「うー……」
最初の一話、二話辺りはA、Bとかで区切って短めにする予定
「あらあら、どうしたの名雪、ご機嫌ななめね?」

「今日ね、祐一がわたしのイチゴムースとったんだよ……」

あらあら。

テーブルに突っ伏し、「明日復讐する」と嫌なベクトルに熱意を傾ける娘に嘆息する。

でも、本当に祐一さんは姉さんに似てるわ……姉さんも、よく私をからかって遊んでいたし。

「でもね、そこに衛宮くんが通りかかって、取り返してくれたの」

「そう。良かったじゃない?」

衛宮くん。

十年前から、良く聞く名前。あの大火災の時に、祐一さんと同じく両親を亡くし、切嗣さんにもらわれた子。

でも、不思議。

切嗣さんは……その、甥の面倒を見てもらったから感謝はしているけれど……。

…………十年前に挨拶した限りでは、士郎さんみたいなしっかりした人を教育できるような人には思えなかったのに。

――やめましょう。亡くなってしまった人を、悪く言うものじゃありませんね。

「お母さん、聞いてる?」

「え? あ、ごめんなさい。ちょっと考え事をしてて」

「うー、それでね。折角返してもらったのに、気付いたらトレーのエビフライが祐一に食べられてたんだよー」

楽しみにとっておいたのにー、と涙ぐむ名雪。

悪いのは確かに祐一さんだけれど……もう少し、こう、色々なことに敏感になってほしいと願うのは、我侭かしら。

「それにね、祐一ったら酷いんだよ。わたしとユキちゃんはミドルネームが愛玩なんだって」

……誰? ユキちゃんって。






































Jack-O'-Lantern 第一話【A】  リンダ・リンダ・リンダ

それは飽くまで人を惹き付け、けれど瞠るほど凍らせるわけではない。 あくまでも穏やかに、けれど芯を通しながら、ゆったりと進む時の脈動。それこそが、間桐桜の本域。 残心を終えた桜が、静かに足を閉じた。そして天井を仰ぎ嘆息する。 俺は的を一瞥してみせたが、桜の放った四本は見事なまでに皆中していた。 「見事なもんだな」 「あ、相沢先輩」 部外者が入ってきたことにすら気付かなかったらしい。 俺や士郎の可愛い妹分である桜は、人なつっこい笑みでこちらに歩み寄って……こようとして、弓道部に住まう鬼に肩を叩かれた。 「こらこら、どこ行くの……それと相沢、何か変な視線を感じるんだけど?」 「気のせいだ」 鬼……いやいや、弓道部鬼の主将って結局鬼かああもうどうでもいいや。 美綴綾子。なぜか江戸っ子を感じさせる(と個人的に思っている)俺たちの同級生。 ちなみに県内でもそこそこの腕を持っているらしく、桜という期待のホープを育てるのに余念がない。 同じ間桐でも、兄貴があれだからだろう。兄妹揃って弓の才能があるっていうのは、間桐という家柄そのものも関係しているのか? 「全く、うちの可愛い可愛い間桐を誑かさないで欲しいね」 「冗談だろ。俺に言うな、俺に」 俺は挑発的な視線を織り交ぜ、的の隅を見やった。 今は矢取りをしている赤毛のそいつ、衛宮士郎の存在を気付かせてやれば、桜は「違いますよッ?」と声を上げる。 可愛いもんだ。 「何が違うんだ、何が?」 「まぁ、そこのところは是非聞かして欲しいところでもあるんだけど」 「しゅ、主将まで。別にわたしは……」 ごにょごにょと口を紡ぐ。 その様子を見ていた多分一年だろううら若き後輩が、顔を赤くしながら桜のことを見ていた。 ううん、青春だね。 「主将、ねぇ。まったく、なんであたしが……」 「どうせならえみやがえればいいのにー、か?」 毎度の事ながら、でもあるが。 美綴の呟きは、正当ながら不正でもある。こと弓道ということに関してだけならば、確かに士郎の方がいいのかもしれない。 「あいつは主将って柄じゃないだろ」 「私もそう思います……先輩には悪いですけど」 「柄じゃないっても、現に衛宮の腕は……」 「美綴、引かないのか?」 矢取りを終えたのだろう。いつの間にかいた士郎が、四本の矢も手持ち無沙汰に美綴の肩を叩いた。 瞬間、桜の顔が少しだけ陰る。 ちくしょう青春だ。俺もこんな甘酸っぱい経験をしてみたい。 「あ、ああ。ナンだ、衛宮か。脅かすな」 「? 俺、何かしたか?」 「何でもないよ。さって、そんじゃあたしもいっちょやりますか……相沢もどうだい?」 「遠慮しとく。ていうか、初心者が出来るようなことじゃないだろ」 本来なら部員ですらない俺が、朝の弓道場にいるってだけでもイレギュラーだろうに。 とはいえ俺がここにいるのも既に当たり前のことだから、今の一年ですら既に口を挟んではこないのも事実だが。 「相沢なら、今からでもそこそこ上達すると思うんだけどね」 「今日は厭に喰いつくなおい。衛宮ファミリアを揃って弓漬けにすると何かいいことでもあるのか?」 「そ、そんなファミリアなんてああでも嬉しくないわけじゃないっていうかそのあのそのあの……」 「ていうか、祐一は俺よりもバイト入れてるからな。さすがに部活はきついんじゃないか?」 困惑かんきしている桜と違い、ファミリアの大黒柱が最もな意見を出した。 ちなみにファミリアは桜、士郎、俺、ぎりぎり譲歩で虎……じゃない、タイガー……でもない、藤村先生である。 桜も士郎も現役部員。藤村先生も剣道有段者のくせして弓道部顧問なのだ。 「別にいいことがあるってわけじゃないけどな? 傍から見てて楽しい」 「男口調、男口調」 「気にすんな」 がっはっはと豪快に笑い飛ばし、美綴も自分の弓を持ち上げる。 本音全開のマジトークに士郎が眉をひそめたが、他には誰も気にしていなかった。当事者である俺ですら。 「そういや、今日は大河がいないな。どうしたんだ?」 いつもなら、こんな美味しそうな話題を見逃す人でもないだろうに。 「緊急職員会議だと。士郎が来る少し前に顔だけ見せて、そのまま行っちまった」 職員会議……緊急、ねぇ。 また北川か斉藤辺りがなんかやらかしたか? 「おーいちょっとちょっと、間桐含め主将の射には興味なしなわけ?」 「む、すまん。そういうわけじゃないぞ?」 「いえだから家族といってもそう妹みたいなものでああでもやっぱり将来的には妹よりもワンステップいやんだから……」 まだトリップしてたのか、桜。 笑顔で桜の歩み寄る美綴の顔が怖かったので、俺は戦略的撤退をとった。 朝の弓道場から響く、絹を裂く乙女の悲鳴のおかげで眠気は吹っ飛んだことだけが唯一の利点なのだと己に言い聞かしながら。
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