キャッチャーファッカーとパンツの話
――構造把握――。 俺は眼前のそれを睨み付けた。射抜く、射抜く、射抜く。 人は情報の大半を視覚によって賄っている。正に猛禽類の如くのそれで、俺はただそれの一面を一瞥してみせた。 否。 一面を一瞥。俺が、衛宮士郎が、正義の味方が、なによりも解析能力者が、その程度のはずがない。 たった一つの側面。そこから全てを計算し、外観から内部構造に至るまでを頭に描く。 故にその行為は酷く磐石の様相を呈すのだ。人々の織り成す雑踏など、自分の世界に没頭すれば微々たる物に過ぎない。 ――――待ってろよ、セイバー。 俺は知らず作っていた握りこぶしに苦笑し、だが油断なく力を抜くと眼前の敵を無言のまま圧する。 相手に奢りはない。 あるはずがないのだ。 それでも奴は無表情のままにおどけた様な音を出し、まるでそれが俺を嘲っているようでならない。 ああ、だがそうだとも、正義の味方に付き纏う悪だというのならば、その程度乗り越えずに何が正義の味方か。 嘲りたければ存分に、大口を開けて笑えばいい。その口に百の刃を突き刺し俺は勝つ。 フッ、と息を小さく吸うと、俺は奴の一部に触れた。 機械的な音が永続的に続く。だが短い。三秒ほどだろうか? 音はそこで切れ、そこが締めかと思わせるような、しかしまたも機械的な音が今度は二秒ほど続いた。 心臓が高鳴る。指先は高揚感と焦燥感に震え、まるでソレは……そう、かの猛勇な狂戦士と相対した時のそれにも似ていた。 ……後……少し。 心の奥底で、自分を励ますマーチ代わりにと呟いた。心が折れることはない。だが、さび付いてしまってはどうしようもない。 炎で穿て、水で穿て、心などどうにでもなるものだ。 いとも容易く崩れるのが心ならば、しかして何事にも動じずに相手を圧すのもまた心。 二秒ほど続いた音の後、また刹那のみの静寂。だがそれは周りの雑音にかき消され俺の耳には届かない。 いや、今の俺には何も届かないだろう。ただただ前を睨みつける獣の如く、それを凝視するのみ。 これより先は考えても仕方が無い。 己の物ではない手に一任するなど柄ではないが、ここまでくれば最早神頼みでもするしかないだろう。 ――だが、感触はあった。 俺は唇を薄く吊り上げていた。研ぎ澄まされた鋭敏な心は指先に伝わっていたはずだ。 奴も黙ってそれを見ているしか出来なかったのだから、ここは一つ、俺の勝ちとさせてもらおうか。 視線の先でそれはゆっくり、ゆっくりと下に降りる。ああ、後数秒だ。 果てもなく長い数秒の緊張感。この後に、俺は声を高らかにセイバーの名を叫べるだろう。 ――――――――そうした魔術使いの思い違いが甚だしいと理解できるのに、当の俺は数秒を要した。 勝つまで奢りも油断もなかったはずだった。ああ、だが現実はどうだ。 一瞬の心の隙。手にとれる戦果など何も無い。空虚な機械音だが、無慈悲に響く。 「……馬鹿なッ」 俺は小さく叫んだ。馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な。 完璧だった。百の剣を作り出すよりも、千の剣を生み出すよりも、万の剣を穿つよりも完璧だった。 ――いや……違う、認めろ衛宮士郎。俺は失敗したんだ……だけど、次がないわけじゃない。 敵はピエロが歌うように軽快ねメロディーを奏でるだけで、他に何をしようともしやがらない。 ガッデム、シット、ドンマイいやドンマイなんて英語はない違うだからそうじゃない。 冷静になれ。ダンボールに山と詰まれたミカンを思い出せ。そのミカンの賞味期限を思い出せ。クールビズ。 冷静。そう、魔術師は心を乱すなかれ。故に己に暗示をかけてでも冷静でなくばいけない。 俺は頭にいくつかの事柄を思い浮かべた。冷静になるための自己暗示。己の中に眠る、呪文。 桜のあのえぐい蟲。 衛宮家の現時点でのエンゲル係数。(現時点での、という表記が大切) 桜のあのうねうねした蟲。 セイバーが眼を輝かせて見ていた先にある飲食店。(黒だとジャンクで大助かりではあるのだが……) 桜のあのでかいきもい食材にはなりそうもない蟲。 ライダーのバイクチューンにかかる費用。(高いから良いパーツというのが真理というわけじゃないぞライダー) 桜のあのでかいやばいむにゅむにゅした乳――――意識脱線。破棄……復元――――――心身滅却完了――――――。 俺は一つだけ溜息を吐き出すと、意気込みも新たにまた敵に向かっていった。 狙いは奴の腹の中だ。もちろん臓物とかそういう意味合いじゃない。 腹の中といっても比喩的表現というかどちらかといえば揶揄的かもしれないが、もちろんそんなことは激しくどうでもいい。 「行くぞ玩具王――――ぬいぐるみの貯蔵は十分か?」 そして俺は、敵を……UFOキャッチャーを睨みつけ、一言。 さて、先ほど取り逃したライオンライダーのぬいぐるみを、魁て奪取しなければ――――! その後、結局俺はそのぬいぐるみを千二百円ほど使って己の手にすることができた。 まったく、解析までしたのにこの様か。俺もまだまだだな。 ぬいぐるみを抱いて喜ぶセイバーを尻目に、やれやれと声を漏らす。 とはいえ一仕事した後の快感というのは忘れられるものじゃない。 「……ねえ、士郎」 悦に入って今にもぬいぐるみをフェルトの山に分解しそうなセイバーをどうどうと落ち着かせていると、遠坂が話し掛けてきた。 あの無駄に赤い皮肉男の姿が見えない。今日は風も良いから、いつものようにパンチラ狩りへと出掛けているのだろう。 いや、今日は確かランサーも暇してたな……。 あいつこの前アーチャーと一緒にカメラ(盗撮用)買ったはずだから、あいつも一緒か。 後で知り合い価格で贔屓にして貰おう。 「……士郎?」 「あ、悪い、なんだ遠坂?」 「アレなんだけど」 アレ、といって遠坂が指差した先にいるのは、ご機嫌のセイバー嬢。 あ、こら、よだれよだれ。 ていうか遠坂、魔術師が……ていうか、ガンド使いが生物に向かって指差しちゃダメ、ゼッタイ。 「セイバーがどうかしたのか?」 「いや、あれ、士郎がとってきたって言ってたわよね?」 「おう。まあ一般人しかいなかったから、解析まで使っちまったけどな……いや待てこれくらいは許してくださいごめんなさい」 俺の解析、物体に魔力通さないと出来ないからしかたないだろう……。 神秘は隠匿せよ。土地管理者でも遠坂は、メンバーの中ではこれについて一番五月蝿く言ってくる。 「ん、もういいけど。サーヴァントが現界してる時点で神秘大放出中だし」 「あ、そういやそうか。で、結局あのぬいぐるみがどうかしたのか?」 「ていうか、ぬいぐるみ自体じゃなくて……あれ、UFOキャッチャーでとったって言ってたでしょ?」 「そうだぞ」 「……物質解析までしたんなら、クレーンを強化しちゃえば良かっただけじゃないの?」 超凹んだ。 後日談。―― 覚醒した男の冷静沈着な心の咽び ―― 両手一杯のぬいぐるみ。戦果は上々機嫌も上々。 これで小出しでセイバーに貢いで行けば、三日の間は食事の質を多少おとしても大丈夫だろうと思索する俺は十八歳高校生。 悲しくて泣けてきた。 ていうかさ、 「で、出た! その巧みな指さばきは狙った獲物を決して逃さず! そしてクレーンすらも大口をかぱっと締めて後を押す!」 「ゲーセンにきては狙う機体はUFOキャッチャーのみの男。誰が呼んだかキャッチャーファッカー!」 最悪だからな、それ。 後日談2。―― 一眼レフに馳せた想ひ出 ―― 「マイクテスマイクテスマイクテスリンカワイイ。こちらレッド・デヴィル・ラヴ。応答せよ」 「ケータイでマイクテスすんな。こちら晏子之御――ところでお前がつけたこれ、どういう意味よ?」 「別にコードネームに大した意味などあるまい。それはそれとしてアレの方はどうだ?」 「カッ、偵察犬に使われたサーヴァントを舐めんなよって誰が犬だ!」 「……たまに君の思考回路は神がかっているな。まあいい。しかし口ぶりからすると相当のモノの様だが?」 「おうよ。ストライプ、無地、水玉、選り取り緑の毎晩とっかえひっかえだ」 「コードに抵触する発言は控えるように。だが中々だな。こちらもそれなりに数は集まった」 「ハッ。選り好みの激しいテメェにしちゃ大袈裟な言葉じゃねぇか」 「君風に言えば「今日はパンツ祭りだぁぁぁ」と言ったところか」 「言ったことねーぞそんなこと!?」 「声が大きいぞランサー。あのイカレ系糞味噌神父に聞かれたらどうする」 「クラスばらしてんじゃねーよ!?」 「……人の話を聞かないのがランサーの特色か? まあいい。とりあえず行きつけの居酒屋で反省会でも開くとしよう」 「くッ……そうだな。何時ごろがいいかね」 「六時過ぎでいいだろう。この時間帯ならば凛たちが夕食の仕込みをしだすころだからな。注意は向くまい」 「うし、了解だ。どうせ俺の方が早ぇだろうからな。なんか頼んどくもんあるか?」 「ああ、では私は「天国(上)か地獄(下)への片道切符でよろしく」――ふむ、ランサー、聞いているか?」 「おう……チッ、テメェも根性見せろよ?」 「了解した。さて凛、申し開きがあるのだが、まず一つ聞いて良いかね?」 「まず、ね。何かしら?」 「なぜここに?」 「迂闊ね、アーチャー。マスターとのレイラインを切ってないわよ。契約舐めんな」 「なるほど。確かに迂闊極まりない。些かマスターに毒されたのかも知れんな」 「それだけ?」 「まだある……この後に控えているだろう採決だが、少なくとも私に弁護士はつくのか?」 「十三秒あげるわ。必死こいて逃げなさい」 「了解したマスター。そして逃げ際のパンチラゲット&永久保存!」 「――――――尻の穴にネギ突っ込んで小腸の中で掻き混ぜてやる……ッッ!!」 用語集 衛宮士郎:ご存知我等が主人公。このたび聖杯戦争に巻き込まれた不運型自動情熱製造機。別名歩く銃刀法違反。      UFOキャッチャーに敵意を燃やす高校生主夫。どちらかといえばセイバーマンセー気味。      聖杯戦争で「考える」という機能を使い果たしたのか、少々お馬鹿。      もちろん普通の一般高校生でもあるわけだから、エロスに興味がないはずがない。はずがない。(二回目)      最近の悩みはなぜか引退した生徒会長が熱い視線を送ってくること。      いざという時は強硬手段も辞さない構え。      最近キャッチャーファッカーなどという不名誉な称号を与えられ、ちょっと引き気味。 アーチャー:コードネームはレッド・デヴィル・ラヴ。遠坂凛のためならば命もかけられる熱い漢。だけどネギ刺しだけは勘弁な。       普段は遠坂邸にて与えられた自室に篭り永遠とフィギュアを製作するだけの無害なやつ。       だが最近は盗撮に嵌りだしたらしく、専らランサーやギルガメッシュと組んでは冬木在住の巡査達を困らせている。       余談だが、凛のパンチラをゲットした彼はすぐさま投影魔術にして複製。       オリジナルは凛の手により世界から消え去ったものの、数百枚のパンチラ画像がランサーの元へと無事渡った。       ケータイは凛が買い与えたもの。授業中に頭の中に話しかけられるのがうざったくてしょうがなかったらしい。 ランサー:コードネームは晏子之御(あんしのぎょ)。低い地位に満足して得意がる小人物のことをここでは差している。      命名したのはアーチャー。彼がこの名前をランサーに授けたとき、彼は非常に良い笑顔だったとはランサー談。      アーチャーやギルガメッシュと共に今日も仲良く軽犯罪。      アーチャーがじっくりとベストアングルを狙うのに対し、ランサーは見えたら即撮りタイプ。      実は資金源はギルガメッシュの至宝をいくつかパクッているのだが、可哀想なことにギル公は気付いていない。 セイバー:ごめん脇役。 遠坂凛:脇役その2。衛宮家では実は良識派。 間藤桜:乳。そして蟲。 ライダー:バイク。そしてナイスバディ。 ギルガメッシュ:悪役三人衆最後の一人。今回はバビロン内の宝具整理などをしていたため凛の毒牙にはかからなかった。 言峰綺礼:糞味噌神父。 ライオンライダー:日曜日朝九時12chから、冬木市周辺で放送しているアクションアニメ。          デフォルメされて二足歩行するライオンが、なぜか困っている草食動物を助けるというもの。          内容自体はほのぼのとした物だが、時折出てくる人間の女の子たちが萌え系統のため一部に絶大な人気有り。          ちなみにライダーの本名は「ライオン丸・渡辺」というらしい。二十九歳妻子持ち。 あとがき 正義の味方とか抑止の守護者に変態フラグ追加風味で。 ぶっちゃければ、某地蔵侍さんのところのインスパイア。 訴えないで?
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