君を忘れない 勿忘草



注: FateルートEND後です。と言っても、セイバーはほとんど出て来ません。




聖杯戦争と呼ばれる7人の魔術師と7騎のサーヴァントによる殺し合いが

終わって3ヶ月あまりが経つ。未だにその傷跡は癒えてはいないが、徐々

にその忌まわしい記憶も人々の中から消え去ろうとしていた。だが一人の

青年、衛宮士郎からは永遠に消える事はない。

「衛宮」

ある放課後、士郎は友人の柳洞一成から声を掛けられた。いや、それ自

体は別に大した事ではないのだが、ただその時だけは一成の様子が変だ

った。

「どうした、一成? また学校の備品の修理か?」

どうせいつもの備品修理だろうと思った士郎は、そう声を掛ける。この衛

宮士郎、学校の中では便利屋まがいの事をしている。なので、稀に一成か

ら備品修理の依頼をされる。士郎自身、物を直すと言う行為自体を楽しん

でいるので苦にはならない。

「いや、今日は時間はあるか? 少し話をしたいのだが」

「? あぁ、別にバイトも入ってないし、良いけど」

そうか、と頷く一成。まったくもって分からない。一体何を言いたいのか、

士郎には検討もつかない。 

「では生徒会室に行こう。あそこならば邪魔は入らん」

「先に行っててくれ。遠坂に一言言っとかないと」

遠坂と言う言葉を聞いた一成はむ、と眉を顰める。

「衛宮。貴様、まだあの女狐と関わっておるのか。いい加減に目を覚ませ。

あ奴は魔性の女よ」

「何度も言ってるけど、遠坂はそんな奴じゃないって。そりゃまぁ、人を

からかうのが好きな奴だけど……」

後半は少し小声で喋る。


遠坂凛。


士郎と同じく、聖杯戦争の参加者。アーチャーの元マスターであり、今は

士郎の魔術の師匠である。学校では優等生の皮を被ってはいるが、そ

の実体は士郎曰く、あかいあくまとの事。

「それだけ十分だ。まったく、遠坂め。衛宮を陥れて何を企んでおるのや

ら」

「企むって……」

苦笑する。しかし何かしら企んではいそうだな、と思ったのは士郎だけの

秘密だ。

「じゃあ、遠坂に言ってくるから」

「うむ。くれぐれも気を付けろ」

喝、等と言いながら一成は生徒会室に方向に歩いていく。士郎は凛に会

いに行くために3−B教室へと向かう。と、廊下の奥から目的の人物が現

れた。

「あ、遠坂」

「士郎。丁度良かったわ。一緒に帰りましょ」

周りに誰もいない事を確認し、地の顔に戻る。3年になっても学校での擬

態は続けているようだ。

「いや、今日はちょっと用事が出来たから1人で帰ってくれ」

「なに? もしかして、後輩の女の子から呼び出し喰らって告白とか?」

きしし、と邪悪な笑みを零す凛。あかいあくまモード発動である。しかし、

何処と無く不機嫌さが滲み出ている。無論、歩く鈍感の異名を持つ士郎は

微塵にも気付かない。

「いや、何か一成が話があるらしい。だから今日は一緒に帰れない」

「柳洞君が?」

不思議そうな顔の凛。一成と士郎が良く一緒にいるのは周知の事実だが、

態々呼び出して話し合う事はあまりない。

「そう……。分かったわ、じゃあ夕食時に会いましょう」

「すまん。藤ねえと桜にも言っといてくれ」

聖杯戦争後、何故か凛は衛宮邸の夕食に毎日現れる。いや、もう既に半

居候状態だ。それを不思議に思った士郎は、一度凛に聞いた。曰く

「別にどうでもいいでしょ。強いて言うならあんたの料理が美味しいからと、

……あんたをあいつみたいにしない為よ」

だそうだ。『あいつ』と言うのが分からなかった士郎だったが、聞くと凛があ

かいあくまになりそうで止めた。その時、凛の顔が赤く染まっていたのに士

郎は気付かなかったが。

「じゃあね」

「あぁ」

凛と別れ、生徒会室へと向かう。が、士郎は遠坂凛と言う人物を甘く見て

いた。

彼女が素直に言う事を聞く人か?

 否、NOだ。

「…」

こっそりと士郎の後をつける凛。その姿は正にストーカーそのもの。しか

し、そんな事関係ない。認めよう。遠坂凛は、衛宮士郎に恋している。そ

りゃもう完膚なきまでに。

「まさか、私も惚れちゃうなんてね〜…」

別段、衛宮士郎が美形という訳でもない。強いて言うならば、彼の優しい

心に惚れたと言うべきだ。恐らく、友人の――いや、我が妹の桜もそんな

彼の心を見て好きになってしまったのだろう。目下、最大のライバルだ。

「おーい、一成。来たぞ〜」

士郎が生徒会室へと入る。これ以上は進入できない。凛は魔力を聴覚に集

め、強化する。これで中の会話は聞こえるだろう。凛は生徒会室のすぐ横

にある空き教室に入り、壁に耳を押し当てた……。


「で、何だよ。話って?」

出された粗茶を呑みながら、士郎は問う。

「……衛宮。この3ヵ月の間に何があった?」

「? なんでさ?」

「どうにも最近の衛宮は元気が無いように見えてな」

「いつも通りだぞ? 俺」

一成はそんな士郎を見て、少し辛くなった。多分、衛宮士郎は自分では気

付いていないのだ。自分の“変化”に。

「衛宮、お前は昔から何処か危うい奴であったが、最近はそれに拍車をか

けておる」

「一成まで遠坂と同じ事言うんだな……。俺ってそんなにふらふらしてる

か?」

「あの女狐と同じと言うのは気に入らんが……、別段衛宮がふらふらして

いる訳ではない。何と言うか、完成したパズルのピースが1つはずれてし

まった感じがするのだ」

その言葉に、士郎はますます不思議な顔をする。実際、一成の言葉は見事

に的を射ていた。だが、士郎には分からなかったらしい。

「で、結局何が言いたいんだ?」

「……では聞こう。衛宮、セイバーさんはどうした?」

「………故郷のブリテンに帰ったよ」

セイバーと言う言葉を聞いた士郎は一瞬顔を歪めたが、すぐに笑顔で答え

を言った。それを見て一成は、「やはり、そうか」と心で呟く。

「衛宮。お前、セイバーさんの事が好きだったんだろう?」

「あぁ。好きだ。俺はセイバーを愛してる」

そう、躊躇いも無く士郎は言い切った。

「ならば、何故引き止めなかった? 好きな人と共にありたいと思うのは

当然の理だろう」

「……彼女には帰るべき場所がある。それを無理に引き止める事は出来な

いさ」

目を逸らし、呟く。

「衛宮、お前はそれで平気なのか?」

「本音を言えば、悲しい。セイバーに会いたい。セイバーの声を聞きたい。

セイバーを抱きしめたい」

「ならば……」

「でも、そんなんじゃ駄目だ。言ったろ? 俺は『正義の味方』になるん

だって。泣き言は言えないさ」

そうして、1度言葉を切り――


「それに、未練なんてきっと無いさ。いつか声も、姿も、どんな奴だった

かも忘れるかもしれない。けど、俺はセイバーって言う1人の女の子を好

きになった。それだけで十分さ」


本当に何の影も無い、綺麗な笑顔を見せた。一成はそれを見て、「あぁ、

衛宮は本当に強い男だ」と小さく呟いた。

「そうか……。すまん、要らぬお節介だったようだな」

「そうでもないさ。ありがとう一成。お前が親友で良かった」

そう言われ、一成は赤面する。

「世辞はよせ。俺こそ、お前が友人で良かったと心から思う」

喝、とそう言い残し一成は生徒会室を後にした。



「たくっ、やっぱりセイバーが1番の強敵ね……」

口調は苦々しいが、表情は嬉しそうだ。

「安心なさい、セイバー。士郎はちゃんとあなたを愛してるわよ」

教室の窓から赤くなり始めた空を見上げ、凛は呟く。そこには、静かに微

笑むセイバーの姿が凛には見えた気がした。



ただ、そのすぐ横には士郎が作ったと思しきご飯が置いてあるのは本当に

気のせいだと凛は思いたい。




「ただいまー」

「あ、お帰り〜シロウ。もう遅いわよ〜、桜がご飯作っちゃったわ」

「そうか。桜には悪い事をしたな」

「それは無いわね。桜、シロウより先にご飯を作る事に生き甲斐を感じて

るから」

家に帰ると、聖杯戦争時バーサーカーのマスターだったイリヤスフィール

・フォン・アインツベルンが士郎を迎えた。イリヤの愛称で呼ばれる彼女

は、今は藤村大河の家に居候している。

「遠坂は?」

「リンならまだ帰ってないわよ」

そりゃそうだろう。彼女は士郎と同じ場所にいたのだから。

「ただいま」

「おかえりなさい、リン。遅かったわね」

「ちょっと途中で綾子と会ってね」

実の所、士郎と一成の会話を盗み聞きしていたのだがそんな事を微塵にも

感じさせない。見事な擬態である。

「じゃあ、俺は着替えてくるから」

「えぇ。桜〜、食器並べるの手伝うわ〜!」

お願いしますー、と居間から声が聞こえる。こらー、私の仕事を取るなー

とイリヤが凛の後を追いかける。それを見届け、士郎は自室へと向かう。

「ふぅ」

制服から私服に着替え、一息をつく。

「……アルトリア」

セイバーの真名を呟く。アルトリア・ペンドラゴン。それがアーサー王にな

る前のセイバーの本当の名だ。

「俺は正義の味方になれるのか……?」

何も無い虚空を見つめ、思いを馳せる。そこに映し出されるのは凛のサー

ヴァントだったアーチャー。気に食わない奴だったが、あいつの強さは憧

れる物があった。あいつが振るった2振りの剣、陽剣『干将』・陰剣『莫耶』。

「俺にあいつぐらいの強さがあったら……」

                                   カ リ バ ー
寝転がり、目を閉じる。浮かび上がるのは数々の宝具。『勝利すべき黄金

 ン    エ ク ス カ リ バ ー    ゲ イ ボ ル ク     カラドボルグ
の剣』、『約束された勝利の剣』、『刺し穿つ死棘の槍』、『偽・螺旋剣』、

 グラム          ア ヴ ァ ロ ン
『太陽剣』、そして……『全て遠き理想郷』。

「……」

目を開ける。そこには見慣れた自室の天井。

トレース
「投影…」

「シロウ〜!! ご飯冷めるわよ〜!」

スイッチ・オフ。魔術回路封鎖。投影設計図破棄。

「……あぁ! 今行く!」

頭の中の解析図を消し、立ち上がる。居間からは美味しそうな匂いが漂って

くる。きっと士郎の姉代わりの藤村大河も食卓につき、今か今かと食事の開

始を待ちわびているだろう。

「…言うなら今日しかないか」

聖杯戦争が終わってからずっと考えてきた事を今日みんなに言おう。そう士

郎は決意する。

「士郎、遅いわよ」

「先輩、ご飯冷めちゃいますよ」

「レディを待たせるなんて紳士として駄目よシロウ」

「おそ〜い! お姉ちゃんの待たせるなんて許さないんだからぁ!」

凛、桜、イリヤ、大河。士郎の家族。護るべき大切な人達。みんなを護る為

に、士郎は正義の味方への1歩を踏み出す。

「みんな、話があるんだ」


プロローグ?



神薙祐樹と衛宮士郎氏の対談

祐樹「初短編終了」

士郎「で、何で俺はここにいるんだ?」

祐樹「主役との対談は作者としての義務なのだ」

士郎「…そうか。で、何を話すんだ?」

祐樹「生前の切嗣は日頃どんな生活を送っていたか」

士郎「家での親父? ……料理は言うに及ばず、食事はファーストフード

や出前ばっかで済ませて、洗濯出来ない片付けしない自堕落街道ま

っしぐらって感じだった」

祐樹「ほうほう。魔術師モードの切嗣氏とは違った訳ですな?」

士郎「そりゃもう、月とすっぽん。桜と遠坂ぐらいの差がある」

祐樹「そこまで言うか……」

士郎「今なら投影使えるけど、もしあの時投影が使えたら何度か剣で貫い

   てたな」

祐樹「そ、そこまで?」

士郎「うん(きっぱり)」

祐樹「余程生活能力が無かったのか……(汗)。士郎も大変だったんだな」

士郎「でも、俺にとって親父は大切な人だから。藤ねぇも、桜も、遠坂も、

   イリヤも、一成も、そしてセイバーも」

祐樹「……では、今回の対談はこの辺で終わりにしよう」

士郎「何で目が潤んでるんだ?」

祐樹「いや、ちょっと感動してな。もしこの続きが見たいと言う人がいれ

   ば一報を。出来るだけ執筆しますので」

士郎「じゃあ、俺行くから」

祐樹「あぁ。頑張れよ。あ、ちょっと待て」

士郎「ん?」

祐樹「最後にしめるぞ」

士郎「分かった」

2人「では、皆様方。どうもありがとうございました」

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送