注意事項。

 原作の世界観を完全に、それはもう阿呆なほどぶち壊しています。
 原作のキャラと性格や口調が違うところがあるかもしれません。
 ファンタジーでありながら、多数の著作品とクロスしています。
 私はクロスものやファンタジーものを書いたことがありません。

 以上を承知の上で読んでもいいかな、と思われた方のみどうぞ下へスクロールして下さい。
 そういったモノは絶対に認めないという人は読まないで下さい。
 もし読まれても、それについた抗議は一切受け付けないので、宜しくお願いします。
















 聖剣戦争――――。
 古の伝承によると、それは神々の起こした大規模な喧嘩≠セという。
 全世界に散らばる十の聖剣を以って、覇権争いが行われたらしい。
 世界を統治する神を選出するための、戦争。

 鳳凰が棲むと言い伝えられている火山の火口に深々と刺さっている名剣。
 暗く冷たい深海の奥底に在る水竜を祀っている祠に供えられている名剣。
 年中吹雪く大雪原に唯一つ存在し自然洞窟内の氷塊に埋まっている名剣。

 名剣とは、聖剣と呼ばれる物もあれば、真逆の意味の呪剣も存在する。
 今となっては遥か昔の聖剣戦争がどんな名剣揃いだったかは、知る術がない。

 始まりは永遠にも思える昔。
 終わりは人類が誕生した昔。

 伝承は語る。
 剣圧により大地を引き裂き、大小様々な島々に分断させたと。
 仙術により大地を隆起させ、世界各地に山々を造り上げたと。

 伝承は語る。
 今現在ある世界こそ、聖剣戦争の傷痕だと。


 だが、それに異を称える者も少なからずいる。

 いや、寧ろ聖剣戦争の伝承自体が虚説だとしたら…?
 そんな戦争自体、創り話だとしたら…?
 神話だと偽り、後世の子供に聞かせる話だとしたら…?

 尤も、その真偽を確かめる手段など今となっては唯の一つもない。


 神々の戦争から、数え切れないほどの時間が過ぎた。
 永遠とも感じられる永き時を置き去り、時代は流れ変わる。
 ――――神ではなく人が住む世界。





 ――――――そして、伝承は再び………………。















 聖剣戦争

  Act01〜宣戦布告〜










 無作為に風が乱れ吹く。
 不可視の刃と化した突風が暴れ狂い、殺意を帯びて、意思を持っているように叫ぶ。
 地震が如く闘技場自体を激しく揺らし、叫びながら標的へと渦巻く真空刃。
 それは微小の飛礫のような砂埃を巻き上げ、全方位から不可視の刃が集束する。

「………あーもぅ」

 面倒くさい、の気持ちが詰まった言葉を溜息と共に吐く。
 声量こそ大きくないが、その気持ちは計る必要がないほど大きかった。
 ポツリと零れ出た愚痴は、口にしたところで現状を解決するための糸口を見出してはくれない。
 だが、“彼女”には余裕があるようだ。
 四方八方から吹き荒ぶ風によって乱れた髪の毛を弄るほどの余裕が“彼女”にはあるようだ。

「――――セキシ」

 微かに“彼女”の唇が動いた。
 その小さな呟きは、竜巻のような暴風と化した風壁の外側には届くことはない。
 分厚い壁に隔たれた詞≠ヘ、本当に微弱だが木霊することとなった。
 唱えた術士の願いを魔力という代償と引き替えに、セキシと発せられた詞は魔力を生む。
 その魔力の輝きは、宛ら胎児の産声のように満ちている。
 彼女の両腕――――両肘から指先まで――――を螺旋状に渦巻いた魔力光が完全に包み込む。

 燃えるようなセキが素肌を侵食する。

「――――ケン」

 一泊置いて、魔力を帯びた詞≠紡ぐ。



 ドォォォオオォォンッ!!



 迫りつつある乱風を目視せずに、彼女は握りしめた拳で殴る。
 彼女の両足を支えている巨大な闘技場を、何の躊躇もなくぶん殴った。
 力を溜めず、振り被ることなく、経路にして最短経路を、最小動作で叩き付けた。
 ………彼女は本当に微かに、薄く笑みを浮かべていた。

 足場が爆ぜる。
 爆風が広がる。
 砂煙が上がる。

 吹き飛んだ瓦礫は、彼女を取り巻く風と相殺。
 それは、瓦礫の破片一つ一つが彼女を護るように舞っていた。
 水面に落ちた小石が波紋を生むように、瓦礫は拡散する。
 闘技場全体を包むような大きな砂煙が、何もかも覆うように漂う。
 巻き上げられた膨大な砂煙で、彼女の視界は“敵”を映していない。

「………あれー?」
「へぇ、中々やるようね」

 “彼女”ではない。
 おそらく、咳き込むほど舞っている砂しか見えぬ視界の先に居るはずであろう“敵たち”だ。
 数にして二人、彼女の敵ははっきりと存在していた。
 視えずしても感じることは可能だ。
 視覚ではなく感覚で捉え感知した。
 それは、決して抑えない魔力の所為で、自らを隠すつもりなど毛頭無いように思える。
 ちなみに敵の正体は、彼女からしたら皆目検討がつかないことだと明記させておこう。

「誰か知らないけど、随分な挨拶ね」

 砂煙の中からの声。
 彼女は皮肉を込めた言葉を返す。
 飛び回る羽虫を見つけたように、鬱陶しそうに言ったその言葉は愚痴のようにも思える。
 いい加減邪魔な砂煙を払うように、片手を薙刀のように振るう。
 そこから生まれた風の爪が砂煙を斬り開き、彼女の眼前に敷かれた白い幕が剥がれる。
 散り散りに去っていく煙は、まるで生まれた風を怖がるかのよう。
 だが、それに何の意味を持たないように、彼女は改めて敵を目視する。
 ………そこにいたのは、やはり先ほどと変わらない顔の二人の女だった。

 ――――――でも………この二人、間違いなく強い。

 彼女は心の中でそう思った。
 それは一つの可能性ではなく、絶対的な確定事項。
 その判断は、敵の表情から読み取ったのではない。
 武具でもなく、気配でもなく、恐怖感でもない。
 言ってしまえば、彼女がこれまで実戦で培ってきた経験がそう思わせたのだ。
 つまり勘のようなものかもしれないが、それは何よりも信用できる要素だ。
 それでも、本能が、血が、細胞が、全てを認めている。
 自分と同じような修羅場を掻い潜ってきた、強者だと。

 そして、こうも思った――――――今こことうぎじょうに自分しかいなくて良かったと。

 少なくとも、同じ学生がいなくて助かったと思っている。
 理由の一つは語るまでもないが、その学生を危険な目に合わせないため。
 そしてもう一つ、今の自分を見せたくなかったから。
 彼女の胡散臭い武師・・・・・・曰く「セキシモードは周りの人間の魔力を少し吸い取る」らしい。
 だから、彼女は非常に助かったと思っている。

「アオバー、もう一回ブッパ・・・する?」
「いえ、もういいわ春花はるか。それよりそんな言葉遣い誰に教わったのかしら?」
「ほへ? ………んーとね、ヒロシ」
「………………愚問だったわね」

 訊くだけ無駄だったわ、アオバと呼ばれた女性が言う。
 一歩踏み出して、腕を組みながら武人のような立ち振る舞い。
 アオバは女性の割にはすらりとした長身で、モデルのようなスレンダーな体系をしていた。
 ただ、全身を真っ黒で纏めた服と、その獲物を引き裂くような鋭い眼光が、そう思わせなかった。
 対し、春花と呼ばれた女性は、まだ何処かあどけなさが残るような少女のような女性だ。
 動きやすい服装で、普段からあまりオシャレに気を使うような格好ではない。
 そして、春花の特徴は何と言っても違和感あるイントネーションだろう。
 凡そ日本で育ったのではないと直ぐに解かるほど偏っていた。

「それで、私たちはいつまで待てばいいのかしら?」
「………ふ、それこそ愚問ね。何回訊かれても、答えは変わらないわ」

 アオバの問いに彼女は軽く鼻で笑いながら、そう答える。
 真紅の両腕をだらんとぶら下げて、一歩踏み出す。
 前傾姿勢気味な体は、決戦を希望しているようにも思える。
 そんな彼女の応えは“先ほど”と何も変わらず、何も与えはしない。
 だが、その言葉自体嘘を言ってない。

「大体、心当たりがないもの。聖剣?何それ?」
「………そう、あくまでシラを切るのね。でも、つい最近【花遠カノン】で聖剣特有の魔力・・・・・・・が感知されたのよ」
「へぇ」

 全く興味外のことだと、表情を変えることなく適当に相槌を打つを彼女。
 何を考えているのかわからず、それは何も考えてないようにも思える。

「もう一度訊くわ。聖剣の内の一本、どこにあるか吐きなさい」
「………はぁ。だから、何で私に?」



「――――――花遠最強の一人、拳王・美坂香里………だからだろ」



「「「――――ッ!?」」」

 そんな折、三人の耳に響いた言葉。

 闘技場が変異する。
 拮抗だったはずの空間に、魔力値が等しかった空気に、異変が起こる。
 三人の世界を外側から打ち破るように、男の言葉という一本の槍が投げ込まれたのだ。
 自分たち以外いないと思っていたはずの世界に、第三者の介入。

 まるで事前に打ち合わせをしたように、全く同時に振り向く三人。
 声が発せられた、この闘技場の隣の部屋に六つの瞳が集まる。



 ドガァァアアアァァンッ!!



 ――――と、同時に爆音が闘技場に響き渡った。
 爆発のような、轟と激しい音がそれぞれの耳に木霊する。
 大小関係ない鉄塊が、視線の先から雨のように吹雪く。
 確認できないほど無数の雨が、魔弾のように床や壁を貫く。
 先ほど放った彼女の《ケン》と同じように、砂埃と含んだ爆風が弾け飛ぶ。

「ったく、邪魔な壁だな」

 砂煙の先から風に乗って届く、男の声。
 その声は、とてもメンドくさそうに、まるで一人で愚痴るように。
 隣接していた闘技場の隔壁を何かしらの方法で打ち破り、進入してきた男。
 耳に感じる限りでは、どうやら男は彼女と同じくらいの年齢のようだ。

 音と風が止んでいる静寂した世界に、唯一つの存在。
 カツッカツッ、と白煙を振り解いて鳴る靴音。
 それは、声の主である男の存在を否が応でも感じさせる。

「話は聞かせて貰った。生憎、こっちも用件が同じだ」

 やがて姿を現した男は、三人とも見知った顔ではなかった。
 だが、少なくともどこの国≠ゥら来たのかは理解できた。
 彼が腰に携帯している、黒塗り鞘付き一振りの剣。
 その柄に刻まれた、半分に割った蒼月が描かれた鮮やかな紋章。
 誰しも一目でわかる――――――【倭庵ワン】の国旗だということを。

「あら、随分遠いところから来たのね」
「………ふ、そいつはお互い様だろ――――――高屋敷青葉さん」

 距離的に考えてもほぼ同じくらいだろ、何て軽く言う。
 そこでピクッと僅かながら反応した青葉を見て、男はククッと含み笑い。
 まるで、全て見透かしているように唇の両端を吊り上げて、小さく笑う。

「あはー、確かにそうかも」
「それから、君もね………王春花ワン・チュンファ。君の場合、俺たちの中で一番遠いところ・・・・・・・から、だろ?」

 男は何故か春花ではなく、青葉の瞳の奥底を覗き込むかのように口を開く。
 子供っぽい悪戯地味た笑みと、相手の表情の変化を愉しむ嘲笑とが入り混じった顔。
 ピシリと空気に罅が入ったような音が聞こえたような気がした。

「………………アナタ、一体何者? どこからその情報を…!」

 鑢で磨かれたような、鋭い眼光を放つ青葉。
 燃え盛る炎のようにギラついた瞳は、明らかに怒りを表していた。
 言葉は到って静かだが、青葉の体からは言葉とは裏腹に魔力が奔っていた。
 その魔力は、殺意の塊のような闘志も見え隠れしていたほど。

「残念ながら、その問いに答えることは出来ない。
 世界一の美男子たるはミステリアスなれ、と教わった・・・・からな」

 自信満々という表現がぴったりなほど、胸を張ってそう言い切る彼。
 だが、それはほんの一瞬の出来事に過ぎなかった。
 先ほどから傍観していた彼女を視界に捕らえ、表情を崩さずに本題を放つ。

「ケンオウの一人、美坂香里だな。聖剣を―――」
「ふぅ、何回言わせるのよ。いい? 私は、聖剣なんて、知らない。
 それに、剣のことなら“剣王”に訊くのが筋でしょう」
「あぁ、確かにそれは正論だな。でも、聖剣の魔力感知したとき、剣王は花遠に居なかったのさ。
 つまり、花遠で聖剣を所持しているのは、剣王じゃない」

 彼女――――美坂香里は考える。
 青葉たちも、この彼も、一体何を探しているのだと。
 聖剣と彼らは簡単に言ってくれるが、それがどんなモノであるかなど香里は全く知らない。

 香里は知らない、聖剣がどのような意味を持つのかを。
 香里は知らない、聖剣がこれまでに彼女に関わっていたことを。
 香里は知らない、聖剣がどのような未来を導くのかを。
 香里は知らない、聖剣がこれからも彼女に関わるということを。

 だが、彼は香里の言葉を欠片ほども信じてなかった。

「月並みだけど、素直に喋ったほうが身のためだぞ。賢王のように殺されたくなければな・・・・・・・・・・・・・・・・

 香里だけではない。
 青葉と春花も、その言葉を理解するのにある程度の時間を要した。
 賢王とは剣王や拳王と共に名高い強者で、花遠が誇る三大ケンオウの一人だ。
 その賢王が、目の前の男に殺された………?
 まるで虫を殺したかのように、何でもないように口に出たその言葉は真実なのだろうか。

 香里は真偽を確かめようとするが、声が出ない。
 咽喉に異物が詰まったように、口を開けても喋ることが出来ない。

 コンコン―――ッ

 「「「「………!?」」」」

 予想外の方向。
 香里、青葉、春花、謎の男らが向かい合っている闘技場だった空間の中央に集まっていた視線。
 四者八瞳が、一斉にそちら≠ノ集束する。
 ………何時の間にか開かれた扉をノックしている男のほうに。

「………………あ、相沢………くん?」
「………よぉ、香里。こんなところで会うなんて偶然だな」

 自分で気付かせておいて、偶然とは…。
 街中で偶然会ったような雰囲気を醸し出している相沢という名の男。
 子供のようにおどけて極上の笑みを浮かべている相沢は、香里と世間話を始めるように言う。
 闘技場内を見渡し、

「おいおい、今日は随分と鍛錬熱心なヤツが多いな。さっきも隣の闘技場へやで天野がやってたし」
「………ぇ」
「流石、花遠最強を誇るケンオウたちだ。
 しかも、香里は――――――遠征試合までやってらっしゃるようで」

 一泊置いて、相沢はそう言った。
 ニヤついた瞳と唇が捉えていたのは、青葉と春花。
 そんな二人の反応を見ることなく、相沢は扉に寄り掛かっていた背中を起こして、足を進める。
 口をパクパクさせて未だ動揺している香里と、じっと凝視してくる男を無視して…。
 相沢の手には魔術師特有な木彫りの杖を握り締めている。
 模範的なローブを身に纏い、香里の隣に着く。

「へー、【滅火ほろびの青葉】と【風卦ふうかの春花】のお二人とは、【高屋敷】も随分と大層なことで」

 言葉に感情を込めず、棒読みのように淡々と語る相沢。
 相手の出方を待つような物言いは、謎の男と似ている部分があるようだ。
 武具である杖を玩具のようにくるくると回しながら、楽しそうにしている。

「……………貴様、良い情報筋を持ってるようだな」

 相沢の視界に入ってないことが気に食わないのか、男が口を挟む。
 一歩足を踏み出して、無理矢理自分を気付かせたように見えたのは気のせいなのだろうか。

「………………そうでもないさ。おたく≠フ情報網に比べたらまだまだだ。
 な、そうだろ―――――――――【倭庵】の斬り込み隊長・折原浩平」
「………………………貴様、要注意人物だな」

 言葉が言い終わると同時に、タンッという踏み込みの音。
 折原の手足が、封を解除した獣のように素早く動く。
 異常と思える、一歩目の踏み込みから最高速に乗り、両の手は鞘と柄に収まる。
 上体を倒したまま前傾姿勢で迫る折原は、まるで一匹の人喰い虎。
 腰に秘めた剣という、猛威な爪牙を抜き身で振り被るケモノ。
 そして、無音で黒の剣が抜かれた。



 ――――――倭庵壱式わんいちしき抜刀術之参ばっとうじゅつのさん弐月ふたつき



 光のような一閃。
 居合腰から抜かれた鞘走りの速度は、異常の他ありえない。
 一足の間合いで、右足を踏み込んだ瞬間の抜刀。
 剣閃は柔らかな弧月を描き、斜め下から掬い上げるように剣が迫る。
 ――――右斬り上げ。

 低く唸り、風を斬る。
 だが、風しか斬れない。

 剣閃が見えていたのか、踵で床を蹴り、後ろに下がった相沢。
 間合いを逃れ、反撃とばかりに杖を上空に掲げて何かの詠唱に入る。
 詠唱とは、魔術を行使する前の事前作業(きまりごと)のようなものである。
 相沢の両肩に魔力の光がポワンと小さく灯る。
 ローブの上からある肩当は、魔力増幅器の効果がある魔防具のようだ。


 ――――――シッ!


 空を斬った折原の剣は、勢いを殺すことなく斜め上まで振り切られる。
 瞬間、流れるように踏み込む左足。
 それは、広まった相沢との間合いを再び狭める。
 相沢に引き寄せられるように吸い込まれる折原。
 振り切った右手首を螺子を回すように回転し、剣の切っ先を天空へと構える。
 更にもう一歩踏み込む。
 氷上を滑るような体重移動は、推進力を相乗させる。
 鞘を固定していた片手を柄へ、剣を両手で持ち構える。


 ――――――ブウウゥゥンッ!


 唐竹割り。
 両手で持たれた斬撃は、相沢の脳天向けて打ち放たれた。


 キィィィ――――ィィン!!


「ぇ――――」

 誰かの声。
 甲高い金属音が鳴り響き、隔壁に木霊した音と共に、誰かの唖然した声が聞こえた。
 その声は誰か一人の声ではなく、複数の声だったのかも知れない。

 真っ二つに唐竹割りの折原と、抉るような刺突体勢の相沢の武具。
 自身の唇のように反った刃と、原始的な木彫りの杖を鋼鉄化した魔力光がぶつかり合っている。
 それは、同じ力が相反する方向へ向き、その威力はまさに同威。
 姿形は違えど鏡を映したように二人の力は同一――――拮抗状態である。



















 目の前にいる男は一体誰なのだろう。
 放心状態の私は、たった一つ、それだけを考えていた。
 いつも通りのお調子者で、何を考えてるかわからない。
 それは、わかる。
 わかるけど、何か違和感を感じる。
 いつもと同じはずなのに、そうじゃない。
 どこか、違う。
 なにか、おかしい。
 そう思わざるを得ない理由は一体何なんだろう。
 自分で解かっているはずなのに、そう自問する。

 ――――――賢王に匹敵するほどの魔力。

 そう。
 違和感の正体を一番良く解かるのが、彼の魔力だ。
 一瞬感じたその魔力は、私が良く知る賢王の魔力と同じほどだったのだ。

 違う。
 全然違う。
 以前、学生総勢の武闘魔術大会で見たときとは全く違う。
 あんな嫌悪感を憶える笑みなど見たことないし、何より違うのは一瞬感じた魔力。
 あれが、大会では勝率二割を切るほどの男だというの!?
 ………違う、そんなことあるわけがない。


 キィィィ――――ィィン!!


 耳障りなほど高い音。
 剣に対抗するために魔力で固めた木彫りの杖で合わせた彼。
 それ≠セって私との闘いで使ったことないのに…!

「………なん………なのよ」

 つまりはそういうこと?
 私は手加減されてたってわけ?
 真剣に技術を高めていた私たちを、遠くから嘲笑ってたってこと?

 明らかに彼は手加減していた。
 私たち相手には手を抜いていた。
 目の前の事実は、何よりの真実で、嫌でもそれを認識せざるを得なかった。

 そう。
 私は騙されたのだ。
 拳王などと持て囃されていた私は、身近だった彼の本当のレヴェルがわからなかったのだ。
 自分でも思う――――――なんて、無様。

「………魔術師風情が《弐月これ》に対応できるなんて………貴様、何者だ」

 支点は現状を維持して、回転させ杖を真横に弾いて、折原。
 弾くというよりは、横に薙いだというほうが正しいかも。
 彼はというと、弾かれて後ろによろめいた体を支えた。
 杖を下ろして地面をカツンと鳴らす。
 彼の口元には、子供のような無邪気な微笑みがある。
 ………やっぱり、違う。

「弐月、か。でもそれ……」

 弐月。
 傍目の私からでも、目視することが危うかった。
 ケンオウでも随一の動体視力を持つ私でも、ギリギリだった。
 それくらい今のは、凄まじい速度の連撃。
 たぶん今のは、

「――――二段斬り、若しくは斬り返し………だろ」

 そう。
 上体を一切揺らさない走りから抜刀して、捻るような斬り上げ。
 そこから伸び切った筋肉を更に駆使して、真逆へ叩き下ろす唐竹割り。
 その一連の動作を、折原という男は異常とも思えるほどの速度でやってのけたのだ。

「先≠ェ解かっているんだ。それに合わせて手を封じるのが容易いのは道理、だろ?」
「貴様ァ…!」

 簡単に言ってくれる。
 唐竹割りの速度に合わせて、自分の刺突を合わせるなんて、彼はバケモノなの…?
 普通そんなこと出来ないし、やろうとも思うはずがない。

 ――――――ありえない。

 絶対に成功するという仮定がなければ、そんなもの博打と同じよ。
 ………………いや、それは言い訳か。
 一対一であろうと多対一であろうと、戦闘において駈け引きは常に存在する。
 時には分がない賭けに出ることもある。
 だから………闘いと博打は同じであり、それでいて全く違う。
 なんて奇妙な位置バランス。

「つまり、貴様には一連の剣閃が解かっていたというのか?」
「イエス」
「な、なんで……」
「一回見た技なんだ。そうそう難しくは感じない」

 ………………ぇ、一回見た技?
 彼の言葉が弾き金になったのか、折原の顔が次第に険しくなる。
 ゆっくり、ゆっくり、とその顔は彼の言いたいことを理解するよう。
 辿り着いた答えに納得し、「ふっ」と軽く鼻で笑う。

「そ、俺はその技を一度見てるのさ」
「………はは、こいつはミスったぜ。
 あのとき“俺ら”以外の気配なんて感じなかったもんだからな」
「ふふっ……………」

 何だろう。
 彼のその笑みが、酷く怖い。
 言葉を乗せた音が、冷風を吹きつけるように、寒い。
 肩から指先、更には背中まで寒気が走る。

 彼は、誰?
 貴方は、誰?
 私には、彼という殻を借りた悪魔が、言葉を放っているように見える。

「ってことは、俺の《気殺けさつ》もまぁまぁだな」
「ふん。随分と冷徹な魔術師なんだな」
「………冷徹?」
「あの場に居たのなら、貴様は賢王を見殺しにしたということだろ。違うか?」

 な――――っ!
 そ、それって………どういうことよ!!

「ちょ、ちょっと相ざ――――」
「は、ははははっ、、、ははは、、あははははは………」

 な、何なのよ…。
 腹部を押さえ、狂ったように笑い出す彼。
 その姿からして尋常じゃない光景のことが解かる。
 どういうことか訊こうと詰め寄る、その一歩手前で私の足は動かなくなった。

 久々に人間相手にその感情を憶えた。
 本当に心臓が煩いくらい警告を鳴らしていることで、思い出した。

 ――――――怖い。

 人が怖い。
 他の動物と違い、感情の起伏が一番顔に出る生物だからこそ、怖い。
 怒気や殺気を全く感じない彼が、何よりも怖かった。

「折原」

 怖かった。
 突然叫ぶような笑い声を止めた、それが恐怖。
 物静かに発した、澄んだ掛け声は繋がらない。
 彼の行動は、まるで出鱈目な順序で物語が進む御伽話。
 支離滅裂。

「俺は魔術師だ。魔術を専門としている。つまり、だ」
「………………ち」
「そういうこと。治癒魔術くらい朝飯前さ」
「………あー」

 頭をガシガシと掻き毟る、折原。
 勝負事に負けて悔しそうに顔を崩している。

「全ては貴様の思惑通り、ってことか」
「ん?どういうことだ?」
「惚けても無駄だ。まさか賢王すら偵察の駒にしてしまうなんてな」

 その視線は磨かれた刃のように鋭く彼を捉えていた。
 滲み出る怒りを細めた瞳でぶつけ、苛立っているのが解かる。
 彼の取った判断に少なからず畏怖の念を感じる。
 おそらく信じられないのだろう。
 それは、こうして傍目で見ている私もそう。

「ふふ………」

 信じられない。
 その低く木霊する声が、閉鎖された私たちの世界を圧迫する。
 呟いたほどの言葉に内包される危険分子が、私たちを恐怖の鎖で束縛する。
 普段の彼とはまるで別人格と思えるほどの、仕草や行動が恐ろしい。

「酷い言われようだな」

 信じられない。
 何一つ確証がない折原の言葉が、とてもじゃないけど真実にしか思えない。
 花遠が誇る賢王すら手玉に取って、敵の戦力を計ろうと取ったその大胆さ。
 何もかも全て嘘に思えて、でもそれは決して嘘じゃない。

「な、そう思わないか?」

「――――――賛同し兼ねますね」

 凛とした声。
 扉に立っていたのは、苦しそうに息を吐いて、歪んだ目元に呼応している荒い呼吸の女性。
 小さい体を大きく上下させて、こちらを見ている女性は、



「―――――――――賢王・天野美汐ッ!?」



 生きている。そのことが安堵感を強くさせた。

「貴方の性格は実に最悪だと、ここに告げておきます」
「……………くくっ、こいつは手厳しいな」

 確信犯。
 そう思う他になかった。
 彼の性格は、一体何が真実だというのか。
 何より、私の知っている彼は本当に【相沢祐一】なのだろうか。

 パチパチ。

「………………ふふ、余興にしてはそれなりに楽しませて貰ったわ」
「高屋敷、青葉」
「相沢………と言ったかしら。アナタ、拳王より強いのかしら」
「そうねー。アイなら知ってるかもね」

 アイって相沢くんの、相をなぞったアイのことよね。

「………知ってる?何を?」
「十聖剣の内の一本」
「花遠にあるはずなんだけどなー」

 そうだった。
 彼らの目的は、それだった。
 聖剣――――と呼ばれる、形状が不明な剣のこと。
 生まれてからずっと花遠で住んでいる私が知らないのに、彼が知っているはずがない。
 つい三ヶ月ほど前に引越してきた彼に、わかるはずがない。
 未知のモノでおそらく予想でしかないが、おそらく聖剣とは祀り物だろう。
 祠や神社に供えるための剣のように、装飾剣だと私は思う。
 殺傷能力を考えず、純粋に見るためだけの剣。

 私は、そう思う。





 でも、彼の答えは、
















「――――――あぁ、知ってるぜ。聖剣の在り処も、これから起こる聖剣戦争の行方すらもな」










 あとがき

 聖剣戦争はFateの聖杯戦争のパクリじゃないです。
 かなり昔の漫画に実際使われた言葉です。
 ケンオウの名前の引用は、わかる人にはわかる漫画『ロトの紋章』です。

 家族計画のキャラを使ったのは、滅多にないことでしょう。
 何か他にも登場させて欲しいキャラがいたら、どうぞメールか掲示板に。
 “出来る限り”採用したいと思います。
 と言っても、所詮私のSSですから読んでる方はあまりいないと思いますが(苦笑
 主人公の祐一は結構暗躍しますので、それが嫌だという方は今後気をつけたほうがいいかと。
 香里と美汐のみ登場させたのにはきちんとした理由があります。
 それは次回を読めばわかると思います。

 超不定期連載ということで、私にも続くかどうか未定。
 や、続きもきちんと考えてありますが、時間の都合上難しいです。

 最後に。
 これは思いつきと勢いで出来ていて、あまり構想を練っていません。
 どうかそれを考慮した上で、感想や技術的指摘をくだされば嬉しいです。



 ――――――以下、設定や解説。

セキシ

 古に伝わる武術と魔術の混合戦術の内の一つで、現代に伝わる総合戦術の源流だと言われている。
 ただ、その扱いは非常に困難で、現在伝承者はほとんどいないと言われている。
 《セキシ》という詞≠ナそれは発動し、両腕に炎のような真紅の魔力光を纏う。
 赤腕に全魔力を篭めた拳でぶん殴る《ケン》の他に、《セン》や《エン》などの詞≠ェ存在する。
 血のような赤は、まるで血を啜り好む吸血鬼のようで、見る者の魔力を奪い取る作用も持っている。
 奪う魔力は術者の魔力次第に比例するが、現段階の香里ではそれは微々たるものに過ぎない。

 セキシの正式名称は、記されていた古き書物によると、擦れて読めるものではなかった。
 よって、極一部の間で、『赤を見たら死ぬ』という意味で『赤死』や『赤屍』などと言われている。
 だが、真名は……………。



花遠

 冬以外にもこの地には雪が降り積もり、花が咲き難いことからこの名が付けられた。
 そんな【花遠き国】の王国騎士団に匹敵するほどの能力の持ち主が、養成学校の三大『ケンオウ』である。
 一人、一刀剣技に長ける剣王・川澄舞。
 一人、格闘技に長ける拳王・美坂香里。
 一人、総合魔術に長ける賢王・天野美汐。
 まだ王国騎士団の精鋭とは、年齢の差からくる経験の差があるが、間違いなく同年代では花遠最強。



倭庵

 古代から閉鎖的で、古来から現代まで途絶えることなく受け継がれている戦術が存在している。
 『両刃の剣』ではなく『片刃の刀』を主に用い、他の国には無い鞘≠ウえも攻撃手段に成り得る。
 神々が行使していた『仙術』に限りなく近い術を、現代で使える唯一つの国。
 花遠にも負けないほど素晴らしい能力を持ち得るのが、倭庵が誇る精鋭部隊・四峰(しほう)である。
 四つの高み、の意味から倭庵では最強の四人がその座に鎮座している。
 補足として、【折原浩平】はまだ四峰の座には少し遠い能力である。



高屋敷

 長年歴史ある国でもなく、あまりその全貌は明らかになってはいない。
 ただ、ここ数年で急成長した国の一つである。
 現在の状況では、何一つわかっていることはない。
 ………だが、どうやら精鋭部隊の皆に共通して言えることは、何か重い事情があるようだ。
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