季節は夏。

街外れにある誰も居ない静かな森。

そこが子供達の遊び場だった。



「大丈夫。 また来るから」



小学生の低学年位だろうか?

一人の少年が別れの挨拶をする。

夏休みにこの街に来ていた少年は家に帰る事になった。



「ううん。 もう会えないの」



少年と同じ位の年齢の二人の少女の一人が答える。

涙を目に一杯に溜めながら。



「ど…どうして?」



驚き、聞き返す少年。



「私達、アメリカに引っ越す事になったんです…」



今度はもう一人の少女が悲しげに答える。

少女の目からは、既に涙がこぼれ落ちていた。



「そんな…」

「だから、もう会えない…」



幼い子供達はそこで話しを止めた。

ただ、ずっと立ち尽くしていた。

一体どれだけの時間、そうしていただろうか。

静かな森はいつも以上に静かだった。

その静かな空間のなかで、少女達は勇気を振り絞って再び言葉を少年に投げ掛ける。



「ずっと言おうと思って事…言うね」

「私も言いたい事があります」

「え?」



自らも泣きそうな顔をした少年に、少女達は気持ちを伝える。

夕焼け色に染まった空…そして少女達は、幼い少女だという事を忘れさせる程美しかった。



「あたしは…ゆうくんの事が好き」

「私もお兄ちゃんの事が好きです」

「僕も二人の事、好きだよ」



少年は即答した。

例え、その答えが自らを苦しめる事だとしても、少年は自らの気持ちに素直に答える。

次の瞬間、二人の少女は少年を押した。



「わっ」



地面に倒れこむ子供達。

次の瞬間、二人の少女は交互に…少年の唇と自らの唇をあわせた。



「お兄ちゃん、思い出…下さい」

「あたしも…」

「二人とも、僕でいいの?」



コクンと頷く二人の少女。

言葉など要らなかった。

お互いの瞳が全てを語っている。

僅かばかりの知識を使い、幼い三人の子供達はその身を重ねた。

もう会う事のない、愛しいヒトとの思い出として。











〜Two sisters〜











「この寒さは異常だ!! 名雪、お前の仕業か!?」

「違うよ〜」



あまりの寒さに従姉妹兼同居人の水瀬名雪に滅茶苦茶な事を言ってる一人の青年。

彼は親の都合で、七年ぶりにこの雪の街に帰ってきた。

今日が転校初日である。

彼の名は相沢祐一、又の名を鬼畜。

………。

………誤解されないように訂正しておく。

別に彼は女を日替わりで連れていたり、ハーレムを築いていた訳ではない。

なら彼はなぜ鬼畜か?

理由は8年前の夏、とある姉妹を森で抱いてしまったのだ。

十分に鬼畜に値すると思われる。



「香里、栞ちゃん、おはよ〜」



校門の前で名雪は親友の美坂香里と、その妹の美坂栞に挨拶をする。



「あ、名雪、おはよ」

「おはようございます。 名雪さん」

「香里…栞…」

「え? あなた、誰?」



いきなり知らない男子生徒に名前を呼ばれ、警戒する美坂姉妹。



「私の従兄弟だよ」

「ああ、電話で話していた…」



香里の問いに答える名雪。



「君達は姉妹なのか? 名字はなんていうんだ?」



祐一は真剣な顔で姉妹の事に尋ねる。

そう、祐一は彼女達の名前に聞き覚えがあったのだ。



「え?ええ、姉妹よ。 あと、名字は美坂よ」

「もしかして、アメリカに住んでいた事あるか?」



更に詳しく尋ねる祐一。

傍から見ていれば祐一は不審者以外の何者でもない。



「なんで、そんな事知ってるのよ?」

「何処かでお会いしましたか?」



祐一は小さく笑い、そして自らの名前を明かす。



「俺の名前は相沢祐一。 思い出したかな?」



祐一の言葉に驚く香里と栞。

名雪は一人、不思議そうな顔をしてる。



「え…まさか…」

「お兄ちゃん…ですか?」



別れのあの時のように、涙を浮かべる二人。



「そうだ。 二人共、いつ戻って来たんだ?」

「ゆうくん!!!」

「お兄ちゃん!!!」

「おっと」



二人は祐一に抱きついた。

祐一は少しよろけながらも、二人を受け止める。

そして…二人の耳元に静かに話しかける。

強く、強く抱き締めながら。



「ただいま」

「うぅ、うぅ…」

「お、にい、ちゃ、…」



二人はただ泣き続ける。

そんな二人を祐一はずっと抱締めていた。



「わたし、もしかして邪魔?」



そして名雪は忘れ去られてるのであった。











祐一が担任教師に連れられてクラスに入ると、名雪と香里がいた。

知っている人間が二人もおり、安心する祐一。

しかし、すぐに異変がおきる。



「相沢、自己紹介しろ」

「は、はじめまして、相沢祐一です」



じとー。



「よ、よろしくお願いします」



じとー。



「……」



じとー。



「どうした、相沢。 緊張しているのか?」



緊張ではない。

クラスの…特に男子生徒の雰囲気がヤバイのだ。

原因は当然、大勢の生徒が居る前で美坂姉妹を抱きしめたことによる。



「相沢は緊張しているようだが、俺は生徒想いだからな。 一限目を自習にしてやる」

「「「よしっ!!!」」」

(……死んだ、俺は死んだよ)



見事に空気を読んだ(?)担任教師。

一つの目的に結束した男子生徒一同。

そして、死を覚悟した祐一。

この後、質問タイムという名の拷問が待っていたというのは、言うまでもない。











昼休みになり、再び男子生徒に取り囲まれそうになった祐一。

だが、香里の『ゆうくん、学食にいきましょう』で戦線を脱する事に成功した。



「お兄ちゃん、何を食べますか?」

「ゆうくん、カレーがお勧めよ」

「えぅ〜、辛いものは人類の敵です」

「……」



学食に着くと、栞が二人に合流した。

ここでまたも問題が発生した。

学食には当然多くの男子生徒がおり、そこには当然美坂姉妹に一方的な感情を抱いている男もいる。

その男から言えば、学食に現れた女神達が男をつれており…しかも、『ゆうくん』『お兄ちゃん』と呼んでいる。

奴か、朝に美坂姉妹をいきなり襲った転校生というのは(微妙に間違いあり)。

そんな訳で相沢祐一、ここでも男子生徒に睨まれる事になる。











昼食を持って、テーブルにつく三人。

祐一は買ってきた昼食を食べる前に、美坂姉妹に提案をする。

ちなみに、三人ともコロッケ定食。



「香里、栞…ゆうくんとお兄ちゃんは止めてくれないか?」

「嫌よ」

「嫌です」



即答する美坂姉妹。

祐一としては、男子生徒をこれ以上敵に回したくない。

取りあえず、呼び方を変えてもらいのであった。



「頼むよ…このままでは、香里と栞のファンに殺される…」

「でも、今更呼び方をかえるのはね…」

「お兄ちゃんはお兄ちゃんです」



美坂姉妹にしてみれば、呼び方は祐一との一つの絆であり思い出だ。

二人は何年もの間、『ゆうくん』と『お兄ちゃん』への気持ちを変える事無く、暖め続けてきたのだから。

そう簡単には変えたくないだろう。



「なら、せめて学校ではゆうくんとお兄ちゃんは止めてくれよ」

「……仕方ないわね、学校では祐一って呼んであげる」

「え、いいんですか?お姉ちゃん」



祐一の妥協案をあっさり呑む香里。

だが、人生そんなに甘くはない。

香里は自分のコロッケを食べやすい大きさにして…。



「祐一、あ〜ん」

「ぶっ!!」



祐一にあ〜ん攻撃を開始した香里。

噴出したのは祐一だけではない。

三人の様子を観察していた、周りの生徒も噴出す。



「いや、香里…それは…」

「ゆうくん…あたしのこと…嫌い?」

「……」



不安そうな顔をして、首を小さく傾げる香里。

普段の香里ではありえないだろう。

このギャップに堕ちない男は居ない。



「……あ〜ん」



当然、祐一は堕ちる訳だが。

ここで、一つ言っておくことがある。

香里は…狙っている可能性が高い。

良くも悪くも、数年振りに再会した香里は成長しているのであった。



「むぅ〜二人だけで何楽しんでいるのですか。 私もしてあげます」



栞は自分のコロッケを割ると、祐一の口に向けて箸を運ぶ。



「いや、栞…周りも見ているし…」

「いや…ですか? お兄ちゃん…」

「……」



成長しているのは香里だけではなく、栞もだった。

結局、祐一は栞のコロッケも食べる事になり、敵をさらに増やす結果となった。











放課後、祐一はクラスの男子生徒に、男子間の友情を深めるという名目で拉致された。

だが、そこは男子生徒のノリ、少し拷問されて終わりだろう。

よって香里も笑顔で送り出した。



(本当は一緒に帰りたいんだけどね…男子とも仲良くなってもらいたいし)



香里が祐一の事を考えながら下校しようとすると、栞が近づいてきた。



「お兄……祐一さんはどこですか、お姉ちゃん」



栞は学校では祐一さんと呼ぶ事にしたようだ。

お兄ちゃんと呼びそうになり、言い直す栞。



「祐一なら、クラスの男子と遊びに行ったわよ」



正しく言うと、逝った…だろう。



「えぅ〜」



悲しそうな顔をする栞に、香里は笑顔で告げる。



「栞、大丈夫よ。 これからは…何があっても、ずっと一緒だから」



そうだ、彼らは再会したのだ。

相手への気持ちを何年も持ち、そして暖め続けて。

そうして彼らは大きくなった。

もう、何も出来ない子供とは違う。

二度と離れたくないと想い、行動すれば、一生共に過ごすことだって出来るのだから。
















後編へ

中書きっぽい雑談

何となく、改訂してみる(挨拶
えーと、改訂前からの変更点は誤字の修正、あと微妙に加筆。
後編(改訂前の中編、後編)も少しだけ加筆しています。
原作と違い、転入初日に通常授業があることは気にしないで下さい(それ以外にもっとヤバイ原作無視あるだろ)。
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