…」

「新婚さんみたいですね♪」

「「ええっ!!」」


 お、お母さん!!

 あ〜あ〜、祐一も香里も顔が真っ赤だよ。

 皆そこはかとなく感じていたことなのに…何も言わなくても〜〜。


「ふぅうぅ〜〜、ふぇぇえええぇえぇぇえ〜〜〜」

「えっ、えっ、なに? どうしたの祐奈ちゃん!」


 皆が固まってしまって数分。

 香里の腕の中で髪の毛でじゃれていた祐奈ちゃんが急に泣き出しちゃった!


「ふえぇぇえ〜〜〜、ふぁぇええぇえぇ〜〜〜〜!!!」

「ちょ、ちょっと、相沢君! 何とかしてよ!」

「何とかって、如何すればいいんだよ!」


 泣いている祐奈ちゃんにおろおろと立ち回る祐一と香里。

 もちろん他の皆も如何したらよいのか分からずうろたえる。


「あらあら」


 ただお母さんだけはいつも通りのポーズで落ち着いている。


「祐一さん、哺乳瓶とミルク粉は何処ですか?」

「え、確かカバンに入ってると…」


 それを聞くとお母さんはカバンからさっき言ってたものを取り出しキッチンに入っていった。

 しばらくして戻ってきたお母さんは香里から祐奈ちゃんを受け取りミルクを与える。


「んっく、んっ、くっん、んっく、あん、んく」

「よく分かりましたね」

「赤ちゃんの泣き声にもいろいろあるのよ。これから色々あるかも知れないから祐一さんも早く覚えて上げてね」


 ミルクを飲み干しげっぷをさせた後祐奈ちゃんをベビーベッドに寝かせ遅れてしまった祐一の歓迎会を再開した。

 歓迎会の間にも皆祐奈ちゃんの様子を見たり抱こうとしたりといろいろとあった。

 そんなこんなでわたしたちの家に新しい住人が増えた。

 相沢祐奈ちゃん、天下無敵の0才。

 これからいろいろ大変そうだよ。










あとがき

 Baby Panic!? 如何だったでしょう?

 赤ちゃんものをあるサイトで読んで突発的に書いてみました。

 ………ってかあとがきってこれ以上何を書けば?(マテ

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送