――――……殆ど調味料系だけだし、別にいいよな。
セイバー「……私はすごく蚊帳の外な気がします」 祐一「大丈夫だセイバーとやら。俺もだから」
買い物袋を引っさげて帰路につく。こんなビニールの薄っぺらい物体が五円もするのだから、世も末だ。
既に四方は人工的な明かりに満たされ、尚も闇色を増す空の向こうで煌々と月が笑っていた。
「ったく、あんなの生徒にやらせるもんじゃないだろうに」
今日の朝士郎に言い渡された用事……即ち、視聴覚室等の機材一般を扱う部屋の備品一斉検査を思い出す。
昔っから“拾い癖”のあった士郎のおかげで機械系統に詳しいことが露見したのか、借り出されたわけだ。
借り出されたといっても、士郎に頼まれなければ多分そんな心配もなかったんだろうが……失敗した。
商店街の一角を覗き込み、現在時刻を確認する。そろそろ早いところは店を閉め始めるといったところか。
しかし、俺も馬鹿だな。帰り際にわざわざみりんと料理酒切れてるの思い出さなくてもいいだろうに……。
「な、とりあえずさっさと帰って、飯だ飯」
士郎の方も、放課後の部活が長引きそうってことで俺に用事を頼んだとはいえ、そろそろ終わってるだろうし。
今日のメニューは何にするかな。
Jack-O'-Lantern
第一話【C】 マジシャンズ・セレクト
――――――――――人間、納得と理解の範疇外の事が起きるとフリーズするように造られているらしい。
大破した壁の一部、抉られた庭、散乱する木々の枝葉、ああ、ここは地獄の何丁目?
「――……?」
「! ……! ……――」
「……」
衛宮家から薄く響く声は、どう考えても三人。
一人は士郎。一人は桜。一人は藤村先生のファミリア――――――だったら、どんだけ良かったか。
士郎の声は間違いない。殆ど聞こえないが、聞き間違うはずもない。が、ほかの二人の声は誰だ?
声を荒らげている女性がいるようだが、よくわからない。最後の一人に至っては、むしろ気配とか動きとかそんな感じだ。
ああ、だが、まあいい。
今はそんなことを気にしている場合じゃないだろう。
一体この惨劇は何で、誰が、どうしたのかということだ。これが虎にばれた日には……あなおそろしや。
「ただいまッ」
日々の通過儀礼は生かされる。靴を乱暴に、声も荒らげながら挨拶だけは欠かさない。
頼む。頼むから、現状を打破できる人間が居間にいてくれ。
腹の虫が声高に急かすのも忘れ、居間に向かって暴走気味に突っ走る俺。頼むから、現状を打破できる誰かが……。
「あ、おかえり祐一」
「ッ……ごきげんよう相沢くん、お邪魔してますよ」
「? マスター、彼は誰ですか?」
――――――――――なんで、こいつがここに?
俺たちの誇る学園の、逆らってはいけない人堂々のトップ1。
遠坂凛(と誰だか知らないがやたらごつい鎧の可愛い女の子)が、そこにいた。
「はい、何一つ理解不能デス」
「あー……その、何だ、祐一。アレ、見たか?」
言いつつ、士郎は庭を一瞥する。
衛宮家の明かりで薄く照らされた中庭は、最早言い訳どころか弁解の余地すら皆無の……言うなれば、戦場跡。
先ほどは暗がりで良くわからなかったが……こりゃ、酷いな、おい。
「ああ、見た。見たよ。うん、それでこれがどういうことか説明してくれるか? 遠坂」
「わ、私ッ?」
「お前どう考えても説明キャラだろっていうかなんとなく士郎の頭に疑問符見えてるんだよねこれが」
息継ぎなんざ必要ない。一節の間に言いたいことを笑顔で言えた俺は、恐らく人生でも一番クールなはずだ。
後失礼なって顔をしている士郎、お前どう考えてもクラスメイトに弁当奪われている時の不条理な顔してるからな?
「……悪いけど、衛宮くん。彼の記憶は改竄させてもらうわよ」
「のっけから不吉なこと言わないでもらえるか遠坂ていうか俺の質問に答える姿勢くらいはほしいと俺は思います」
やはりノー・ブレス。
相当切羽詰ってきているらしい。ああ、そういや俺、手にみりんとか持ったままだ。
はは、凄い、馬鹿らしい。
「まあ、理解しなくてもいいから、納得して。私は魔術師よ。衛宮くんもね」
魔術師……?
「それってつまり、切嗣さんみたいなもんか?」
「……切嗣さん?」
今度は遠坂が頭に疑問符を浮かべて、士郎が補足した。
「俺と祐一を、十年前に拾ってくれた人だ」
「……衛宮家の結界は……そっか。なるほど、なるほど」
「えーと、それでこの惨状についての説明プリーズ」
「いいわよ。どうせすぐ改竄するけど……理解は兎も角、納得だけはしててもらわないとね」
普段とキャラ違う遠坂曰くだが、「無理強いは人格壊す恐れが云々」……気にしないでおこう。
「兎に角、私たちは魔術師なんだけど……聖杯戦争っていう血みどろの争いがあるのよ」
(壮絶に中略)
遠坂から聖杯戦争の概要を聞いた俺は、絶句した。
今日の出来事。士郎は一度死に(かけ)、ここでサーヴァントを召喚したということ。
つまりそれは……もし俺や久瀬(検査は生徒会が主立ってやる)が学校を出るのが、あと少し遅れたら……。
考えたくも無い。俺はお世辞にも好奇心が弱いとは言えないし、校庭から物音がすれば見に行ったに違いないのだ。
そうしたら……最悪、今の士郎みたいにシャツを血まみれにすることになっていたかもしれない。
「でもまさか、その衛宮くんがマスターで……にっちもさっちもならないハンパ者で、聖杯戦争知らないとは思わなかったけどね」
「ハンパ者って……」
隣で士郎が俯いていた。そして隣の金髪少女(セイバーというらしい)は、ひたすらに緑茶を飲んでいる。好きなのだろうか?
「でも、話しを聞く限り、その呼び出すサーヴァントって……抽象的で悪いが、「すごい」んだろ?」
「ええ、そりゃあね。神秘以上の存在だもの。本来なら、私が逆立ちしたってほいほい呼び出せる代物じゃないのよ、こいつは」
こいつ呼ばわりされたセイバーが、むっとした顔で遠坂を睨んだ。
「だったらどうするんだ? 人格があるんだから、相性が良くなかったら逆にサーヴァントに殺されることも……」
「ないわけじゃないんでしょうけどね。実際、私なんて地獄に落ちろって言われたもの」
ねえ? なんて視線を上にずらしながら、誰かに聴く遠坂。
ああ……でもそうか。ここに遠坂がいるんだから、遠坂のサーヴァントだっているわけで、そいつに話しかけたのか。
……曰くマスターに「地獄に落ちろ」と言い放つらしいが。
「で、そのためにってわけでもないけど、マスターはサーヴァントに対して三回の命令権を持つの。それがこれ、令呪」
遠坂は腕をまくって、その令呪とやらを俺に見せた。
三角分の変な模様だ。すっかり先生ポジションに鼻を高くする遠坂が説明を続けた。
「ま、三回分っていっても、実際三度目の命令を出した時点で令呪での縛りはなくなるから、あとはサーヴァントの自由ね」
つまり、実際に命令できるのは二回まで……ってことか。
「大体衛宮くん、あんなでっかい痣もどき、不信に思わなかったわけ?」
――――――なんか今、すごく大事なワードが飛び出した気がします。隊長。
「しょ、しょうがないだろ。俺は聖杯戦争のことなんて全然知らなかったんだから」
「知らないで済む問題じゃないでしょ!? あんたのせいでこっちは、私の十年分の魔力が……うぅ……」
そしてうめく遠坂。しかし、いやいや、まさか……ね?
「時に遠坂、聞いていいか?」
「何よ、もう」
分厚いネコを被らなくなった遠坂が、何故か俺まで恨みがましい眼で睨みながら問うた。
「いや、気になるワードをザ・相沢イヤーが聞き取ってな。痣もどきとはなんことでせうか?」
「痣もどきって……ああ、令呪の御徴のことね。サーヴァントを呼び出す前は、令呪はただのでっかい痣みたいなもんだから」
……おーけ、落ち着け。まずはそれからだ、俺。
衛宮切嗣の言葉を思い出せ。俺は、一般人だ。
士郎は魔術師なのは知っていた。
切嗣さんに才能がないと言われても、魔術を磨いていたのは、知っていた。
だがそれは、あくまで士郎だけだ。俺だって魔術を習おうと思ったことはあった。けど、その時の切嗣さんの一言は……。
『……士郎なみに、絶望的だね』
つまり俺というやつも、まったくもって魔術の素養がないわけで。
士郎のように根気良く、魔術を続けている理由もなかったわけで……。
だからつまり俺は一般人のはずで……。
「あれ? そういや祐一もそんな痣を……」
「――――――つまり、俺ってイレギュラー?」
「は?」
腕をまくった見せたときの遠坂の顔は、学園内じゃ見せられないような顔だったことを表記しておく。
ついでにいえば既にサーヴァントも魔術師も、七人揃っているらしい。
さて……ご飯は、まだかな?
あとがき
これにて一話は終了。ラストの【C】でいきなりの急展開ですが、実はそうでもありません。
本編の差異を描いたにすぎませんので、この第一話はながーいプロローグのようなものですね。
こっから先、祐一くんも聖杯戦争に一般人ながら巻き込まれていきます。
もちろん【B】で意味有り気なことを匂わせてますから、普通の一般人で終わらすつもりはありませんけどね。
とりあえず二話は、戦争に巻き込まれた祐一くんがサーヴァントを召喚するまでの過程でも書きたいなと。
ちなみにあとがきですけど、基本的にはその話の終わりに出てくると思います。
たまに補足説明なんかがあると、そのたびに出てくるかもしれません。
――――もちろん、出てこないかもしれません。(黙れという声が聞こえてきそうだ)
はてさて、実は一度も連載が完結してないシンクですが、そろそろいっちょ気張りたいのですよ。
んでもってなんかホロゥはあんまやる気出ないなぁ。とりあえず自分としてはライダーの姉みたいのがいるらしいのでそれに一票。
ではあでゅー。