プロローグ 発端
暗い、黒い景色。月も出ていない景色。
その景色の中、一箇所から溢れる紅い光に地面の雪がうっすらとその光が鈍く反射している。その光の溢れている場所の一角で母親が、少年を押さえつけている。
「お父さん!」
「駄目よ!祐ちゃん!行っちゃ駄目!!」
雪の降る町が、鈍い赤で塗りつぶされている。神遠の国は今戦争の波に飲み込まれていた。
町の小さい門のところで一人の剣士が戦っている。その先には大勢の兵士が押し寄せていた。 激戦区。そう表現するにしてもこの戦場は異常だった。 その数刻前までは一緒に戦っている人達が居たが、今は居ない。 その人たちは怪我で意識が無いか、すでに息をしていないかのどちらかだった。 それでも、人数にひるむことなく剣士は一人で迫る兵士を相手に一歩も引かない戦いをしていた。剣士がそれだけの兵を相手に出来たのは門のおかげであろう。
「!」
少年は何かを感じ取って父親である剣士のほうへ向かって走っていった。
母親の手を払いのけて、静止の言葉を聴かずに。
「祐ちゃん!!」
剣士は気が付いていなかった。剣士の戦っている先にいる奇跡の力を行使できる人間の事を。
フードを被ったその人は静に、しかし確実に、精霊にささげる詩を詠っている。剣士はそれに気が付いていない。気が付いていたのは走っている少年だけであった。
『我に敵対する者、その者に安息の場所への誘いとなれ!アナザーイスレイション』
精霊にささげる詞を詠い上げたた時。
奇跡を行使している人の額に紋様が現れ、その上の宝石から紫色の光があふれた。その瞬間、剣士のいる足元に真っ黒な円が現れた。
「お父さん!」
その瞬間、剣士に少年が体当たりをした。剣士は円の外に押し出される。
トン。そんな乾いた音と共に、 剣士の代わりにその円の中には、剣士を父親と呼ぶ少年がそこに倒れていた。円の色はどんどん濃くなり、少年に絡み付いていく。
「祐ちゃん!」
「祐一!!」
二人は叫んだ。それがもう手遅れな事に気がつきながら。
二人にはその瞬間が何秒にも見えただろう。少年は闇に飲み込まれていく。 少年を追って走ってきた母親はつかめそうな少年の手を掴もうとする。しかし無常にも少年の手を掴む瞬間に、少年は闇に飲み込まれて姿を消した。
「ごめんなさい……」
そんな言葉を残して。
少年の親である二人にはもう言葉は要らなかった。 怒り狂った二人には大勢の兵士といえども、敵ではなかった。 少年の父親の斬撃に。杖を持った少年の母親の起こす奇跡の力に。 父親の体と剣はどんどん赤に染まっていき、 母親の起こす奇跡の力は、どんどん人を飲み込んでいく。 見る見るうちに人は少なくなっていった。 二人には奇跡を行使できる人間でさえも敵ではなかった。 怒った二人には、この程度の兵士達は敵ではなかったのだ。 全てを片付けたあと、二人に残ったのは子供を失った悲しみだけだった。 でもこれは、7年前のお話。 残された二人の物語は別のお話。 ここから物語は始まるが、少年、同年代の子供達が大地の歴史の表舞台に立つのはまだ先の事。このお話は少年の物語。
技・奇跡の力説明
アナザーイスレイション
訓練のいる奇跡の力。
行使する人間の望む所に異次元の扉を開き 無理やりその上に居た人間を異次元に飛ばす。
あっさりとやられてしまいましたが、奇跡を行使していた人はかなり強い人だったりします。
ゆーろさんからファンタジー作品を戴きました。
祐一(恐らく)が飲み込まれた先でどうなったのか!?
これからが非常に楽しみな作品です。ハイ。
ゆーろさんどうもありがとうございました。
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