「好きだっ！」


俺は一人の少女の目の前でそう言った。
どうしてこうなったのかは、よく分かっていない。


「……ごめんなさい。」


彼女はそう言った。つまり、断っていた。
解りきっていたことではあったが、さすがに心がちくちくと痛んでくる。


「ごめんなさい、北川君……」


悲しげな顔のままで、彼女は立ち去っていった。


「謝るなよ……結構、惨めになってくるからさ……」


誰にも聞こえない言葉が空に流れて、消えていった。

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北川BirthdaySS
Brandnew Days

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事の発端は一週間前、相沢と斉藤が俺の家に遊びに来たことが発端となる。









「なぁ、北川〜」
「なんだよ。」
「好きな奴って居る？」


その時俺は固まった。
あんまりふれて欲しくない所をふれられてしまったからだった。


「何言ってんだよ、斉藤。北川は――」


相沢は俺の方を見ていた。それは“言ってもいいのか？”と伝える顔。


「ハァ……」


返答はため息。相沢にはそれで十分だと解っていた。“勝手にしろ”と言うメッセージを伝えたものを。
しかし、そんなにばれているのか。


「あ〜……北川に了承を貰ったから言うぞ。」
「貰ったのか？」
「気にするな斉藤。お前じゃ解らない方法だ。」
「そ、そうか……」


相沢の言葉にたじろぐ斉藤。
どうせならそのまま聞くのをやめて欲しいが……無理か。


「じゃあ、言うぞ？」
「ああ。」
「北川が好きなのは……香里だ。」


ああ、言われてしまった……やっぱりやめさせときゃよかったかな……


「……あ、やっぱり。」
「何がやっぱりだよ、思いっきり固まってたじゃないか。」
「アハハハハハ……」


変な笑い方するなよ。気づいてなかったのバレバレだぞ。


「じゃあ北川、何で告白しないんだ？」
「え゛？」
「そーいやそうだな。何で告白しないんだ？　そこそこ仲いいだろ。」


相沢よ……お前がそれを言うか、お前が！
美坂は相沢のことが好きだから友達以上になれねーんだよ。


「……友達のままでもいいかな〜と。」
「「……愚図だな。」」


斉藤はまだしもハーレム状態の相沢にだけは言われたくない言葉だ、それ。


「好きなら好きと言っちゃえばいいじゃん。」
「男は度胸だぞ、北川。」


こいつら美坂が誰のことを好きか分かってないからそんなこと言えるんだぞ。
ついでに言うとお前等にそんなこと言われるとよけいにむかつく。


「俺は好きな奴居るけどな」
「「……なにぃ！？」」


俺と斉藤の声がユニゾンした。
無理もない。相沢は総勢８人からすかれているって言う変な奴だからだ。


「誰なんだ？」
「え〜っと、この前告白してきた一つ下の子……」


そう言えばそんな子居たっけ。
しかし、あの８人から選ばないとは……後で修羅場だな。


「さ、斉藤は居ないのか？」
「お、俺か？　俺は……とりあえず今のところ居ないかなぁ。」
「何だ、つまんねぇなぁ。」


相沢、不謹慎だって。
と言いつつも俺も少しがっかりしてるのだが。


「よし、北川。俺その子に告白するからお前も香里に告白しろよ。」
「おひ、何時の間にそんなことになってんだよ。」
「今さっきだ！」


頭痛てぇ……なんかおかしいぞ、今日。
相沢だってここまで変な性格……ってなんか顔赤くないか？


「ん？　あ〜！　酒飲んだのか、お前等！」
「缶ビールだって。なぁ、斉藤。」
「ああ。」


そーゆー問題かよ……くそ。二人とも酒癖悪いっつうの！


「ほれ、北川も飲め！」
「ちょ、ちょっと待て！　俺下戸……！」


その後なし崩し的に告白することになってしまったんだよなぁ……
俺って結構不幸なのかなぁ……









そんなわけで、こんな状態になっているわけで。
立ちつくした俺の後ろに斉藤が立っているのが分かった。


「残念だったな……まあ、いい女は他にもいるさ。」


本当に労って言葉を言ってくれていた。
相沢は……あまり言葉に言い表せないことになっているので言わないでおく。


「憂さ晴らしにどっか行こうぜ。パーッとさ。」
「ああ、そうだな。」


そうして俺たちは歩き出した。目的地なんてどこにもないけれど。


「さて、どこに行く？」
「出来れば静かなところがいいけどなぁ……」
「よっぽど参ってんな、おい。」


あぁ、そうかもしんない。
断られたことに対してよりも謝られたことに関してのことがキツイと思う。


「静かなところか……ものみの丘？」
「あぁ、いいかもな。」


呟いた俺に斉藤はため息をついた。
まあ無理もない。俺だって隣にこんなへこんだ奴が居たらため息の一つもつきたくなるだろう。


「しょうがない、ちょっと来いよ。」


斉藤は俺に向かってそう言い、歩き出した。


「どこ行くんだよ？」
「とっておきの場所だよ。今まで誰にも言ったことのない、な。」


その後はどんなに訊いても答えようとしなかったため、俺はそのまま斉藤について行った。









「……学校じゃん。」
「おう。ここが俺のとっておきの場所……がある場所だ。」


斉藤について行ったら俺たちの通う高校にたどり着いた。
斉藤のとっておきの場所とか言うから少しは期待してたのだが。


「そんな顔してないで行こうぜ。」


憮然とした顔を隠さずに俺は斉藤の後をついて行く。
一階、二階……階段を昇り、階段の途中で止まる。


「ここだ。」
「踊り場じゃねぇか。」
「……おい、この先だよ。」
「屋上か？」
「その通りだ。」


しかし、奥の上への扉って鍵かかってるはずじゃ……？


「俺はピッキングなんて出来ないぞ。」
「気にすんな、俺が出来る。」


すると斉藤は手慣れたようにヘアピンを二本取り出し、１０秒もかからないで鍵を開けてしまった。


「…………」
「どうした？」
「いや、お前何もんなのかなぁ、って……」


俺の疑問を斉藤が気にするなと言っていたのでとりあえず気にしないでおくことにした。
後でピッキング犯罪があったら真っ先にこいつを警察に届けようと心に決めながら。


「で、ここに何があるんだ？」
「これがあるんだ。」


斉藤は一方向に指を指して俺の視点をそっちに向けた。


「いい夕焼けだろ？　今日みたいな快晴の日にしか見れない代物なんだ。」
「ああ、確かにな……」
「感謝しろよ？　俺以外の最初は初恋の女に見せようと思ってたのをお前に見せたんだからな。」


太陽が沈む様を見て、俺はなんだか涙が出てくるような気がしていた。


「断られたことは悲しくないんだ。分かっていたことだから。」
「あん？」
「悲しかったのは……謝られたことなんだよ。」


気がしていた……じゃない。すでに俺の両目からは涙が流れていた。


「美坂にも俺にも謝る理由はない。だから、謝る言葉なんてあるはずがないんだ。」
「北川……」
「何で謝ったんだ！　俺にはわかんねぇよ！」


何にも遮られることなく、俺の絶叫が響き渡る。
斉藤でさえも口を挟めない。


「俺が惨めになるだけだってのに！」
「知ってたからだろ。」


俺の後ろから斉藤ではないもう一人の声が聞こえた。
聞き覚えのあるその声は……


「お前の思いを香里が気づいてなかったと思うのか？」
「相沢……？」
「香里は気づいていたからこそ、お前に謝ったんだ。」


相沢は後ろ手に屋上の扉を閉めた。


「香里からの伝言だ。『新しい恋、見つけてね。』だそうだ。」
「……当分、無理そうだな。」
「時間かかってもいいだろ。今すぐ終わる人生じゃあるまいし。」
「そうだな……」


時間がかかってもいいろう、今すぐ死ぬわけじゃない。
そう、失恋は何回だってあることだ。


「初恋は実らないっていうしな。」
「初恋だったのか？」
「……いや、３度目だな。」
「じゃあ意味ないな。」


斉藤の軽口と共に俺は相沢の方へと向く。


「ところで相沢、どれだけ殴られた？」
「……全員に泣かれた挙げ句、名雪に数回蹴られて舞に十数回殴られた。他にも色々。」
「自業自得だな。」
「全くだ。」


傷や痣が数ヵ所ある顔で相沢は笑った。
やっと元に戻ってきたような気がする。いつもの馬鹿ばっかりやっている俺たちに。









「美坂〜、この問題教えてくれよ〜」
「しょうがないわね。この貸しは高いわよ？」


あれから俺たちの関係は変わらなかった。いや、変わる必要なんて無かった。
“友達”という関係を強固にしただけだったから。だから変わらなかった。


「おい北川〜。」
「どうした相沢？」
「そんな放課後になってまで必死に勉強するなよ。お前のキャラじゃないぞ。」
「よけいなお世話だ。お前もちっとは勉強しろよ。」
「言いやがるな……」


顔を顰めて悔しそうな感じの相沢。
だが、いきなりその顔を１８０°変貌させて笑顔でこっちを見る。


「っつ〜わけで、香里。こいつ借りるぞ。」
「どういう訳なのかは知らないけど、いいわよ。」
「おいこら、ちょっと待て。俺は勉強中……！」


俺の反論も無視して相沢は俺のことを教室から連れ出していく。


「何があるんだよ？」
「まあ、気にするな。」


それから何度も訊いてみる物の、何も教えてくれそうにないので俺もそれからは口を閉じて相沢の後をついて行った。


「あ、居た居た。お〜い、鈴菜〜」


先の方にいた女の子の方に手を振った。
確か名前は“藤原鈴菜(れいな)”。あの八人を差し置いて相沢の正彼女の位置を奪取した子だ。
だが、その隣にももう一人女の子が居るのだが……？


「おい、相沢。のろけるために俺を呼んだんじゃないだろうな。」
「なわけあるか。用事があるのはあの女の子だよ。」


ん？　それはどういう意味……


「っつ〜わけで、後はヨロシクやってくれ。」
「北川先輩。さよならです。」


と訊こうとした瞬間に相沢と鈴菜ちゃんは逃げるように去っていってしまった。
最後に鈴菜ちゃんが『頑張ってね、和葉』と言っていたが……


「あっ、あの、北川先輩ですよね。」
「え？　ああ。間違いなく北川潤だけど。君は？」
「あ、わ、私は御山和葉と言います！」


なんだか和葉ちゃんは俺の目の前で顔を真っ赤にしてもじもじしてる。
なんとな〜く、何の用事か分かってきたけど……


「えっと……北川先輩は、好きな人って居ますか？」
「あ〜……“居た”かな。先日ふられたけど。」


俺がそう言うと和葉ちゃんは目に見えて喜びの色を浮かべていた。


「良かった……」
「え〜と、とりあえず何のようかな？」
「あっ、す、すいません！」


用事なんてだいたい分かっていたけど、とりあえず分からないふりをしておく。
それがマナーだと思うから。


「えっと……き、北川先輩。」
「はい？」


四月。
別れと、出会いが混同する季節。


「一目見たときから、好きになりました。」


俺は、一つの思いとの別れがあって……また一つの思いと出会った。


「付き合ってください！　お願いします！」


さあ、俺も歩きだそう。
今まで考えたこともなかった新たなる未来(アシタ)へと。


「俺は――」


Ｆｉｎ

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後書いたら面白い（？）

つ〜わけで、あんまり知られていない４／１８の北川の誕生日SSでした。

テーマはタイトルの意味通り“真新しい日々”。

北川の一つの気持ち（日々）の終わりと、新しい気持ち（日々）の始まりをイメージして。

最後の北川の返答がないのはただ単にご愛敬。

ちなみに北川まで書いた理由は訊かない方がいいかも。（汗


次の誕生日は５／５の倉田の佐祐理さんですね。実は８０％出来ていたりして……（汗

と言う訳なので、それまではHellhellに専念できるかと……


それでは、いつもの恒例。

「北川！　誕生日おめでとう！」

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