精霊と人の詩。
最終話 だから貴方は微笑んで〜いつか貴方と詠う詩の為に〜
激突。その衝撃で周りの木は痛いほど揺れている。
その大元である2人の祐一はお互いの右手を寸分も違わずに打ちつけていた。
「嬉しいぞ。この手で貴様を縊り殺す事が出来るのだからな!」
その言葉の途中で白い祐一は相手のわき腹を狙ったミドルキックを。
また同じタイミングで、黒い祐一は相手の頭部を狙ったハイキックを繰り出した。
それぞれ、頭部とわき腹の前に手を差し入れてガードする。
体制に無理が無いのは白い祐一で、一瞬だが黒い祐一よりも早く行動に移ることができた。
そのまましゃがみこみ相手の軸足を払う。仰向けに倒れる間際に黒い祐一は踵落しを白い祐一に落とす。
両腕で受け止めるが、残りの足で白い祐一は蹴り飛ばされた。
「面白い。実に面白い!!」
起き上がりながら、黒い祐一が叫ぶ。
「これで貴様を消せば、俺の念願もかなう。これほど愉快な事が有るなんて知らなかった!」
あははっと壊れたように笑う黒い祐一。真っ黒のその体に付いた雪がまるでその存在を否定しているようだ。
突然、壊れた笑いを止めて睨むように白い祐一を見る。そしてその口から紡ぎだされるのは、とある疑問だった。
「縊り殺す前に、一つ聞いてやる」
「……何?」
「何故、忘れた」
『何を』とは聞かない。何故ならその対象の事を祐一は互いに知っているから。
返答を出来ないまま、時間が経つ。諦めたようなしぐさをしてから黒い祐一は魔力を右腕に圧縮し始めた。
「ふん、答えられまい。どうせ、自身を守るためだといいたいのだろう」
「ちが「何が違う!」」
断罪するような声。その声の直後に黒い祐一は白い祐一に拳を振り上げて殴りかかっていた。
「何が違う! 貴様は自らの罪を忘れ、誓いを忘れ、自らを騙していたではないか!」
その拳は白い祐一の頬を捉えている。ガードを入れれる隙はいくらでもあった。
しかし、白い祐一は何もせずにその一撃を受け入れるように殴られた。
「俺は忘れない……あの悲しみを! この怒りを!」
そのまま、黒い祐一は馬乗りになり、拳を振り上げる。
「一番許せないのは!自分自身!」
「……そうだね」
二度三度と殴りつけていく。
「何故だ!何故俺が!貴様さえ居なければ!この俺さえ居なければこんなに苦しくなかった!」
「…そうだね」
互いに目に涙を溜めて殴り殴られ続ける。一人は自分の不甲斐なさと怒りで、一人は自分の不甲斐なさと悲しみで。
「嫌いなら近づかなければ良い!しかし、俺らは表であり裏だ。そんな事は出来ない……」
「そうだね」
思いっきり振り上げた右腕。
「だから、ここで終わりにしてやる!貴様も俺も!」
「ごめんね……それは出来ないんだ。」
今まで何もしなかった白い祐一が馬乗りになっていた黒い祐一を自分の腹の上から弾き飛ばす。
白い祐一は体がぼろぼろ。鎧はひしゃげて変形しているし、体のいたるところに青あざが出来てる。
鎧は自らの意志をもって元に戻っているが、その治る時間が遅い。
一方の黒い祐一にはダメージがあまり無いように見える。
ただ、すべてが黒いために良く判らないというのが本当の所かもしれない。
白い祐一が、黒い祐一を見据えて声を発した。
「だって、みんなが待ってるもの。だから自分だけが後ろを見てうじうじしている訳には……いかない!」
「なら、それを見せてみろ! それごと消し去ってやる!」
空気が変った。お互いが互いを認めない雰囲気。空気がチリチリと帯電したような感覚。
もしこの空気が熱を帯びたのなら一斉に周りの雪は溶けてそこだけ夏のようになるだろう。
じりじりと互いに距離を詰める。同じ体、同じ経験を共有しているなら、得意な技も殆ど同じだ。
互いにその事は理解している。だから、互いに警戒するべき点は知っている。
注意深く、そして大胆に距離を詰めていく。
「悲しみはね……悲しむだけにあるだけじゃないんだ。それを乗り越えるためにある」
「忘れていた貴様が何を言う……」
「ふふ、そうだね」
軽口を叩きあいながら、じりじりと距離を詰めつづける。
そして、互いの間合いのギリギリ一歩手前。そこで動きが一旦止まった。
「こんな僕にも、手を差し伸べてくれる人たちが居る」
「何を言うか……」
これの会話がきっかけとなって、再び打突の応酬が始まった。
右手には左手を。左手には右手を。右足には左足を。右足には左足を。頭には頭を。
目には目を。歯に歯をという勢いで全く同じ軌道、軌跡で互いの腕、足、等の体全てが相手に向かっていく。
「何も出来ない僕を見守ってくれる人たちが居るんだ」
がん!
額と額がぶつかり合った。笑うわけでもなく、泣くわけでもなく、事実のみを告げるように白い祐一は言い続ける。
黒い祐一は、苦虫を噛み潰したようにそれを聞いている。
それを聞いている途中から、黒い祐一の攻撃の勢いが強くなっていく。
「情けない僕を守ってくれていた人たちも居る」
が、がシィ!
互いに相手のわき腹を狙った蹴り。それを寸分間違えずにガードする。
その後、白い祐一は守備に周り、黒い祐一の攻勢に耐えていた。
黒い祐一の攻撃は苛烈を極める。しかし、力がこもりすぎていた。
その為に、動作の一つ一つが大きくなってしまう。大きくなった動作を繋ぐ事は難しい。
その隙は致命的になっていく。その隙を見逃さずに、顔の横をつきぬけた腕を掴み、その勢いも乗せて投げ飛ばした。
黒い祐一は一度、大きく地面に叩きつけられ、地面を転がる。
「だから、僕は自分にだけには絶対に負けない。例え何があろうと」
「……ふふふ、はははは、あはははははははっはは!!」
白い祐一は転がった体制のままいきなり笑い出した黒い祐一を見て眉間にしわを寄せた。
「何がおかしいの?」
「いや、立派だよ! 立派になったものだ!」
ゆっくりと立ち上がり、そして拍手をしながら、白い祐一をほめる。
白々しい演技を付け加えて、悠々と声をあげる。
「それは素晴らしい。あぁ、素晴らしき、精神論だ!」
その動きに、その仕草に、その全てに違和感を覚える。
「手を差し伸べてくれた人たち? 見守ってくれた人たち? 守ってくれた人たち?」
疑問符の後に毎回、表情を変えるという細かい演技をしつつ心底、可笑しいとばかりに嗤う黒い祐一。
「おめでたい! ははははは!」
白い祐一から視線も意識さえも外して嗤う。白い祐一はその行動に戸惑っていた。
「あぁ、その人たちは素晴らしき人々なのだろうよ」
吐き捨てるように言った。そしてありったけの怒りと憎しみを込めて白い祐一をにらむ。
「なら、何故祐夏は殺された! なら、何故祐夏は迫害された! それを忘れているとは言わせないぞ!」
「えっ?」
今まで真っ直ぐだった白い祐一の瞳に動揺が走った。
その様子を面白そうに見た後に、首を振りながら話しを続ける。
先ほどからの演技はなりを潜め、意識と殺意は白い祐一ただ一人に注がれていた。
「たら、れば、を言い出せばきりが無い。しかし、その人たちは何故、手を差し伸べてくれた?」
「な、何を言うの?」
「その人たちは、何故見守ってくれた?」
「だ、だから……」
「何故守ってくれた? それは貴様の隣に誰も居なかったからだろう!」
「えっ?」
全く考えたことが無かったか? という顔で白い祐一を見る黒い祐一。
それは白い祐一には考えたくなかった事。それを突きつけられ、動揺がさらに激しくなる。
「もし、隣に祐夏が居たならば、その人たちはどうした」
その言葉は冷たく、
「異端は嫌われ迫害される。その異端の中に祐夏がいるとしたら? どうなるか。」
その言葉は痛く、
「答えは簡単。手のひらを返したように、祐夏を迫害するだろう」
その言葉には逆らえない力を持って白い祐一を責め立てる。
「そして俺達を見捨てるだろう。それでも、その人たちは手を差し伸べてくれるのか!?」
その笑いには諦めと憎しみそして怒りが混じっていた。
「ははは! そんなに人が信じられるものか!」
嗤う。
「あははは! 世界はこんなにも冷たく残酷だ!」
更に嗤う。
「だから、俺は、世界を、人を、そして貴様を憎む!」
更に更に胸を押えて、狂ったように嗤う。黒い祐一。それを黙って聞くしかない白い祐一。
「滑稽だな! そんなにあっさりと人を世界を信じているとは」
「あなたのほうが滑稽よ!」
思っても見なかった方向から思っても見ない人物の声がした。
「何だと!?」
「えっ?」
キッと視線を現れた新参者に向ける。白い祐一の後ろには香里が立っている。
祐一の後ろの木に手をつき、肩が上下している。顔色のあまり良くは無い。
白い祐一はおびえた目で、香里を見ていた。
「解らないなら、もう一度言ってあげるわ。『あなたのほうが滑稽よ』!」
「滑稽だと!?」
「えぇ、世界は冷たく残酷かもしれない。人はそんなにも信じられないものかもしれないわね」
「貴様ぁ……解ったような口を利くな!」
「私は祐夏ちゃんが隣に居ようと居なかろうと同じ事をしたでしょうね」
「ふん、それは貴様がそいつと俺の記憶のどちらかを見ているからだろう?」
「それは否定はしないわ。でもね……」
香里は今までに溜まっていた疲れを吐くように息を吐く。
「隣に祐夏ちゃんが居ても祐一君はこの街に来て栞の病を治してくれたでしょう」
「そんな事!」
「有り得ないなんて言え無い。その事を否定できるのかしら?」
「……」
「貴方でなくても、祐夏ちゃんが治してくれたでしょうね」
自身ありげに言い切る香里。
白い祐一の肩を抱きながら、そして二人の祐一に言い聞かせるように力を込めて言う。
「なにより、人には幸せになる権利と義務があるわ。」
「そんなはずない!」
「えぇ、世界は冷たく残酷。人は信じられないもの。その逆境を跳ね飛ばしても幸せになる権利と義務がある」
「絶対に有り得ない!」
「それは、他人に幸せを分けてあげた人ならなお更にね」
「なら、何故、祐夏は! 俺は! 笑っていられなかった!」
その怒りは、憎しみは一体誰に向けられたものだっただろうか。
香里は、かわいそうにねっと言う顔を作っていた。その顔を悲しみに歪めて言う。
「あなたの失敗は私と同じ失敗をしたの」
「失敗だと!?」
「苦しい時は他人に苦しいって言わないと他人は冷たいままよ。それに気がついてくれる人は私には居たけど貴方には居なかった」
香里は苦しかったときのことを思う。
自分の妹はいないと自分を偽り、それが今の2人の祐一に重なっていた。
そして何度目か考えていたことが頭によぎる。
「ただ、それだけだというのか……」
「それだけだと言わない。でも貴方が思っているほど、世界は冷たくなければ残酷でもない。人もそこまで捨てたものじゃないわ」
「うそだ! 嘘だ!!」
錯乱したように頭を振り、その言葉を否定する。
黒い祐一にはその言葉は容認できる物ではなかった。
容認をすれば自分が崩れてしまう。そんな追い詰められたものを物を感じていた。
「そんな事、認められるかぁ!」
それは突然だった。その言葉も、その行動も。それらの言葉を全て否定するための動きだった。
有り得ない加速で、ありえない勢いで、その場から香里を狙う黒い祐一。
香里はその事が判っているという表情でその場から動かない。
それどころか、それで気が済むのなら構わないといった表情でもあった。
ばきゃぁん。
そんな音があたりに響き渡る。
砕けていたのは黒い祐一の右腕だった。肘より先は硝子細工のように砕けている。
その先にあったはずだった者は香里だった。でもその間に入ったのは白い祐一だった。
その砕け散った腕の先にあったのは白い祐一の胸当て。それが受け止めていた。
「僕はもう迷わないよ。」
その目線に殺傷能力があるのならば、大虐殺になるであろう威力を込めて白い祐一を睨む。
「僕が悪いのは解ってるよ。でもね。僕は貴方ほど、恨む事は出来ないよ……」
睨まれているにも拘らずに、その視線を外すことなく白い祐一は黒い祐一を見つめ返す。
「祐夏に起こった事を僕は忘れていた。自分を守るために。」
「ようやく気がついたか……!」
「僕が悪いのは分かっている。でも世界も人もそんなに冷たくないよ……」
「都合のいい事を……ぬけぬけと!!」
逆上して、ターゲットを香里から白い祐一に変える。
砕かれた右腕を再生させることも無く、残ったすべてを叩きつけるように繰り出す。
白い祐一は避けることも無く、全てその攻撃を受けている。
「それで気が済むのならいくらでも殴ってくれて良いよ。でも……」
「俺のこの怒りを! この憎しみを! 解っていてそんな事を言うのか!」
絶え間なく響く殴り殴られる音。
「でも、貴方は解ったんじゃないの?」
殴る音がいっそうと激しく大きくなる。
「世界はどうかわからない。」
白い祐一が言うことを否定するように、聞きたくないと駄々をこねるように。
「人は、そんなに冷たいものじゃないって。」
ばきゃん。
まるで意志が崩れたように黒い祐一の残った腕が砕け散る。
その腕と呼応したかのように両膝を尽き、その場に座り込んだ。
「何故だ……他人のために何故そんな顔が出来る……」
顔は下を向いたまま、黒い祐一は香里に向けて声を発している。
白い祐一はそれを気配で察して黙り込んだ。
「俺は貴様を殺そうとしたんだぞ……何故そんな顔が出来るんだ……」
「それは、貴方も祐一君で、そこにいる祐一君も貴方だから……かしら?」
「そんな理由で? その程度の理由で? そんな顔が出来るのか?」
「私は、祐一君になら殺されても良いと思ってる。それで祐一君が救われるならね」
「……」
「例えが悪いけど、貴方が祐夏ちゃんの代わりに殺されるのと同じような感じかしら」
「……俺は……」
ドサリと背中を地面につける。
「一つ聞いて良いか?」
「えぇ、どうぞ」
「世界は綺麗なのか?」
「それは人によるわね。私には美しい世界でも、貴方には違うかもしれない。」
「……」
「だから、人は幸せになろうともがくのよ。貴方みたいにすねるんじゃなくて……ね」
香里は考えるように人差し指を唇に当てて、言い終わった後に微笑んだ。
「そうか……間違っていたのは、どっちだったのかな……」
「間違いなんて人なら沢山するわ。だから人は手を差し伸べ、手を取り合って生きていくのよ」
「香里さん……」
黒い祐一から、初めて固有名詞が出た。それに驚く香里。
「ありがとう……。あんたはいい女だよ」
「どういたしまして。それと最高の誉め言葉をありがとう」
黒い祐一は空を見つめたまま、意識を白い祐一に向ける。
白い祐一が気がついたときに口を開いた。
「さぁ、俺の負けだ、さっさと止めをさすが良い」
「勝ち負けなんて無いよ。だって僕は貴方で、貴方は僕なんだから。」
「貴様、何を言っているのか分かっているのか?」
このとき白い祐一は香里さんだけなんで名前を呼んでもらえたんだろうっと思っていた。
でも関係の無いことだから、口にはしなかった。
「だから、一緒に生きて行こうよ」
畳み掛けるように、祐一は続ける。これからの覚悟、そして、決意を見せながら。
「それで、もし、僕が人に、そして世界に絶望したなら、僕を内から食い破ってくれて良いよ。」
「……良いだろう。その時は容赦なく食い破ってやる。」
「これからもよろしくね。」
「ふん、せいぜい足掻くが良い」
「うん、これでもかってくらい足掻いてみるよ。」
ころころと笑う白い祐一を見て、黒い祐一は薄く笑った。
互いの手と手が重なり合い、黒い祐一は白い祐一に吸い込まれるように消えていく。
(良いか、俺はしばし眠る。でも簡単に起きるからな。気を抜くなよ)
「うん。解ってる。」
(そうか……)
その声と共にゆっくりと黒い祐一の声が遠くなっていく。
それがどんどんと聞こえなくなっていき、やがて聞こえなくなった。
「香里さん。終わったよ」
「そう」
「帰ろっか、みんなのいる所へ……」
「そうね」
「ところで、何で香里さんがここにいたの?」
「良いじゃない。そんな細かい事は……」
「え…で……も気にな……る…………よ」
香里に向き合い香里に向かって歩き出す前に祐一が倒れる。
「祐一君!?」
いきなり倒れた祐一に驚いて、まだふらつく体で慌てて駆け寄る。
「すー、すー」
そこには疲れ切って可愛い寝息を立てている祐一がいた。
香里は苦笑しつつ、祐一を背負い歩き出した。みんなが待っている場所へと。
(さぁ、帰りましょう。みんなの待っている場所へ……)
途中、何ども休憩しながらあるいていく。
背中には幸せそうに眠る祐一。その重みをしっかりとかみ締める。
(帰ってからが大変かも……ちょっと覚悟をきめないといけないわね)
この予感は正しかったと後々証明される。
ちなみに学院に帰ってから、洗礼として、舞達をはじめとして、詰問され、気がついたら人はどんどんと増えていった。
詰問されている間、祐一は香里の背中で幸せそうな寝息を立てていた。
加えて、香里が急に居なくなったことが問題となり、第21回相沢家庭裁判が開かれたのは別の話で、
香里がなぜか相沢家の家庭裁判の被告人になっていて、関係者の殆どが集まっての裁判となった。
その時になってようやく起きた、祐一に弁護してもらって何とか事なきを得たのもまた別の話。
時は流れて。場所は暖かな日が当たる家の中。
「ねぇ、ねぇ〜、もっとお父さんの事、聞かせてよ。」
「そうね。次は飛鳥さんとの事を……」
「それは知ってるよ。もっともっとお父さんの事、知りたいの!」
駄々をこねている子供。その質問を困ったように聞き返した。
「それはどうしてかしら?」
「だって、お父さん格好良いもん!」
「そうね。お父さんのこと好き?」
「うーん……もっと相手をしてくれれば好き!」
少し思案してから子供は顔を上げた。
そして、はちきれんばかりの笑顔を振り撒いてその子供は母親を見上げた。
「お父さんにしか出来ないお仕事だからしょうがないわね。」
「え〜〜?」
「でも、お母さんからも頼んであげるわ。」
「本当!?」
「えぇ。」
「お母さん、大好き!」
そういって子供は母親に抱きつく。幸せそうに母親は子供の頭を撫でた。
「あ!お父さんがもうそろそろ帰ってくる!」
「よく分かるわね……」
子供の感覚の鋭さゆえか、それともあの人の子供だからなのか解らない。
でもこの感覚は外れた事は無かった。だから、心なしか母親の顔も綻んだ。
「1週間ぶりね。」
「うん。今回はどんなお土産話があるんだろう!?」
もう待ちきれないとばかりに、玄関に走っていく子供。
母親もその後をゆっくりと追った。
ばさぁ。
羽ばたく様な音がなった後に玄関が開かれた。
真っ先に父親に飛びつく子供。それを抱きとめる父親。
「ただいま。」
「「おかえりなさい」」
温かく迎えられる祐一。また騒がしく充実した日々が始まるのでしょう。
さて、このお話はここでお終い。これから先の幸せなお話はまた別のお話。
あとがき
ようやく完結です。どこでどう終るか結構考えたのですが、この形が自分的に一番良かったのだと思います。
ともかく、へたくそな私のSSに、ここまで付き合って読んでくれた皆様。
そして管理人の柊様。本当に長い間ありがとうございました。ゆ−ろでした。