相沢祐一の衝撃の転校から数日がたった。

その数日の間に祐一は全校生徒の間で知らぬ者は居ないほどに有名になっている。

理由は簡単、今まで数々の漢達が文字どおり特攻して玉砕していった、美坂姉妹。

言ってみれば、難攻不落の要塞である。

その要塞が転校生に一瞬で攻略されてしまったのだ。

しかも、二人同時に。

噂になって、当然である。



「ここは…来た事があるな…」



祐一は放課後、一人で街の地理の把握に勤しんでいた。

きっと、昔を懐かしみながら歩いているのだろう。



「………五分前に」



訂正。

迷子になっていた。

七年ぶりの街なので、仕方ないと言えば仕方ないが。



「こっちにも道があるな」



一方通行の細い道を進む祐一。

すると、その道沿いに小さな公園があった。

そこには小さな女の子が二人居る。



「………はわたしのだって!!」

「アタシの!!! これだけは渡さないよ!!!」



どうやら、喧嘩をしているようだ。

顔を真っ赤にして、言い争いをしている。



(仕方ない。 止めてやるか)



祐一は公園の中に入って行く。



「喧嘩は駄目だぞ。 喧嘩は」



優しく笑いかけながら、二人の少女に話しかける祐一。



「……誰?」

「不審者ですか?」

「………」



二人の少女は祐一を不審者と判断した。

祐一はショックを受けているようだが、案外正しい判断かもしれない。



「君たちが喧嘩していたから、止めに来たんだ」

「あ、そうだったんだ」

「ふ〜ん」



簡単に祐一の言葉を信じる少女達。

所詮、まだ子供という事か。



「で、なんで喧嘩してたんだ?」

「お姉ちゃんが、わたしのパパを取るんだ」

「パパはアタシのだってば!!」

(父親の奪い合いか。 この頃の女の子は母親より、父親になつくしな)



再び真っ赤になって喧嘩を始めた少女達。



「喧嘩するなって。 君達双子だろ? なら平等に愛してくれるさ」



かなり適当な祐一の発言。

その言葉に少女達は悲しそうな顔をして。



「わたし達、双子じゃないよ」

「あれ? 年齢は同じ位だと思ったんだが」



祐一の言うとおり、二人の少女の身長はほぼ同じ。

年齢も同じぐらいだろう。



「アタシ達、生まれた日は同じなんだけど、双子ではないの」

(あれ? じゃあ、どちらかが養子か? でも、養子にしてはそっくりだし…)



確かに二人の少女は瓜二つとまではいかないが、よく似ている。

普通に考えれば、二人は双子と判断するだろう。

祐一は難しい顔をして黙ってしまった。

簡単に言えば混乱してるのだ。



「わたし達、ママ達が姉妹で、同じ日に産まれたんだ。 でも、お父さんは同じ人」

「えっ!!?」

「海!!!」



祐一と、もう一人の少女が声を上げたのはほぼ同時だった。

海と呼ばれた少女――――先程の会話で推測すると妹だろう――――が発した言葉にはかなり衝撃だった。



「大丈夫だよ。 この人は信頼できるよ」

「でも、会ったばかりなのに…」



自らの出生の秘密をばらした空に不満を漏らす姉。

一方、祐一はというと…。



(つまり、姉妹丼した上でダブルストライクって事か!!!)



微妙にずれた事を考えていた。



「でも、どうして父親の取り合いなんか始めたんだ?」

「アタシ達のパパ、ずっとこの街に居なかったの。 だから、アタシ達はパパの顔を知らない。 でも、ママ達の話を聞くと凄くカッコいい人なの」

「だからわたし達、パパに本当のパパになって欲しい」

「本当のパパ?」

「パパとママが結婚すれば、本当のパパになってくれる。 でも、ママが日本では二人も結婚できないって」

「あ…」



そう、日本では一夫多妻制は認められていない。

さらに、どちらかの母親と結婚すれば、もう一方の親子はどうするかも問題だ。



「ママ達はそんな事はどうでもいいって言ってるけど、それは表向き…。 本心では…」

「姉妹を蹴落としても…か」



海の言葉に考え込む祐一。



「ええ。 その内、戦争が勃発するわね」

「難しい問題だな…。 って、もうこんな時間か」



辺りは薄暗くなってきている。

時計を見ながら、少し驚く祐一。

自分でも気がつかない内に、時間がたっていたようだ。



「えっと、妹の海ちゃんと、姉の…」

「空です」



自分の名前を祐一に告げる姉の空。



「分かった。 海ちゃんと空ちゃん。 もう遅いから家に帰ろう? 送っていくよ」

「大丈夫だよ。 わたし達の家はそこだから」



海が指差したのは公園のすぐ前にある家。

すると、その家から二人の女性が出てきた。



「海ー。 空ー。 家に入りなさーい」

「ご飯ですよー」

「「はーい」」



二人の言葉に仲良く返事をする海と空。

ただ、祐一は硬直していた。

祐一の姿を見た二人の女性も同じく硬直している。



「香里と栞!?」

「ゆ、ゆうくん!?」

「えぅ?? なんで海と空と一緒に居るんですか?」



三人は一斉に言葉を発した。

それを見て、不思議そうな顔をしている空と海。



「マ……お姉ちゃん達は知り合いなの?」



話しかけてきたのは、空。

香里と栞は困った顔をしている。



「……お兄さん、名前は何?」

「俺は相沢祐一だよ」

「相沢…」

「祐一…」

「「パパぁ!!!」」

「な、なんだぁ!?」



突然祐一に抱きつく空と海。



「パパぁ〜」

「パパが来てくれたよぉ…」

「何故に我が幼女に懐にパパと香里と申し上げる!!?」



支離滅裂だが、何となくは意味が判る。

何となくだが。



「祐一さん、混乱するのも分かりますが、話は家の中で…」

「うぅ…」

「パパぁ…」



香里と栞は泣いている空と海を祐一から引き離すと、家の中に押し込んだ。

ちなみに、この際抵抗する空と海が、離そうとする香里と栞と喧嘩したのは言うまでもない。










「あ〜取り合えず、説明してくれるか?」



先程の混乱は何処へやら?

祐一は落ち着いていた。



「あ、あのね。 ゆうくん、実は…その…栞、説明お願い」

「えぅ? あのですね、お兄ちゃん、その〜えっと…」



口篭る香里と栞。

二人に対する助け舟は子供からきた。



「言えないなら、わたしが言おっか?」

「えっと…お願い」

「ママもそれでいい?」



頷く栞。



「あのね。 祐一さんは私達のパパで、私達のママはそこに居る二人」



そう言いながら、香里と栞を指差す海。



「………やっぱりか」



先程の会話から想像したのだろう。



「だから、よろしくね。 パパ」

「いや、だがな。 子供が出来るような事は…」

「ゆうくん…まさか覚えてないの?」

「お兄ちゃん酷いです…」



涙を浮べる二人。

空と海に続き、香里と栞も泣かすとは…やはり相沢祐一は鬼畜だ。



「いや、別れの時だろ? でも、俺はまだ小学二年で…」

「ギネス記録は8歳で子供を産んだ記録が残ってます」



あっさり祐一の疑問を打ち破った栞。

この場合、疑問というより希望かもしれない。



「……じゃあ、本当に俺の子供?」

「ゆうくん…ごめんなさい。 勝手に産んだりして」

「でも、私達はお兄ちゃんの子供が欲しくて…。 もし堕ろしたら、お兄ちゃんともう会えないような気がして…」

「別に怒ってないぞ。 少し驚いたけどな」

「ゆうくん…」

「これから頑張っていこう」

「うん…」

「はい…」



優しく笑いかけながら、二人を抱きしめる祐一。

それを見せられてる子供達はたまったものじゃない。



「子供の前で何やってるのよ…」

「だてに子供は作ってないね〜」



その言葉で我に返ったのか、二人は祐一から離れた。

顔は真っ赤だ。



「で、パパはどっちと結婚するの?」

「「「えっ?」」」

「えっ? じゃないでしょーが。 ママ達は結婚したくないの?」



その言葉に無言で自分以外の奥さん候補を見る香里と栞。

例えるなら、獣の睨み合いが近い。



「………」

「………」



数十秒、誰も何も言わなかった。

そして、香里がそっと語りだす。



「栞」

「何ですか? お姉ちゃん」

「ゆうくんは、あたしのだからね」

「違います!! お兄ちゃんは私と海のモノです!!」



香里の言葉に激怒する栞。



「さすがママ!! よく言った!!」

「栞叔母さんも海も勘違いしているようね。 パパはアタシとママのモノよ」

「おい、喧嘩は…」



喧嘩を止めようとする祐一。



「誰のせいで喧嘩してると思ってるのですか!!」

「うっ」



祐一は痛い所を栞につかれた。

喧嘩の原因は他の誰でもない、祐一だ。



「それとも今、決めれる? あたしと空か…」

「私と海か…」



息ぴったりの美坂姉妹(親)。



「お兄ちゃん!」

「ゆうくん!」

「「パパ!!」」



祐一を睨みながら、声をあげる二組の姉妹。



「はははは…」



乾いた笑いで何とか誤魔化そうしても無駄だ。

祐一の運命は既に決まっていると言っても過言ではない。

つまり、あれだ。

祐一が二組の姉妹の骨肉の争いに巻き込まれるのは、ほぼ確実な訳だ。

一体この争いの決着はどうなるか。

その答えは当分出そうにない。

















後書きっぽい雑談

キャラの判別が出来ないって言わないで下さい(挨拶
取り合えず、姉の空の一人称は「アタシ」で原作の香里っぽい喋り方。
妹の海は、一人称が「わたし」でさっぱりした喋り方。
あとは気合で判別して下さい(マテ

このSSは電撃文庫のDADDY FACEを参考にしていたりします。


















「「ただいまー」」

「あ、お爺ちゃんとお婆ちゃんが帰って来たみたいだね」



海が嬉しそうに栞と香里に言う。

祐一は不思議そうに海に尋ねる。



「お爺ちゃんとお婆ちゃん?」

「私達の両親ですよ」

「………」



返答は栞からだった。

そして、それは祐一にとって死刑宣告だった。



(今日は本当に色々ある日だな〜)



人は祐一の現在の思想を現実逃避と言う。

そして、幾ら頭の中で逃げたとしても、現実では時間は進む訳で。

祐一が現実逃避をしている間に香里と栞の両親が部屋に入ってきた。



「うん? 君は誰だい?」



一言でいうと、いい身体。

さらに言えば、マッチョ。

そんな身体のおじさんが話しかけてくる。



「あのですね。 私、名を相沢祐一と申しまして…」

「相沢祐一だとっ!!」

「………」



相沢祐一17歳。

非常にピンチである。











翌日の放課後、香里と名雪が教室の片隅で話をしている。

周りには人は居ない。

祐一は栞、空、海とアイス巡りの旅に出ている。



「香里、今まで香里と栞ちゃんが告白を断り続けてきた理由は…」

「決まってるでしょ?」



分かりきった常識問題を出題されたように、香里は名雪の質問を肯定する。

そして、さらに一言。



「あたしも栞も…ゆうくんに売却済みよ。 心も身体もね」



なお、この言葉は天然娘名雪によって、数日で全校生徒が知ることになる。





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