Fate/snow night 雪降る街の幻想曲





二章 英霊との契約





[Interlude1−2]




彼は新都をひた走っていた。時刻は十時過ぎ。今の時期、この時間には新都は人通りがほとんどな

くなる。

いつもの事だ、と彼は思っていた。少々予定外だが夜食の買出しを済ませ、家族の待っている家へ

と帰り、風呂で一日の疲れを落とし、ベッドで溜まっている小説を読みながら眠りにつく。今日と

言う一日はそれで終わると信じていた。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……!」


だが、その幻想ユメはあっさりと打ち砕かれた。家へと帰る道を辿っていると、不意に近くに人の気配

を感じた。それだけならば別に気にする必要はないのだが、その一つが悲鳴ともなれば別だ。


(……まさか、例の通り魔じゃないだろうな?)


ゆっくりと悲鳴がした方向へと歩いていく。もし通り魔ならば、自分に危険が及ぶかもしれない。

しかし、このまま見て見ぬ振りなど出来よう筈もない。それが、こんな状況を引き起こした。

そこには女が二人いた。一人は普通に立っているが、もう一人は……地面に倒れ伏しピクリとも動

かない。

――――それに、背筋が凍る。立っている女を見た瞬間、彼は心のうちに際限のない恐怖を覚えた。

逃げろ、一秒でも早くこの場から逃げろ。即刻この場を離れ日常へと去れ。彼は本能に従い、その

場を後にし――


「……」


その視線を受け、今度こそ本当に凍りついた。ゆっくりと女が自分に向かって歩いてくる。

―――よくよく見れば、その異常さに気が付く。目を黒い眼帯で覆い隠し、露出度の高い服を纏い

紫色の長髪を揺らしながら彼に近付く。そして何より、眼帯で顔の半分を覆っているとはいえその

姿は美しい――その一言に尽きた。


「貴方が近づいてきていたのは分かっていましたが、もし何も見ずに立ち去れば見逃してあげたの

に。不運な人ですね」


口元を笑みの形に歪めながら、その女は喋る。彼女が身に纏う殺気がなければ彼はその虜になって

いただろう。



ジャラララララ……



鎖を引き摺るような音が聞こえ、彼女の手に釘のような形の短剣が現れる。月光の輝きにより鋭利

に輝く凶器に殺気が篭る。彼は持っていた荷物を投げ捨て、悲鳴を上げて逃げ出した。

何故、今日に限ってこんな目に……!

何故、今日自分はここにいる。家にいればこんな事にはならなかったのに……!

後ろからゆっくりと追いかけてくる気配を感じながらメビウスの輪のように思考がループする。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…………!」


息が続かない。肺が空気を欲している。足が悲鳴を上げている。これ以上の酷使は止めろ。すぐに

止まれ。脳がそう命令を下す。

停止。停止。停止停止停止停止停止停止停止停止停止停止停止停止停止停止停止停止停止停止停止

停止停止………却下。


「止まれるわけが無いだろう……!」


今止まれば、間違いなく■■れる。気配はまだ追ってきている。あれは人じゃない。相手がその気

になれば自分なんて容易く『殺』せる。

今はまだ見逃してもらっている。あれはまだ本気で自分を殺そうとはしていない。恐怖が心を支配

して、『死にたくない』という生存本能だけが働き走っている。


「――――っあ!?」


足が縺れ、無様に地面に転がる。立ち上がろうとするが、膝が笑って立ち上がることが出来ない。

駄目だ。死ぬ。自分は間違いなくここで死ぬ。生き残れない。確実な死。絶望的な死。完全

な死。完膚なきまでの死。嫌だ、死にたくない。



「あ……」


上を見上げると『人でないもの』が手に何かを持って立っている。彼は『それ』を美しいと感じた。

とても人間では決して辿り着くことのできない『美』を持っていた。『それ』は手に持っている短

剣を振り上げる。


「良く逃げました。ですが、お別れです」


あぁ、死んだな。死を覚悟し、彼は目を閉じた。シュッっという、風を切る音が聞こえてくる。次

の瞬間にはあの凶器によって自分の体は貫かれ、血を流し苦痛と恐怖の中で死を迎えるのだろう。

死ぬのなら、最後まで生を全うして死にたかった。そんな叶いもしない望みを抱きながら彼は最後

の瞬間を待つ。

――――しかし、そんな彼の微かな望みを叶える存在が現れた。



ガキィィィィィィン!!!



金属同士がぶつかりあう音が真上で聴こえた。彼は恐る恐る目を開く。そこには……


「ふぅ、まさかお前だったとはな。久瀬」


聞き覚えのある声と背中……。


「あ、相沢君!?」


彼……久瀬博次のクラスメイト―――そして日常から尤も外れている魔術師、相沢祐一が手にナイ

フを持って女の武器を防いでいた。



[Interlude out]



「ふぅ、まさかお前だったとはな。久瀬」


「あ、相沢君!?」


驚きの声が背後の久瀬から聞こえてくる。だけど、今は後ろに振り返る訳にはいかない。目の前に

立つ、得体の知れない人間から目を離せば死ぬと俺の勘がそう訴えかけていた。

いや、この気配は人間とは違う。溢れ出ている魔力、殺気……人間とは比べ物にならないほど大き

く、恐ろしい。何より、奴から漂う血の匂いが怒りを誘う。


「久瀬、一体何があった?」


互いに睨み合いながら――向こうは眼帯のような物を目の辺りに巻いているから一方的に睨みつけ

ているとも言うが――俺は久瀬に事の状況を訊く。


「わ、分からない。ただ、僕は人の悲鳴が聞こえてそれを確認しに行ったら、アイツの傍で、女の

人が倒れているのを、見たんだ。何があったのかは見て、ない……」


恐怖と今まで走ってきて体力の限界だったのか、久瀬は苦しそうにそう答えた。と言う事は、その

女の人は今もそこに倒れているのか?


「一体、何の為にその人を襲った!?」


「……理由を言うならば、『食事』でしょうか。尤も、これは自分の意志ではないのですが」


淡々と、感情の起伏も見せずに答えた。それがさらに気に触る。『七ツ夜』を握る右手に力が入る。


「お前、死徒の類か?」


退魔衝動の反応が鈍い。だが、目の前の奴は死徒……それ以上の強さを秘めている。それだけは分

かる。


「残念ながら『血を吸う』と言う事柄だけは当たっていますが、生憎と私は死徒の類ではない」


死徒じゃないのか……。それでも、奴が脅威であるのは変わらない。感覚がシャープになり、冷や

汗が背中に流れるのが手に取るように分かる。それと共に、目の前に相対する異形に対する恐怖が

全身を支配し、体が竦みそうになる。


(落ち着け……)


心の中で落ち着くように自らを促す。こんな事はここに来るまで日常だった筈だ。死に掛けた事も

何度もあった。それが、また命を懸ける戦いをする時になって怖くなっただと? ……は、そうだ

としたら俺もこっちにきて弛んでる証拠だな。情けないぞ、相沢祐一。

自らを鼓舞するように心中で自分を侮辱する言葉を吐く。それにより、多少は恐怖は和らぐ。


「…久瀬、下手に動くなよ。死ぬぞ」


「…わ、分かった……」


背後でしりもちをついている久瀬に注意を促す。久瀬を庇いながらの戦いか、言っちゃ悪いが久瀬

がかなり俺にとっての足掛かりになるな。くそ、戦いづらい。

俺の心中なぞ察する事も無く、奴は微笑を浮かべている。それが酷く美しく感じ、それと同時に悪

寒が全身を駆け巡った。


「しかし、魔術師。貴方に恐怖はないのですか?」


「……何?」


思いも寄らない言葉が奴から発せられ、俺は思わず訊き返した。そこには侮蔑も嘲笑もなく、ただ

本当に疑問に思っているといった感情が込められていた。纏っていた殺気も、今は消えている。

俺に恐怖がないのか、だって……? 変な事を訊いてくる奴だな。


「そんなの、あるに決まってるだろう。今だって、本当は怖いさ。俺だけじゃなく、魔術師だろう

が誰だろうが恐怖なんて克服できる奴はいない。感情っていうものが抜け落ちていない限りな」


「……貴方は面白い魔術師ですね。そのような考えの魔術師は珍しい」


生憎と、俺は魔術師じゃなく退魔師なんだけどな。口に出さず、心の内で反論してみる。軽い微笑

を浮かべていた奴も、その笑みを消し再び殺気を身に纏う。

俺も右腕に短刀『七ツ夜』、左腕に無銘の小太刀を構える。いざとなれば、眼の『封印』を解除せ

ざるを得ないか……。


「一つ訊きます。……貴方の名は?」


「相沢祐一。それと、人に名を聞く場合は自分から名乗るのが礼儀だと思うが?」


多少の皮肉と嫌味を言葉に込めて殺気を放つ女へと問いかける。


「それは失礼を。しかし、生憎と私の真の名は教えられないのです。故に、私の事はライダーと」


「ライ、ダー……?」


ライダー……だと? まさか、聖杯戦争の役割クラス……!


「お前、もしかしてサーヴァントか!?」


「えぇ、この身はサーヴァントとして現世に存在しています」


くっ……最近の冬木市を包み込んでいた大源マナの異常の原因は聖杯戦争の始まりのせいだったのか…

…! それなら、奴……ライダーから感じる魔力の残痕の強力さに納得がいく。

しかし、聖杯戦争は十年前に終結したばかりの筈なのに、こんなにも早く始まるなんて予想もして

なかった。サーヴァントと戦って正直、勝つ自信どころか生き残れるか分からない。今まで死徒や

死者、死と隣り合わせの殺し合いを多く経験しているが、今回ばかりはやばいかもしれないな……。


「聖杯戦争が始まっていたとはな……。と言う事は、最近の不可解な事件は全部『こちら側』関連

だった訳か」


「そのようですね。私自身は詳しくは知りませんが」


いや、まぁ過去の英雄である英霊がテレビを見ているってのも想像しにくいが……。少し想像して

笑いそうになってしまった。


「少々貴方を殺すのは残念ですね。貴方が私のマスターであったならば、この聖杯戦争ももう少し

楽しめたでしょうに」


「そりゃどうも……。だけどな、俺は無抵抗に殺されるつもりは毛頭ないぞ。第一、こんな所で死

ぬ気はさらさらないしな」


目の前にいるのは世界の抑止力である英霊を擬似的に現世へと繋ぎとめ、一種の使い魔……サーヴ

ァントとして存在している英霊そのものだ。

そんな化け物に、人間が太刀打ちできる訳が無い。だけど、このまま何もせずに殺されるのはごめ

んだ。それに、人間が英霊に勝てないなんて道理は無い筈。


「…くす。今日は幸運な日のようですね、貴方のような極上の獲物に会えるとは。処女や純粋な少

女の血も非常に美味ですが、貴方みたいな……猛々しく真っ直ぐな瞳をした青年の血もそれに負け

ないほど美味ですから」


目の前に俺と言う獲物を見て、舌なめずりするライダー。酷く淫猥で、酷く自らの内に潜む三大欲

求の一つ、性欲を刺激されるような動作だ。


「あんたみたいな美人にデートでも誘われれば嬉しいんだけど、血を吸われるのだけは勘弁しても

らいたいな……っ!」


言葉と共に疾走する。さぁ、いきなりの正念場だ。相手は人間では太刀打ちできないとされる英霊。

対してこっちは魔術師もどきの人間だ。戦局としては圧倒的に分が悪い。

だけど、生憎と俺は通常の魔術師とは違って魔術じゃなく自分の肉体で戦う方なんでな。負けるつ

もりはかけらほどにもない……!



[Interlude1−3]



それは、誰から見てもありえない光景であった。

本来、サーヴァントとは過去の英雄……即ち、世界と契約し英霊となった昔の人間を第一級クラス

の使い魔として召還している。その土地でその英雄の知名度が高ければ高いほど、その能力は上が

り、筋力・耐久・敏捷・魔力・幸運のランクも上がる。例え、あまり知られていない英雄だとして

もその身体能力は人間の比にならない。故に、人間である限り英霊を打倒する事は出来ない。


だが――――今、この場で行われている光景はそれを一蹴、当然と言われてきた事柄を大きく覆し

ていた。


「ふっ!」


チャジジジジンッ!



聖杯戦争の七騎の内の一人、騎乗兵の意味の名を持つサーヴァント、ライダー。スピードでは実質

槍の騎士・ランサーと同等の能力を持っていると言っても過言ではない。

かつての聖杯戦争では、上位三騎士……即ち、剣の騎士・セイバー、弓の騎士・アーチャー、槍の

騎士・ランサーを引いた者が勝利したと言うが、決して他のサーヴァントが弱いわけではない。中

には最強のサーヴァントとも言われるセイバーを退けた者もいる。

結局は、最終的に決まるのは実力。その英雄の強さなのだ。人間の魔術師がサーヴァントを相手に

しろと言われれば、誰もが即答で拒否するだろう。

もし、時計塔の魔術師達がこの光景を目にすれば、あまりの非現実的さ――自分達魔術師も十分に

非現実的ではあるが――に卒倒するか、サーヴァントと戦っている彼……相沢祐一を捕縛し実験材

料……運が悪ければホルマリン漬けにしている。それだけ、新都という日常の象徴のような場所で

非現実的な殺し合いが行われているのだ。


「ふっ……!」


短い呼吸と共に、ライダーが無銘の短剣を投擲する。鎖で繋がれたそれはライダーの意志に従い祐

一の肉体を貫かんとせんと迫っていく。

だが、その飛来する短剣――形状は釘といった方がしっくりくる――を右手に持った銘を『七ツ夜』

と言う短刀で弾き飛ばす。その際に衝撃で右手に痛みが走るが、その痛覚が唱える警告を無視し凡

そ常人とは思えないほどのスピードでライダーへと接近する。


「その首、貰い受ける……!」


「……甘いっ!」


正確に自らの首を狙ってきた祐一にライダーは軽い驚嘆を覚えたが、仮にも今の自分は英霊。そう

簡単に人間にやられる訳が無い。己と短剣を結ぶ鎖で首を狙う短刀を防ぎ、祐一にカウンターを返

す。


「くっ……!」


紙一重でそれを躱し、ライダーを蹴飛ばす事によって間合いを離す。しかし、そこに弾き飛ばした

ライダーの短剣が襲い掛かる。鎖を引いて短剣を祐一の逃げる方向へと飛ばしたのだ。

背後から祐一目掛けて短剣が迫る。それを離れた場所から見ていた久瀬はもう駄目だ、と思った。

声を上げれば、間に合うかもしれない。だが、先程まで必死で逃げていたのと恐怖により声を上げ

るのすらままならない。

自分の目の前で人が死ぬ。まさか自分がそれを体験するとは思わなかった。しかも、親しい友人が

得体の知れない異形によって。


(倉田さんや、川澄さん達が悲しむだろうな……。僕も死んだら、悲しんでもらえるだろうか)


漠然と、そんな事を思った。きっと優しい彼女達の事だ、関係ない人が死んだとしても悲しんで

しまうだろう。


「させるかっ!」


高速で飛来する短剣を祐一は左手に持つ短刀より少し長い、所謂小太刀で振り向きもせず弾き返

した。卓越した気配感知と異常な身体能力を保有する祐一であるから出来る人間業である。

だが、祐一の持つ『七ツ夜』とは強度が違いすぎたのか小太刀は刃の部分から真っ二つに折れて

しまった。


(ゼルレッチ爺さんの攻撃で慣れさせられて良かった……)


本人はこんな事を心中で思っていたのだが。即座に意識を目の前のライダーへと戻し、折れた小

太刀を破棄し瞬時にライダーへと疾走する。人間離れしたスピードで接近してくる祐一の姿を見

て、ライダーは冷静に思考し上半身を低く下げる。


(魔術師なのに魔術を使わず体で戦うとは……魔術師ではなく退魔師でしたか。読み違えました

ね)


近付いてくる祐一の姿勢がライダーと同じほどに低くなる。


(迂闊な……人間の身であの低姿勢では体勢を立て直すのは……!?)


―閃鞘・七夜―

その低姿勢からさらに加速し、触れ合う寸前まで近付き手に持つ短刀で鋭い斬撃を放つ。予想外

の速度で接近され、ライダーは一瞬驚くが体は反射的に回避行動を取っていた。祐一は先程いた

場所と正反対の場所で停止する。


(やっぱ、『七夜』で仕留められるわけがないか)


(今のが人間の出すスピードですか……!? どうやら、甘く見ていたのはこっちのようですね)


祐一は舌打ちし、ライダーは今一度相手を甘く見ていたと己を叱咤し、完全のその身からは油断

は消え纏う殺気も鋭くなった。それを感じた祐一は苦虫を噛み潰した表情をする。


(くそ、多少残ってた隙も消えてやがる……。ますます負ける要因が増えたじゃねぇか)


先程の一撃で決められなかった祐一の落ち度である。次から放たれた一撃は、最初に放たれた一

撃よりも速度、威力、殺気全てが段違いである。それらを傍から見れば軽く……しかし本人には

全てぎりぎりで打ち落としている。

もう既に剣戟は三十を超えていた。それを彼……久瀬は祐一達の丁度二、三m程離れた場所で呆

然と見ている。


「な、何なんだ一体……」


久瀬には目の前に広がる光景が信じられなかった。どう見ても現実とは思えない。この二人は自

分達、人≠ニ言う枠から大きくかけ離れている。久瀬はそう直感した。


「しっ!」


攻撃が止んだ一瞬をついて、疾る。鎖を引き短剣を引き戻して、ライダーは祐一の攻撃に備える。

そのまま直進してくるかと思われたが、ライダーを射程内に捉えた間合いに辿り着くと同時に、

祐一の体が浮き上がった。

―閃鞘・八穿―



キィィィィィィィィィン!!



耳障りな音を立てて短刀『七ツ夜』と無銘の短剣が触れ合う。滞空している祐一に向かってライ

ダーは手を伸ばし脚を掴んだ。


「くっ、しま……!」


引き剥がそうとするが、その細腕には似合わないほどの怪力で脚を掴まれなす術も無い。その状

態の祐一をライダーは久瀬のいる方向へと投げつけた。

ドン、と地面へと激突する音が聞こえる。体から落ちたと思われた祐一だが、空中で体を捻り前

傾体勢で着地していた。即座に立ち上がりきっ、と前方を睨みつける。


「本当に人間ですか……? 酷なようですが、これで終わらせます」


顔の上半分を覆う眼帯を取り外す。そこから覗くのは四角形をした眼……祐一は瞬時にあれがと

てつもなく危険なものだと理解した。


「久瀬! 死にたくなければ奴の目を見るな!」


祐一が切羽詰った声で叫ぶ。これが普通の思考の持ち主ならば反射的に目を見てしまうが彼は冷

静な思考の持ち主であった為、すぐさま目を閉じた。そのまま後ろに後ずさろうとする。

だが……


(なっ、体が動かない……!?)


彼の体はまったくいう事を聞かなかった。足はもちろん、腕から指先まで動かす事が出来ない。

自分がこう言う状態ならば、祐一はどうなっているのか。どうやら、目の開け閉めだけは可能ら

しく、彼は目を開けて祐一を見た。


「相沢…君」


――――そこには、脚を石にした祐一がいた。比喩ではなく、本当に石になっているのだ。否、

脚だけではなくじわじわと石化が上へと進んでいる。


「くっ、石化の魔眼……! 厄介な……」


「この魔眼からは逃れられません。完全に石化する前に、私が貴方の命を狩り血を貰いましょう」


手に持った短剣を投げる。


ずぶ……。


生々しい音と共にそれが祐一の体に突き刺さる。からんと、祐一の手から『七ツ夜』が零れ落ち

た。


「相沢君!」


「ごほっ……」


吐血。地面が赤く染まっていく。祐一は呆然とそれを見ていた。

赤い。紅い。朱い、血。白い雪を真っ赤に染め上げる血。純白の様な白が、ゆっくりと赤く

染まっていく。

脳裏に今までの光景がフラッシュバックする。名雪。雪うさぎ。栞。スケッチブック。舞。

麦畑。真琴。ものみの丘。あゆ。天使の人形。秋子。家族。香里。涙。佐祐理。一弥。美

汐。妖狐。走馬灯のように今までの出来事、みんなの顔が消えていく。


(くそ……こんな所で、死んじまうのか……?)


体が冷える。死がじわじわと近付いてくるのが実感できる。さらに、自分の体が石になっていく。

ライダーがこちらへと近付いてくる。出血多量で死ぬか、石化して死ぬか、それとも血を吸われ

て死ぬか。祐一には三つの死しか残されていなかった。


(ちっくしょ……)


不甲斐ない自分を呪うように唸る。そんな祐一の真横を、何かが通り過ぎた。


(……え?)



ギャキィィィィィィィィィィィン!!



「くっ……何者!?」


「……答える義理などない!」


ライダーと、聞いた事のない男の声がし何合かの鬩ぎ合いの後、気配が一つ遠ざかっていった。

ガシャン、と祐一の正面で鋼が地面を打ち鳴らす音が止まった。


「……誰、だ?」


「……このままでは助からんか。少々辛いかもしれんが、私の言葉を復唱してくれ。そうすれば、

君を助ける事が出来る」


力強くも、どこか暖かい雰囲気を漂わせているその男の声に、祐一は素直に頷いた。


「告げる……汝が身は我が下に、我が命運は汝が槍に……」


男が言う、呪文の詠唱のような言葉……それを祐一は復唱していく。


「聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ……」


聖杯。その言葉を聞いた瞬間、祐一はこれがサーヴァントとの『再契約』の呪文である事に気付い

た。となれば、今祐一の目の前にいるのは聖杯戦争の七騎の内の一体。


「我と契約し……、我をマスターと認めるか?」


最後の言葉は、祐一の口から出た。それを聞いた男は手に持った槍を持ち直し、槍の矛先を地面へ

と突き刺す。


「我が名はランサー。我は汝の理に従い、ここに汝をマスターと認め契約しよう……!」


双方の体から魔力の猛りが溢れ出す。その魔力風を離れた場所にいた久瀬は正面から浴びた。自然

風とは違う……しかし、何が違うのかと言われれば戸惑うしかない魔力の風を一身に受け久瀬は堪

えきれず眼を閉じた。

祐一は自分の中から、とんでもない量の魔力が目の前の男……ランサーへと流れ込んでいくのが分

かった。


(ぐっ……このまま魔力を吸われ続けたら、お陀仏だぞ)


意識が遠くなる。ゆっくりと魔力の供給が止まった。息苦しさを感じなくなった祐一は、霞んでい

た眼の焦点を合わせ初めて自分と契約したランサーのサーヴァントの顔を見た。


「我はランサー。真名を戦神オーディン。これより我が槍は汝を護り、汝の敵を葬る事を誓おう」


これが、魔術師・相沢祐一とそのサーヴァント、ランサー……真名・戦神オーディンの聖杯戦争の

始まりであった。



[Interlude out]


つづく





人物情報が更新されました。


久瀬博次 十八歳 一般人
身長・体重 174cm 55kg
使用魔術  なし

備考
元生徒会長。舞の退学の事件の後、祐一、舞、佐祐理の三人を呼び出し自分のし
た事を謝罪してから、良き友人となる。地元の地方議員の息子だが、そんな自分
の肩書きを重荷に感じている。
成績は上の中ぐらい。生徒会長を柳洞一成に譲ってからは、気軽に高校生活を送
っている。




ステータス表が更新されました。


CLASS   ライダー
マスター   不明
真名   不明
性別   女
身長・体重   172cm  57kg
属性   混沌・善


筋力  C    魔力  B
耐久  E    幸運  D
敏捷  B    宝具  A+

クラス別能力
対魔力  B  魔術発動における詠唱が三節以下の魔術を無効化。
        大魔術・儀礼呪法を以ってしても、傷つけるのは困難。

騎乗   A  竜種・幻想種すら乗りこなす事が出来る。


保有スキル
魔眼   A  第一工程で発動可能な魔眼。石化の魔眼「キュベレイ」を持つ。

怪力   B  細腕に似合わぬほどの怪力を引き出す事が出来る。

宝具
不明



後書きと言う名の座談会


祐樹「登場したサーヴァント、人物の情報を随時更新していく事にしました」


祐一「おい、ランサーのステータスはどうした?」


祐樹「それは次回の最後に載せるつもりだ」


祐一「なるほど。で、この能力の説明の適当さはなんだ?」


祐樹「いや……今ゲームが出来ないから、自分なりに解釈して書いてみた」


祐一「……適当すぎじゃないか?」


祐樹「でも、それなりに説明はついているはずだ」


祐一「まぁ、お前がいいならいいが……」


祐樹「では、次回予告」


祐一「ランサーと契約した俺は、傷を癒してもらい久瀬を家に送り届ける」


祐樹「丁度その際、遠坂邸にてサーヴァントが召還される」


祐一「水瀬家へと辿り着いた俺は、秋子さんに聖杯戦争が起こっている事を告げる」


祐樹「姉の命を奪った殺し合いがまた始まり、甥が巻き込まれたことに悲しむ秋子」


祐一「次回、第三章お楽しみに」


SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送