2.



 どうする……早く決めないと名雪達が……。気ばかりが先走りし、考えが纏まらない。こうしている間にも、

着実に結界の力によって生徒達の体は魔力へと変換されていっているというのに。焦りが思考を鈍らせ、決断力

が失われていく。



「……俺は二階に行ってみる」



 迷い続ける俺の耳に、士郎の声が聴こえた。士郎が二階に行くって……、一人で行けば危険すぎる。士郎の肩

を掴んでそれを止める。



「迷ってる暇はないんだ……俺じゃ結界を破壊する事は出来ない。遠坂なら、この結界の基点を破壊して止める

事だって出来るはずだ」



 士郎の言う事は正論だ。今は残された時間はあまりにも少ない。遠坂が結界の基点を破壊できるのもそうだ。

でもそれだと士郎の身の危険が高すぎる。



「馬鹿言わないで。一人で行ったら、それこそ死ぬわよ」



「その時はセイバーを呼ぶさ。令呪を使えば出来るんだろ? 使い方、教えてくれ」



 頑として譲らず、士郎は左手に描かれた令呪を掲げる。それを見て説得するのは不可能と悟ったのか、遠坂は

溜息を付く。士郎の催促通り令呪の使い方を教える遠坂。やっぱり、不安だ。俺も士郎について行った方がいい

かもしれない。それを言うと士郎は首を横に振る。



「祐一は遠坂と一緒に行ってくれ」



「ばっ、俺だって何も出来ないぞ! 俺がついていったって足手まといにしか」



「何があるか分からないからこそだろ! 俺なら大丈夫」



 自信に満ちた士郎の言葉に、俺は何も言う事が出来ず黙り込む。だが、不安だけが大きくなるばかり。しかし

これ以上士郎に言っても、首を縦に振る事はないだろう。俺に出来るのは、無理はするなという言葉だけ。



「あぁ、大丈夫。俺だって無茶はしないさ」



 その言葉を言い終えると同時に、士郎は二階へ向かって駆け出す。士郎の後姿を見送り、俺は遠坂達と共にこ

の階にある結界の基点の一つがある場所へとへ走る。鮮血に染まる廊下は、見ているだけで気分が悪い。こんな

状況、早くどうにかしないと。



「場所は分かってるのか?」



「えぇっ、場所は前と変わってないわ。急いで破壊して、士郎のところへ急ぐわよ」



 遠坂の言葉に無言で頷き、三階の宿直室へ向かう。その部屋の天井に張ってあった基点の一つを遠坂が無効化

する。他の場所にもあった基点を破壊し、最後の基点がある屋上へと再び向かう。最後の基点が屋上にあったの

なら、最初の時点で無効化しておけば良かった。後悔が胸を過ぎる。

 途中、屋上の通り道に倒れた名雪達と苦しそうに座っていた舞を見て、心が痛んだ。ドアを蹴破り、実体化し

たアーチャーが基点の位置を探る。



「遠坂、早く」



「分かってるわよ、急かさないで!」



 給水塔近くのフェンスに近寄り、地面に描かれた魔法陣に遠坂が魔力を注ぎ込む。魔力が注がれ、基点がぱき

んと破壊される。これで全ての結界の基点は破壊された筈だ。それを裏付けるかのように、程なくして学校を包

んでいた鮮血結界が消えた。



「士郎の所へ急ぐぞ!」



 士郎が向かった二階へと全速力で向かう。だが、その俺達を足止めするかのように三階に降り立った時、



「な、なんだコイツら――――!?」



 青白い骨で出来た骸人形スケルトン達が俺達の行く手を阻んだ。人間の骨とはまったく違う、得体の知れない骨

で出来た人形。それがうじゃうじゃと、様々な武器を手に持ちながら所狭しと並んでいる。



竜牙兵ドラゴントゥース……!? 何でこんな所に……」



 名前をそのままの意味で取るのなら、あれは幻想種たる竜の骨で作られた人形という事になる。何でそんなも

んが今、この状況で、この学校の中にいるのか分からない。ライダーの仕業なのか……もしくは、これはまった

く別物なのか。それを考えていても仕方がない。今はこの目の前に立ち塞がる異物を排除するのみ――!



「ちっ、相沢君にアーチャーお願いっ!」



 遠坂にはあれと肉薄して戦うような身体能力は持ちえていない。なら、それを出来る俺とアーチャーがあれを

蹴散らす。それを遠坂が背後から援護する。魔術師らしい戦い方だ。そして、適材適所がなされている。

 俺に出来るのは、七夜の技を使っての格闘戦。魔術での援護など以ての外だ。聡明な遠坂らしい、判断の速さ

と決断力である。俺が走り出すと同時に、遠坂の後ろに控えていたアーチャーも飛び出す。弓兵の名を冠するに

も関わらず、手に持つのは二振りの双剣。先頭を走っていた俺を一瞬で追い越し、手に持った陰陽の双剣を振る

い、襲い掛かってくる竜牙兵の攻撃を受け、いなし、払い、そして一度の反撃で葬り去る。だが、アーチャーの

攻撃によってばらばらになった死骸は、瞬きした次の瞬間には復元していた。

 俺に向かって襲い掛かってくる竜牙兵も同じく、すぐに元に戻っていく。蹴り穿ち、切り刻んでも効果はまっ

たくない。遠坂のガンドで破壊される竜牙兵も同じだ。



「くそっ、再生するとかバーサーカーかこいつら! いや、どちらかっていうと吸血鬼……」



 自分の舌打ちと愚痴で気付く。恐らく、こいつらの再生の原理は吸血鬼と同じ復元呪詛なのだろう。幸いなの

は、吸血鬼ほどの戦闘力と思考能力がない事か。それほどの能力を持っているのがわさわさいたら、勝ち目など

ない。こいつらはただ与えられた命令をこなすだけの傀儡。魂のない人形だ。

 だけど、何度も何度も再生されれば厄介なことこの上ない。再生させない為には、完膚なきまでにこの竜牙兵

達を破壊する必要がある。一度アーチャーと共に遠坂の下まで下がり、竜牙兵から距離を取った。



「遠坂、何かこいつらを一掃出来る魔術ものないか? 再生ができなくなるくらい奴」



 がらがらと耳障りな音を立て俺達を包囲する竜牙兵を見ながら、遠坂に打開策を求める。こうしている間にも

一人で二階へと向かっていった士郎に、危険が迫っているのだ。結界は解除されて学校の皆の命は助かったが、

士郎が死んでしまっては意味が無い。誰一人死ぬことなく、終わらせる……。



「とっておきで吹っ飛ばすから、五分ほどアーチャーと時間を稼いで。私にあいつらを近づけないで」



「あいよ、了解――――!!」



 言い終わる前に、俺とアーチャーは竜牙兵の集団の中に特攻する。骨がぶつかりあう音を立てながら、竜牙兵

が手に持った凶器で襲い掛かってくる。だが、動きが遅い。

 赤い槍を持つランサーの十分の一程のスピードも無い。常人の身体能力では避けきれるかどうかだろうが、俺

にとっては問題は無い。



―閃鞘・八点衝―



 『閃鞘・八点衝』で竜牙兵の骨の繋ぎ目を狙って切り刻む。竜牙兵がばらばらに崩れ去り、骨の骸が出来上が

るが復元呪詛によってすぐに再生。ひたすらに襲い掛かってくる人形を必要最低限の動きで、可能な限り再生に

時間がかかるように破壊していく。二刀の陰陽双剣を振るうアーチャーも遠坂に近付こうとする竜牙兵を優先的

に排除している。



「……」



 その戦い方に息を呑む。アーチャーは弓兵の筈だ。ならば、その戦闘スタイルは弓と矢による遠距離攻撃。だ

が、アーチャーは双剣を自在に操り竜牙兵を葬っていく。鍛え抜かれた剣技から、アーチャーが本当はセイバー

ではないのかと幻視する。その疑問は、俺を叱咤するアーチャーの声で霧散した。



「戦場で止まる事は死ぬ事だぞ、相沢祐一!」



 その言葉ではっと我に返る。目の前には無数の竜牙兵。手に持つ武器で、俺の命を絶とうとしている。咄嗟に

バックステップで攻撃を回避した俺の横数センチ先を、いくつもの風を切る音が通り過ぎた。風を切りながら飛

来した矢群は、竜牙兵を貫く。

 アーチャーの放った矢が真横を通り過ぎた瞬間、少し冷や汗を覚えた。だが、どこかでアーチャーがあの矢を

外すことはないと確信していた自分がいる。やはり、アーチャーの本分は弓なのだ。今の正確な狙撃で、それを

再確認させられた。



「ふん、貸し一と言った所か。戦場で敵から眼をそらすな」



 皮肉めいた忠告を投げかけられる。黒塗りの弓を携えていたアーチャーはそれを消し、再び双剣で進撃を開始

した。確かにその通りだと自己反省をし、俺も再び竜牙兵の掃討に入る。何体目かを倒した時、遠坂から準備完

了を告げる声が聞こえた。



「どいて! 相沢君、アーチャー!」



 廊下を力の限り蹴り上げ、遠坂の背後まで一気に飛び下がる。入れ替わるように遠坂が俺達の前へ出て、右手

の指の間に宝石を挟み込んで詠唱を始めた。



「―――Acht八番Vier四番……! Salve射撃.Ein Korper ist ein Korper灰は灰に 塵は塵に―――!」



 詠唱が進むと共に、遠坂の指に挟まれている宝石……トパーズとサファイアが光を放つ。それを竜牙兵の集団

に向かって投げつける遠坂。二つの宝石は俺達の視界から消えると共に、竜牙兵の中心で爆発を起こす。蟻のよ

うに群がっていた竜牙兵どもは、それで骨の大部分は全て吹き飛んだ。

 多少、校舎に魔術による被害が出ているが気にしている時間はない。



「もうっ、貴重なトパーズとサファイアを使う事になるなんて!」



 残骸が残る廊下を駆け抜けながら、遠坂が愚痴を零す。



「そんな事言ってる場合か! 急ぐぞ!」



 嫌な予感が沸々と湧き上がる。この予感、杞憂であってくれ……! 懇願にも似た願いを胸に押さえ込みなが

ら、俺達は二階へと向かう。

 二階へと降り立ち、すぐに気配を探る。すぐ近くに人の気配が二つと、異質な気配が一つ……。そして鼻の奥

につんと鉄の匂い。人の気配は士郎と敵のマスター、異質な気配は敵のサーヴァントだろう。士郎は何故かセイ

バーを呼んでいない。血の匂いは明らかに士郎のもの。



「凛、すぐそこだ」



「アーチャー、相沢君と一緒に先陣を切って!」



 アーチャーは頷き、俺と共に全速で走りだす。周りの景色が忙しなく変化しつづけるほどに、速度を維持した

まま走り続ける。アーチャーはなんら感じていないようだが、魔力を脚に込めながら『妙法速技・疾駆』を使っ

て走っている俺はかなりきつい。過度の酷使のせいで脚への負担が大きすぎる。

 それを無視し、段々と近付いてくる血の匂いと物音を感じながら目的地への最後の道を駆け抜け、廊下を曲が

った。その先にいる士郎の姿を脳裏に投影しながら。



「しろ……!」




がっしゃぁぁぁぁぁぁぁん!!!




 ―――何かが、校舎の窓ガラスを突き破りながら視界から消えた。



「…………ぇ?」



 一瞬の間際に見えたその“何か”が何であるかを理解した俺は、呆然としてしまう。脳が目の前の現実を受け

入れられず、真っ白になる。



「はっ、やっと死んだか……ん、相沢?」



 赤い血で染まった穂群原学園の制服。燃え盛る火のように赤い髪の毛。――――衛宮士郎が、血だらけになり

ながら窓ガラスを突き破り、落ちていった。敵の――――間桐慎二のサーヴァントによって、衛宮士郎は死んで

しまった。



「はっ、相沢もこっち側だったのか。でも遅かったな、衛宮はたった今僕のライダーが殺したよ。まったく……

本当にしぶとい奴だったな。ま、あの様子じゃ令呪を使ってサーヴァントを呼ぶ暇も無かっただろうね。僕に従

えば死なずに済んだのにさ。馬鹿な奴」



「慎二、アンタ……!」



 間桐と遠坂の言い争うような声が遠くに聞こえる。自分の意識が、ゆっくりと闇に沈んでいくような感覚。俺

は、また目の前で大切な人を失うのか………何も出来ないまま、失ったのか…………?



(祐一、落ち着け――――!)



 七夜の声が聞こえる中、先ほどの一瞬の光景がフラッシュバックする。



――士郎を殺そうと向かっていくライダー。満身創痍で心身ともにぼろぼろである士郎はその一

撃をなんとか耐えようと折れたモップを構える。ライダーの放つ同じく“ぼろぼろ”である短剣が跳

んでくる。それを驚異的な反射神経と動体視力でなんとか弾く。が、ライダーは構わず肉薄する。

それに反応しきれない士郎。ライダーは確実に士郎を殺す為、確実な方法を取った。

……窓から叩き落す。後ろ回し蹴りで士郎の鳩尾を蹴り抜く。内臓によるダメージで士郎は口か

ら血を吐きながら、廊下のガラスを突き破りながら地面に向かって落ちていく。



そして――――地面に激突し、首の骨が折れ士郎はランサーに心臓を貫かれた時と同じようにこ

の世との結びつきが無くなり、死を迎える……。



「………は」



 動悸が激しくなる。はっ、はっと犬のように断続的な呼吸が口から零れる。その感覚が段々と早くなっていく。



(正気を保て、祐一! まだ、死んだと決まったわけじゃ――――)



 俺は………また、助けられなかった。強くなってもうあんな事が起こさせないと誓ったというのに……これじ

ゃ、お笑い種だ……。は、ははと乾いた笑いが小さく零れる。結局、俺には誰も救う事が出来ない。何一つ、救

えやしない……。



「遠坂、これで僕が優秀だって分かったろ? どうだい、今からでも遅くないさ。僕と組まないか? お前と僕

なら、聖杯戦争を勝ち抜ける」



「ふざけんじゃないわよ……目の前で人を殺されて、その殺した奴の仲間になるほど『遠坂凛わたし』は落ちぶれてい

ないわ」



 二人の言い争いも今の俺にはただのうるさい雑音にしか聴こえない……。思考にノイズが走る。そのうるさい

雑音はテレビの砂嵐のように聴こえる。騒音、雑音……排除すべきもの、壊すべきもの――――



―――殺すべきもの



「ぬっ、凛離れろ!」



「えっ、ってきゃあぁぁぁぁ!?」



 右腕に持った『七ツ夜』を振るう。その行動で壊す殺す筈だった『遠■凛』は、『アーチ■ー』によって邪魔され

た。何で邪魔するんだ……? 俺は、騒音ゴミを排除しようとしただけなのに。あぁ――――いらいらする。



(止めろ、正気に戻れ! そのままだと、お前も志貴の作り出した殺人貴・七夜志貴のようになるぞ!)



 脳裏で声が響く。それすらも俺に頭痛を引き起こす雑音にしか聴こえない。酷く不快だ。五月蝿い。『■■』、

俺の意識から消えろ。二度と出てくるな――――



(祐――――)



 ぶつんと音がして、頭の中から『異物』が消える。それで頭の中に直接響いてくる騒音は排除できた。次は、

外部から響いてくる騒音の原因を殺す……。これ以上、俺に頭痛を引き起こさせるな。



「ちょ、何するのよアーチャー!」



「……今の相沢祐一の近くにいることは、死を意味するぞ。衛宮士郎を殺された事で、奴の中の理性と感情が完

全に壊れたらしい。今の奴は、歩く殺戮者だ」



「シンジ、アーチャーの言う通りです。今の彼は――――」



 騒音どもがきーきーと喋っている……。あぁ、鬱陶しい事この上ない。邪魔なものが喋るなんて、可笑しいだ

ろう……? だから、お前ら全員、この場で排除してやる……。



「……は。ははは、あははははは。あははははははははははははははは!」



 狂笑うわら哂うわら嗤うわら。まったくもって可笑しい。何が可笑しいのか分からないが、全てが可笑しく見える。も

う自分と言う存在自体が、可笑しい。分からない、自分の存在自体が分からない。俺はひたすらに哂い続ける。



「な、何だよアイツ……。狂ったのか?」



「相沢君……」



 男と女の声が聞こえる。今の俺には、耳に入る音全てが雑音にしか聞こえない。なら――――耳に入ってくる

雑音を作り出している元凶を、排除するだけ。



「はぁ、騒音が何を喋ってるんだ。さっきから五月蝿いんだよ……俺の耳に騒音を響かせるな。今すぐ殺してや

るから、それ以上囀るんじゃない。まずはそこのゴミ、お前だ」



 女の後ろに隠れるようにして立っている男を指差す。見た目からして、対して強くなさそうだ。さっさと殺し

て、もっと楽しい殺し合いがしたい……。ゴミと言われた事に腹を立てたのか、その男は引き攣った表情になっ

た。



「ご、ゴミだって……? は、人間がサーヴァントに勝てると思ってるのかよ。ライダー、相沢を殺れ!」



 囀る男の言葉に従って、女が俺に向かってくる。そうか……お前から先に死にたいのか。なら、望み通りお前

から解体バラして殺してやるよ……。



「……っ」



 短剣を構え、俺に襲い掛かってくる『獲物』。動きが遅い、遅すぎる。もっと、もっと早く動け。そんなんじ

ゃ、一瞬で終わってしまう。少しでも俺を楽しませてくれ。女の持つ短剣が投擲され、 ゆっくりと俺の体に突

き刺さる。ぞぶりと、肉が貫かれる感触。



「……は」



 肉が貫かれて痛みが全身に走る。その感触に、その痛みに、流れる血の匂いに快感すら覚えてしまう。くらく

らして、頭が狂いそうだ。いや、もう既に狂っているのかもしれない。短剣に体を貫かれたまま、俺は近付いて

くる女を見据える。



「そんなんじゃ、つまらないだろ……っ」



 短剣を抜く事もせず、不用意に近付いてきた女へと滅茶苦茶に斬りかかる。最早、技とも呼べないただ我武者

羅に手に持った武器を、振りかざす。女は回避するために間合いを離そうとする。だけど逃がすか、獲物は獲物

らしく狩られてりゃいいんだよ。



「獲物が動くんじゃねぇよ……」



 魔眼を解放する。即座に言霊と共に、動こうとする女を空間ごと閉鎖した。



「なっ!?」



 空間に囚われた女が驚愕の声を出す。動けず、動かせれない。相手は五体を満足に動かせず、逃げる事すら叶

わない。唯一働くのは視覚恐怖聴覚悲鳴嗅覚血臭痛覚痛み。何も出来ず、どうする事も出来ず、ただ恐怖が近づくのをひた

すらに待ち続けるしか出来ない。

 ―――さぁ、恐怖の悲鳴を、断末魔の叫び声を俺に聴かせてくれ。空間に閉じ込められ足掻いている獲物の前

に立ち、短刀で滅多刺しにする。



「あはははははは! ひゃぁははははははははは!」



「ふぐ、あぅ、がぁ、あぁ!」



刺して刺して刺して刺して刺して刺して刺して刺して刺して刺して刺して刺して刺して刺して刺して刺して刺し

て刺して刺して刺して刺して刺して刺して刺して刺して刺して刺して刺して刺して刺して刺して刺して刺して刺

して刺して刺して刺して刺して刺して刺して刺して刺し続ける。

 刺し貫く毎に肉を貫く感触、引き抜く際の苦痛の声、手に付着する血液の匂い、苦悶に悶える恐怖の表情が俺

をさらに狂わせる。その内に、獲物からは何も聴こえなくなった。もう終わりなのか? ……もっと、もっと俺

に断末魔の悲鳴を聴かせてくれ。呆気なさすぎるだろう……。



「ひ、ひっ……な、何だよコイツ。壊れてやがる……近づくな、この僕に近づくんじゃない!」



「……あい、ざわくん」



 ――さっきから五月蝿いな、この虫けらは。あぁ―――いや、この男なら恐怖の断末魔を、際限なく俺に聴か

せてくれるかもしれない。



「はははははは……あははははははははははは!」



 もう元には戻れないんだ。なら、俺はここで壊れてしまえ。そうだ、壊れろ。もうお前はとっくに壊れている

んだ。異常者なんだ。もう何にも縛られない。お前は自由だ。好きなだけ際限なく……



――全てのものを殺し尽くせ――



 ――俺は、ここで壊れた。

BADEND 壊れた心


風雲、初のバッドエンド到達タイガー道場♪

師匠「これがこのSS始まって初めてのバッドエンドだ!」

弟子1号「うわー、いきなり壊れちゃったねーユウイチ」

師匠「うむ。今回の敗因は士郎について行かなかった事。無茶をする士郎にはストッパーが必要なのだ」

弟子1号「シロウってば、他の人を助ける為なら自分の事なんか考えないからね」

師匠「その通り。それが士郎のいい所であり、悪い所でもある」

弟子1号「結局、ただのあほって事よね」

師匠「ちょいあぁーーー!!」

スパァン!

弟子1号「痛いっす、ししょー」

師匠「馬鹿者! うちの士郎を捕まえてあほとは何かあほとは!」

弟子1号「え〜? でも士郎が突っ走らなかったらユウイチも壊れなかったんだよ?」

師匠「そんなことは知らぬ! 全国の相沢君達よ、もう一度出直してこい!」

弟子1号「さて、次回のバッドエンドはあるのかな?」

大河「それは言っちゃだめよ、イリヤちゃん」

イリヤ「は〜い」

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